五十話 

 戸が開く音。続いて、望空が立ち上がる。

 視線は僕の向こう、戸を開いた者へと。


 「そう……あなただったのね」


 僕は身をよじって、望空が話している相手を確認しようとする。

 けれど、僕からはちょうど死角の位置。

そこにそいつは立っている。


 犯人は、あの男か。

 犯人は、三船先生か。

犯人は、未だ登場していない誰かか。


 それとも、望空はまた演じていて、彼女がやはり犯人なのか。


 答えを、僕は知っている。


 「大人しく、死ね」


 視界の外へ望空が駆けていく。

 ドタドタと激しい音。弾ける火花。


 汗が滝のように流れ、僕の歯はガチガチと鳴る。


 落ち着け。まだ考えられるはず。


 「グアアアッ……アッ……」


 悲鳴。呻き。


 「……あー……さま……」


 恐らく、僕はここで殺される。

 こんな所で。

何もかもを終わらせられないまま。


 「あ……お…………く……ん……」


 背後に気配を感じ、僕は椅子を倒す。

 後ろへと。


 「……ッ!」


 合う瞳。青い瞳。


 「天……使……?」


 干からびた瞳。


 彼女は死んでいた。

 ここで死んでいた。


 いつからなのか。

 いつから、僕は彼女では無いものと……


 「バタフライエフェクト……」


 ――蝶を踏み潰したとして、それに気付ける人はいないのさ


 幽霊。

 いや、ずっと……僕は幻を見て。


 「あ……」


 首に走る、赤い線。滑り終えるナイフ。


 血しぶき。



 そして、暗点。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る