三十四話 その合理は誰が為ですか?

 差す、オレンジ。

 誰もいなくなった、生徒会室。


 琴葉と日葵――

 望空と、かすみだって今はここにいない。


 望空は、事態を整理しに、職員室まで説明に。

 かすみは、妹に付き添って、救急車まで見送りに。

建前上は多分そう。


 そして僕は、妹に付き添うフリすらしなかった。


 彼女が死んでしまう事は分かっていたからだ。

 だから、合理的な判断を下した。


 とても合理的な判断。

 とても合理的な判断。

 とても合理的な判断。


 合理的な犯人だから。

 僕は、その上を行かなければいけない。


 全ては、犯人の計画通りだった。


 どう見ても殺人としか思えない方法で、密室殺人を行う。


 その目的は偽装。

 三船祥子を犯人とするための偽装だ。


 「殺されなきゃならない」


 一つしかない鍵。これを使って、三船祥子を犯人にした。

 真犯人が仕立て上げた。


 密室殺人に出会った時、その違和感に気付ける人間はそう多くない。


 大抵の人は、普通に、犯人が鍵を使って、部屋へ侵入したと考える。

 そして、あの状況で鍵が使えた人間は、恐らく一人だけ。


 「間違いは正されなきゃならない」


 教諭である、三船祥子だけだ。

 少なくとも、警察はそう考えている。


 あの時間、あの校舎に、教諭が三船だけなのは想像に難くない。


 三船先生は、生徒会顧問であり、とても早くから職員室にいる。

 寝坊という例外を除いては。


 だから、あの時間、職員室には三船一人だった。


 「……」


 そして、三船は朝早くからいる特権として、鍵を自由に使えたのだろう。


 状況的に、三船祥子はかなり怪しい。

 さらに、三船の職員ロッカーから凶器が見つかったとあっては――


 「もう、言い逃れは出来ない」


 警察による犯人の誤認。

 真犯人は、これを狙って、密室を作った。


 とても綿密な計画だ。

 最後の最後。日葵の毒殺についても。


 「ハッ……」


 毒殺のトリックは簡単に説明が付く。

 説明が付けられるようになっていた。


 どんな風にもやりようがある。

 いくつもの可能性が提示されている。

その目的は明らか。


 ならば、僕はどうするべきか。

 一体どうすれば――


 「フフッ……」


 犯人のした事には、全て意味がある。

 犯人は完璧主義者だから。


 「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ」


 遮られる、陽の光。

 覆い始めた、黒い雲。


 僕が止めないといけない。

 僕が見つけ出さなきゃいけない。

 僕が――


 「……殺さなきゃいけない」


 殺人と触れた、あの時から。

 殺人と会った、あの時から。


 選択肢は一つだけ。

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