十三話 死体は話してくれるのかしら?

 ジャラジャラと鳴る鍵束の音。

 真っ青な顔の三船先生が駆けて来た。


 「待っててね。今開けてやるから」


 駆けて来て、引き戸の前、先生は束から鍵を探す。

 平静を装ってはいるが、動揺からか、その声は震えていた。


 「クソッ……鍵はどれだ」

 

 鍵を探す先生に、僕は聞く。


 「先生、警察への連絡は」

 「通報はした。今は他の先生方が警察の人と電話してる所……あった!」


 使い慣れた鍵の束から、ようやく2-Cの鍵を見つけて、それを差し込み、回し、戸を開ける先生。


 「……っ!」


 戸が開くと、僕は弾かれるように教室の中へ飛び込む。

 飛び込んで一直線、床を端と端の真ん中まで歩き、その後、薄暗い中を見回す。


 むせるような悪臭。

 切り離された死体。


 机で作った列の間、後ろのロッカーにもたれかけ、体操座りさせられた胴体。

 列から離され、床と同系色の壁際、すみの柱のすぐ隣の机一つ。

その上、胴体から切り離され、置かれた頭部。


 頭部が置かれた机には、いっぱいの血液。

 足元、床には線状の血痕が二本。


 本当だ。

 本当に死んでいる。


 「先生っ!」


 望空の叫び声の後、三船先生が僕の腕をつかむ。さらに、死体へ近付こうとした僕は止められた。


 「ダメだ。見ちゃいけない」

 「離して下さい。離せッ!」

 「傷になるッ! 見るな!」


 僕は三船先生の腕を振り払うと、廊下に走り出る。


 猛烈な吐き気。

 見知った人間の惨殺死体を見て、僕はやられてしまったらしい。


 「……ゲホッゲホッ」


 咳き込んでも出て来ない。

 こういう時、そこらのB級ホラーなら山のように吐けるのに。

スッキリせず、かえって不快感が溜まってしまった。


 「そんなになるなら、見なければいいのに」


 心配そうな顔で、望空が背中をさする。


 「ゲホッ……それでも、見なきゃいけないと……思ったんだ」


 姫野琴葉は死んでしまった。

 僕が満たすと決めたのに。

空っぽのまま、死んでしまった。


 それなら、せめてその死は見なければ。

 解明せねば。


 それに、この事件はきっと――


 「あーさま?」


 ぼやける視界に、望空を映す。

 こんな状態は昨日ぶりだ。


 長い髪の少女が僕を覗き込み、その髪は僕の顔に掛かっていた。

 邪魔だ。吐き気がぶり返す。


 「……いい加減、髪型変えろよな……望空………」


 そんな言葉を吐き、僕は意識を失っていく。こんなのが最後の言葉にならないければいいのだが。

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