真相編
五十一話 冬は1.3グラムの憂鬱を感じました。
どれぐらいの時間が経ったか。
それとも経たなかったのか。
「ねえねえ、聞いてますか。先輩」
ぼんやりとした視界に、映し出される瞳。
「ああ、分かりました。先輩、おねむなんですね。しょうがないなぁ」
軋むパイプ椅子、揺れる木製長机。
混ざる秒針、細やかな音。見渡せば、背後、小棚に本棚。
いつもとは違う空間。ここは生徒会室か。
僕は何か――
「先輩……?」
差し出される手。
それを僕は払いのける。
「え……」
「あ……いや……」
隣、後輩女子が眉をひそめる。
阿佐ヶ谷かすみ。
「どうしたんですか」
違和感。
「何か……もやもやする」
まるで、頭の中に霧が掛かっているような。
「それは大変」
正面、巨乳な同級生が両手を広げる。
姫野琴葉。
「……何だよ、それは」
「私を見て、癒されるといいよっ」
このセリフを聞いて、かすみが口を尖らせる。
「姫野先輩、よくもそんな事が言えますね」
「言えるよ。私は
「ふん。騎士気取りですか。だから、最近妙なことを始めている訳ですね」
妙なこと。前は聞き流してしまった気がする。
……?
「探偵稼業は妙なことなんかじゃないって……」
――スパァンッ!
辞書が空を飛び、僕に当たる音。
音。
音の原因は我が妹。佐川日葵。
「二人とも、生徒会室で何をやっているの!」
僕は机に突っ伏して、頬に冷たさを感じる。
そして、違和感を増幅させる。
「あ……ごめん。お兄ちゃん、大丈夫?」
「ありがとう……テンプレ妹よ」
テンプレ妹って何。
「テンプレ妹って何……!?」
まあ、テンプレですよね。
「まあ、テンプレですよね」
僕は机を触り、表面の妙な起伏を確認する。
フタがしてある。穴の上にフタが。
一見すると気付かない見た目。その仕掛け。
「でも、あっくんと血が繋がっちゃってるよ?」
この部屋には、誰かが足りない。
「そこも、最近はテンプレ化してきましたから」
異質な存在であった一人。
「なるほどー。それがろまんって奴かあ」
異常な存在であった一人。
「お兄ちゃん……?」
それは誰であったか。
「あっくん?」
あの日の軽口。あの日の約束。
ずっと後悔していた。
彼女の自由を奪ったのは僕。
なのに僕は、まだその代償を払っていない。
「第二理科室に忘れ物をした奴がいたらしい」
「へえ……そんな所に何でまた」
日常の一コマ。
「確か、お前じゃなかったっけ?」
「あれ……」
唇に指をあてる、一人。
「そうだった?」
ハマらない、一ピース。
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