四十一話 思いを合わせてみませんか?

 光の中、雨の中。その遠く。

 僕の方を向いて、それから、後ろを振り返るかすみ。

ここから見えはしないが、誰かいる。


 「やめろ……」


 三回目。何度も味わった感覚。推測。


 後輩女子は殺される。


 騎士が殺されたように。

 妹が殺されたように。


 「やめてくれ」


 僕の嘆きも虚しく、かすみは首を振り、そいつから逃れようとする。

 足を踏み出す。踏み外す。

 

 そして、下へ落ちていく。

 視界に映る黄色の口、紅葉の中へ。

 

 「やめて……」


 全部全部が過去の事。

 全部全部が僕のせい。

20年前、10年前、3年前。


 20年前、父を止められなかった事。

 10年前、妹を壊してしまった事。

3年前、誰かに口走ってしまった事。


 「これ以上……」


 だから、罪が生まれた。

 だから、罪が殺された。

だから、僕は生きて来た。


 赤を洗い流したのも、黒に焼き付けたのも、僕だったのだ。


 僕は涙ながら、ようやく自覚する。

 これは、僕が始めた事。


 重なり見える。

 ある日の父が言っていた事。


 ――お前が、殺人へと夢中になっていたから


 『だから、お前は俺と一緒なんだよ』


 硝煙の臭い。父親のにおい。

 僕は殺人へ惹かれ、鬼なんて捕まえられない。


 探偵には今更なれない。

 けれど、鬼になってしまうのは、どうしても嫌だった。

鬼であると決まってしまうのが、酷く怖かったから。


 『私が背負ってあげる』


 あの人よりも、あの人らしく。

 あの時、彼を愛している彼女なら、鬼になってくれる。

僕以上の鬼を演じてくれる。そう思った。

だから、すがりついた。


 どうなっていた?

 僕が、彼女に押し付けなければ――


 彼女たちは笑って生きていたはず。

 過去を忘れ去ってしまえたはず。


 「壊さないで」


 僕のいない世界で、彼女たちは、平和に暮らしていたはず。


 だから、僕の死は願われた。

 だから、ゲームが始まった。


 それなら、どんなに良かったか。

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