四十二話 その天使は見つめていますか?

 落下地点。

 半分が潰れた頭、折れ、千切れた首と胴体。

またもムクロ。琴葉の事件に重なる死体。


 降り続く雨の中、僕は上を見上げる。

 

 校舎に繋がる電線。そのさらに上に屋上。


 組み上がる。


 かすみは屋上から落ち、その途中で、彼女の首は電線に引っ掛かった。

 首はその衝撃で折れ、電線により千切れた。

その結果がこの状態なのだろう。


 「黙れ」


 僕は自分で自分の頭を殴る。


 考えて、それでも、琴葉は殺された。

 それでも、日葵は殺された。

それでも、かすみは殺された。


 既に何回も失敗している。

 なのに、まだ考えるつもりなのか。

考える事をやめないのか。


 逃げ続けて……逃げ続けて……なのに。


 どれだけ恥知らずなのだ、僕は。


 見上げ、雨を感じる。

 ぼやける景色。その向こう――


 ――見下ろす人影。


 「……ッ!」


 犯人がまだ上に。 


 死体を置き去りに、僕はまた走り出す。

 誰もいない校舎に入り、階段を上る。

1階……2階……


 息切れを起こすも懸命に。

 頭を起こす事さえできず、地面を見下ろして。


 階段途中、ゴムパッキンの上に残る、赤い斑点。


 「……これは」


 恥知らずな頭に、何かが響く。


 その後、目を見開き、さらに上り、3階。

 ビュービューと、風吹く廊下。


 頭を振り、さらに上り、ドアを開けて屋上。

 風吹くそこで息を乱し、辺りを見回す。


 「逃げたか」


 誰もいない。

 目的を達成し、犯人は逃げた――


 「そうじゃない」


 思考の先読み。僕の背後から声。

 軋む、ドアの音。


 振り返り、拳を横に振る僕。

 そいつは頭を下げ、避け、僕の懐に飛び込む。


 「ウァアアッ!」


 浮かび上がる一瞬。

 もがく僕を抱え上げ、コンクリートに叩き付ける。


 「……アアッ……」


 頭がガンガンして、まともに喋れない。

 急速に、世界から色が消えていく。


 「許せよ。あっくん」


 望空じゃない。

 外の世界から来たらしき、見知らぬ男。

顔はボヤけて見えない。


 「これは必要な事なんだ」


 理解不能な事を言って、男は去ろうとする。

 動けない僕に、何をするでなく。


 「あ……て……」

 

 肩をすくめ、振り返る男。

 茶色いトレンチコート。


 「……偏屈作家いわく、最初のタイムトラベラーは守護天使だった」


 またもポエム。いい加減にして欲しい。

 みんなで集まり、詩集でも出すつもりなのか。


 「書簡。大切な手紙を運ぶ天使。お前の場合は誰だろうな」


 男が消え、しばらくして、匂い。

 

 薄れる意識。スズランの匂い。

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