二十一話 どこからがストーカーですか?

 目を細める三船先生。


 「……一応言っておくぞ。捜査ならやめとけ」

 「はい」

 「空返事だなあ、もう……それと、保健室で女子が待っているけど」

 「今日は、このまま帰ります」

 「お前は本当に酷いヤツだよ」


 ――などと言うやり取りの後、僕は一応の帰路についた。

 意外にも三船先生から、それ以上の引き止めが無かったからだ。


 いわく、ここで引き止めなくても大丈夫だろ――との事。


 「……だよなあ」


 その意味を、僕は理解している。

 だから、保健室にはえて戻らなかったのだ。


 「そもそも、家でノホホンと推理する余裕なんて無いし」


 事件直後から妙に体温が高くて、それどころでは無い。

 アドレナリンとか、そういう物質が分泌されている。


 目を閉じれば、あの光景がよみがえるし。


 「犯人を捕まえないと……そうしないと」


 ポケットに手を突っ込み、僕は怪文を握りしめる。


 「他にも、誰かが殺される――ですか?」


 後輩女子の声。

 僕はその方を向く。

見上げる。


 「……ずいぶん、攻めたもの履いてるんだな」

 「お褒めに預かり光栄です」


 褒めてないよ、かすみ。

 でも、良いと思う。


 「よっと……」


 後輩女子かすみは、どっかの民家の塀の上から路上に着地する。

 どんな登場だ。忍者め。


 「こんばんわ、先輩。頼られに来ました」

 「頼んだ覚えは無い」

 「でも、先輩。あのまま保健室に戻らなかったのって、そういう意味ですよね?」


 望空のいる保健室に、僕は戻らなかった。

 それは彼女が鬼であるかもしれないから。


 そして、場所を変え、かすみと密談しなければならないからだった。


 彼女なら、僕の動きには敏感に反応する。

 反応して、必ず真意を読み解こうとする。


 それを見越しての行動だった。


 「……借りは、最小限に抑えたいんだ」

 「つまり、どういう意味でしょう」

 「協力はして欲しいけど、深入りするな」


 かすみはこれを聞いて、指先を髪先に伸ばす。


 「私を気遣ってくれるんですか。優しいんですね」

 「違う。状況をややこしくしたくないんだ」


 僕はそう言い、視線を逸らす。


 この事件は早く解決しないといけない。

 でなければ、何人も死ぬ。

少なくとも、あと二人。


 それを防ぐ為なら、危ない橋も渡らなければ。


 「この事件は連続殺人だ。ただでさえ、ややこしいんだよ」

 「連続殺人……根拠は何でしょう」

 「手紙だ。昨日、下駄箱に入ってた怪文――」


 僕は怪文をかすみに見せた。


【これが届いて、一度日が落ち、昇る頃、君はムクロを見つけるだろう。

 これが届いて、二度日が落ち、昇る頃、君は信者を殺すだろう。

 これが届いて、三度日が落ち、昇る頃、君は太陽に祈るだろう。】


 「――この、殺人予告だ」

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