四十五話 そして、真実は稚拙ですか?

 うつむいたままの望空。

 視線は手元。繋ぎ合わせる両手。


 僕はそんな彼女に、淡々と説明をぶつける。


 「犯人は銃を使った。オモチャの銃」


 凶器は銃。実銃に似せて作られた、オモチャの銃。


 「ガスガンって知っているか」


 望空は答えない。答えられない。

 当然。知らない事は答えられないのだ。

特に、こうした庶民的な事に疎い望空なら、なおさら。


 「サバイバルゲームとかで使われる、オモチャの一種だ。本来ならBB弾を込め、敵のプレイヤーに発射する為の物」


 そう設計されて作られた、オモチャ。


 「エアガンは火薬を使わない。だから、発砲音がかなり小さい」


 実銃に比べ、小さい。

 その代わり、威力も抑えられている。


 「ガスガンはその中でも、特に音が小さい……って訳じゃない。でも、今回のトリックでは使い勝手が一番良かった」


 反動の少なさ、音の小ささ。

 総合的に見て、一番使い勝手がいい。


 「犯人はこのガスガンを使い、日葵に毒を撃ち込んだんだ」


 毒は小さな物に乗せられた。

 小さな音。それにより発射されても、誰も気付かない、小さな物。


 「……ガスガンで、日葵に撃ち込んだ」


 ガスガンは、本来なら、BB弾を発射する。

 ただのオモチャ。針が撃てたとして、狙った位置には飛ばせない。

だから、犯人はオモチャに細工を施した。


 「犯人はガスガンを改造していた。針を撃てるようにしていた」

 「改造……」


 呟く望空。復唱。

 視線は、未だ手元。


 「ああ、改造だ。素人ながらの粗い細工」


 無理やり狭められた筒、銃口。


 「望空も知ってるはずだ。あの時、見せたんだから」


 ――僕は全てを知っている


 あの時。雨の中、僕が精一杯に恰好を付けていた、あの時。

 対峙と息巻いていた、あの時。


 望空の目の前には、ちゃんとヒントがあった。

 しっかり突き付けられていた。

そのガスガン、オモチャの銃が。


 ――証拠なんて、どこにあるのかしら?


 そして、望空は、それを見抜けなかったのだ。


 「あの銃は……あなたの物じゃなかった」

 「当然。あれは現場で拾った物。まさか、事件の凶器で脅されるとは、流石の望空も予測できなかったか」

 

 もっとも、細心の注意を払っていなければ、バレていただろうが。


 「あなたはそうして、あの時、私が犯人でないと確認したのね」


 顔を上げ、彼女は見据える。

 彼女が僕を見る様に、僕も彼女を見る。


 殺意を演じていた女子。

 狂気を演じていた女子。

――七瀬望空。


 「ああ。この事件は、日葵に人間の犯行じゃない」


 ここから、事件を解明できたなら――


 「よく聞け、望空。これから真実を話す」


 彼女を救えてしまえるだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る