五十五話 一人っきりの集まりですか?

 「……確認しようか。この一連の事件には、二人の犯人がいる」


 一人は姫野琴葉。

 そして、もう一人。


 「一人。琴葉は、最初に起きた殺人の犯人だ」


 一巡目で、首無しの死体を作った。


 「殺されたのは――」


 彼女の計画殺人により、その死体は琴葉の胴体に偽装されていた。

 少なくとも、僕たちが見た死体は。


 「――阿佐ヶ谷かすみ」


 僕たちが見た死体。

 それは琴葉の胴体などでは無い。


 その時、琴葉は生きていた。

 生きて、生首のフリをしていたのだ。


 つまり、この時点で一人死んでいる。


 それが阿佐ヶ谷かすみだ。


 「ちょっと待って下さい」


 後輩女子は声を上げる。


 「私は、ここにいるじゃないですか」


 背後、望空が鞄を置く。

 その音。


 「ああ……いるな」


 思い出す。かすみの家に行った時の会話。


 「ただし、お前はかすみじゃない」


 ――前にも来ましたっけ

 ――ああ。一回だけな


 欠落した記憶。それが何よりの証拠。


 「この学校には、行方不明の女子生徒がいる」

 

 警察――花屋たちがそう言っていた。

 そして、ここからは、僕の推測。


 「多分、そいつは自分から選んで、行方不明になったんだ」


 鐘を家から持ち出し、自身の親も殺してしまったかもしれない。


 そうまでして、その行方不明の女子生徒には、やらねばならない目的があった。


 「なあ、お前」


 僕は、目の前の女子へ問い掛ける。


 「本物のかすみをどこへやった?」


 第二理科室。溝の血痕。


 「……逆に聞くけど」


 そいつは、本来の表情で笑う。


 「答えなきゃいけないの?」

 「……いいや?」


 僕も自然と顔を歪める。

 やっとだ。やっと尻尾を捕まえた。


 「別に答えてくれなんて言ってない」


 瞬間。真顔へと変わる十代女子。


 「だけど、これでハッキリした。お前はかすみじゃない。行方不明の少女Aだ」


 彼女は、最初から入れ替わっていた。

 生き返って、最初から。

だから、僕も気付けなかったのだ。


 「お前は、かすみの顔を整形手術で手に入れた。目的は、かすみの人格、かすみの人生を奪う事」


 そして、人格を奪うには、かすみ本人の存在が邪魔となる。


 「その為に、お前は、琴葉にかすみを殺させたんだ」


 琴葉は殺人計画を持っていた。

 持ってはいた。だが、実行には戸惑いもあったのだろう。


 この一週間まで、計画は長い間、実行に移されなかった。


 「机に穴を開けること。人を搔き集めること。その準備は並大抵のことじゃない。長い準備期間があったはずだ。長い長い準備期間の中、琴葉は悩んでいるはずだ」


 それを後押しする人間がいなければ、計画は実行されなかった。


 「そこに、お前は火種を投げ込もうとしているんだ。少女A」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る