十八話 青には色々ありますか?

 僕はスーッと息を吐く。


 バタフライエフェクト。

 歴史の改変。

つらつらとよくもまあ……。


 天使による生き返り。

 そのチープなファンタジーを見せられたかと思ったら、今度はSFサマのおでましだ。


 「もう、何が何だかサッパリだよ」

 

 天使は僕の心からの叫びを聞き、肩をすくめる。


 「六割が理解できない話だ。でも、君はこの可能性に気付いていただろう?」

 「……何でそう思うんだよ」

 「君にしては素直な反応で、私の説明もおぎなってくれていた」


 普通――SF小説での普通だが、

 バタフライエフェクトはタイムトラベルと合わせて語られる。


 タイムトラベラーが過去で小さな変化を起こし、その変化が未来の世界に大きな影響を及ぼす。

 よくある話だ。SFでは。


 僕ですら、そうした発想にぶつかるのが難しくない程に。


 「つまりは、気付いていたにも関わらず、私に説明させたわけだ」

 「……可能性として考えてただけだ。確証が無かったんだよ」

 「だから、私を利用したわけだ」


 利用した――とか、よく言ってくれる。

 素直に聞いて、はいはいと説明してくれる人物だったなら、僕はこんな苦労をしなくて済んだのだ。


 「見事な罠だよ。アッパレだ」

 「……どうも」

 「アッパレついでに言ってやろうか。君の変化で未来は変わった。それでも大まかな所は変わっていない」

 「さっき聞いたよ」


 僕の返答に、天使はさっきと同じ笑顔。


 「君の死は、まだ確定したままだよ」


 顔を歪める僕。


 「だから、ゲームも終わっていない」


 想定外のことでは無い。

 ゲームが終わらない。

ゲームの終了が天使から告知されない。


 それは僕が殺される未来が、まだ存在しているからだ。


 しかし、一応は聞かなければ。


 「学校で既に殺人事件が起こったのに、僕の殺人も変わらず起こるってのか」

 「そうだよ。君の殺人は、姫野琴葉の殺人の果てに起こる」


 状況がこれだけ変わって、それでも同じことが起こるのか。


 「大丈夫。君の殺人は世界にとっても大事おおごとだから」

 「何……?」

 「過程が変わっても、中身に変化は出ない」

 「どういう意味だよ」

 「つまり、君は前の世界と同じ手口で、同じ犯人に殺される」

 「それの何が大丈夫なんだ……」


 歩き、天使は僕の手前まで来る。


 「推理は、前より難しくない。むしろ、簡単になっただろう」

 「簡単に……?」

 「ああ。この一週間で起こることに、意味の無いことは無いからね」


 僕を見上げる、コバルトブルー。


 「姫野琴葉の殺人は、君の殺人に関係している」

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