五十三話 茶番を終わりにしてしまおう。

 僕は息を吐く。

 二人に気付いたあの時、全て思い出したのだ。


 一回目のタイムトラベルで何があったか。

 誰が殺されたか。

僕が、この瞬間をどれだけ待っていたか。


 「……ヤだなあ」


 犯人は肩をすくめ、顔を作る。


 「ジョークですよ、ジョーク」


 いつもの顔。いつもの口調。


 「会長が驚く様が見てみたかったんです。要はドッキリですよ」

 「そんな、ナイフまで持って……?」

 「そうじゃないと、リアリティが無いじゃないですか」


 惨殺、毒殺、対峙、落下死。

 一連の犯人は、彼女以外あり得ない。


 「ねえ、先輩?」


 阿佐ヶ谷かすみ。いや――


 「お前に、先輩と呼ばれる覚えは無い」


 なぜ彼女は、琴葉、日葵、望空――そして、僕を殺そうとしたのか。


 「明かしてやるよ。お前が犯す、全てについて」

 「犯す……?」

 「そうだ。僕には未来が分かるんだ」


 笑う、後輩女子。


 「あははは……先輩。自分がおかしい事言ってる自覚あります?」

 「あるさ。だから……黙って聞け」


 ふっと消える笑顔。


 そうだ。強気に攻めていいはず。

 僕には分かっている。


 一つの未来の可能性。

 順番は変わっても、内容は変わっていないだろう。


 「まず、望空を殺したなら、お前は琴葉を殺そうとする」


 一回目と同じように。


 「なぜなら、琴葉が一番殺しやすいからだ」


 琴葉は最初の時点から、一番殺人に近い人物。


 「なぜなら、琴葉が殺人を計画しているからだ」


 僕が後ろを見ると、望空は苦い顔をしていた。

 薄々、そういう推測は持っていたのだろう。


 「……琴葉は殺人を計画している。お前の言っていた、最近の妙な行動はそれの準備だった」


 準備。簡単だが、複雑な仕掛けの準備。


 「密室トリックの準備。琴葉はそれをしていた」


 密室トリックは三種類に分けられる。


 抜け穴が用意されていたか。

 密室内に、最初から殺人犯がいなかったか。

あるいは、内側からドアの鍵が閉められているように見せかけたか。


 「必要なのは、穴を開けた机、人員。それに一枚の鏡、血ノリ、赤い布だった」


 今回の場合、用意されていたトリックは、三種類のどれでも無い。


 「マジックの種に、スフィンクスってのがある」


 偽の生首のトリック。


 「穴の開いた三本脚の机、その足と足の間に、鏡をはめておく。そして、その机の周りは黒い壁や床で覆っておく」


 机の周り。右横、左横、背面、床。

 そこに同色の黒い壁や床を当て嵌める。


 すると、鏡には、机の周りの同色、黒い壁や床が映る。

 鏡の存在を知らない人からは、鏡がはめられた机の下に何もない空間がある。

そういう風に見える。錯覚させられる。


 「あとは、人間が机に開けられた穴から、顔を出せば、偽の生首が完成する。そういうマジック――トリックアートの応用だ」


 このマジックのトリック。

 これを、琴葉は応用したのだ。


 一回目の時間軸においては。


 

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