五十四話 操り男子は歌っているか。

 「琴葉は、マジックのスフィンクスを使って、殺人を犯した――いや、犯すつもりだ」


 あの時。一回目のタイムトラベル。琴葉の殺人事件が起こった時。

 あの時間は、日の出の前で、暗く――

もともと同系色の壁と床は、どちらがどちらか、区別がつきづらくなっていた。


 「スフィンクスを使えば、生首のフリが出来る」


 鏡に床を映し、生首のフリが出来る。

 近寄ったり、覗き込んだりしなければ。


 「被害者を殺して、その死体を首無しにしてしまい、第一発見者の前、自分は生首のフリをする。そうすれば、発見者がいなくなってから逃走できる」


 発見者に見抜かれなければ。


 「でも……三本脚なんて教室の中にあったら、バレバレですよね?」


 かすみのように笑いながら、彼女は問い掛けて来る。


 三本脚。三本、足が付いた机。

 それが、教室の中にあったら――と。


 「……スフィンクスを使う――と言っても、それを、そのままトリックとして使うつもりじゃないんだよ」


 琴葉は、創意工夫を凝らし、スフィンクスから応用を行った。


 「スフィンクスには、鏡が三枚必要なんだ」


 三本の足の間に、それぞれ三枚。


 「けれど、このトリックに必要な鏡は一枚だけ」


 なぜなら、ここでも、犯人による予測が行われていたから。

 予測により、間接的に誘導。


 「僕が死体を見るのは、決められた条件の下だ」

 「条件……」

 「回数だって決められている。一回目は前側、引き戸の窓から。二回目は教室内の真正面、近すぎない位置から」

 

 ――先生っ!


 あの叫び声。あれにより、先生は僕を引き止めた。

 これ以上、死体に近寄らないように。


 「僕は、前側の引き戸の窓からしか、最初に死体を確認する事が出来ない」


 机が積まれていて、後ろの引き戸の窓からは見えなかった。

 それに、他の窓には、すりガラスが嵌められていた。


 「僕は、まじまじと、近い位置で死体を観察出来ない」


 望空の叫び声があったから。

 それだけでなく、僕が知人の死体を受け入れられていなかったのも大きいか。


 「二つの位置でしか僕が生首を見ない様にすれば、鏡は一枚でいい。床を映す様に斜めに、机の足と足の間、僕へ向かって正面に一枚だけで」


 僕が見る正面に、一枚だけで。

 そして、鏡と壁の間に犯人は隠れていればいい。


 「全て、琴葉が――犯人が、そう誘導していたならば」


 誘導。

 それは望空についてもそうだ。


 ――中では誰が殺されていたの?


 一回目。事件発生時、彼女は現場を見て、何かがおかしいと直感した。

 だから、僕を危険から遠ざけようとした。


 毒針を回収した時も同じ。


 ――あなたが好きだから


 「そして、その琴葉はさらに、お前に誘導されようとしている」

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