二十四話 本当の嘘は何ですか?

 「君はムクロを見つけるだろう」

 「これは琴葉殺しだ」

 「君は信者を殺すだろう」

 「これについては、多分僕を囲む女子の誰かだ」


 僕は信者など持った覚えは無い。

 無いが、あえてそれに一番近い人物を挙げるなら、そうなる。


 「……君は太陽に祈るだろう」

 「祈る――なんて行為を行うのは、誰かが死んだからだ」

 「じゃあ、悪魔と天使をニエとしよう――はどうです?」


 ニエ。生贄。

 神への捧げもの。


 「その文章は、前に、聖なる神に気付いたならば――って入ってる」

 「ほうほう」

 「この場合の“聖なる神”は、“絶対的な支配者”の意味だ。事件の行く末をコントロール出来る人間のことを指してる」


 そして、事件において、その行く末を操れる人間なんて一人しかいない。


 「犯人ですか……」

 「そう。“聖なる神”とは犯人自身。犯人は――自分に気付くな、気付いたならば、さらに二人のニエを用意するハメになるぞ――って言ってるんだ」


 犯人は、自分に気付くな、自分の事を調べるな――と言っている。

 さもなくば、もう二人、予定に無かった殺害を行う――と。


 「要は単なる脅しだよ。だから、これについては気に留める程度でいい」


 犯人にだって、こんな脅しで僕が捜査をやめないのは読めるはず。


 無意味な脅し。

 この一文は、ただの挑発だ。


 「なるほど……」


 かすみはうなずき、僕から目を逸らす。


 「……で、以上が、僕の怪文への分析、その結果の推論だ。一部を除く、これらにより、僕は怪文を連続殺人予告と断定できた」

 「なるほどぉ……」


 こいつ……話を聞いているのか?

 せっかく数少ない、僕がドヤ顔の出来る話だったのに。

頼むから聞け。心して聞け。


 「いやいや、聞いてますよ? ただ、その……」


 僕の不満そうな雰囲気、これに気付いたかすみが外を指差す。


 「テンプレさんが来てまして」

 「はぁ!?」


 窓に駆け寄ると、下に我が妹が見える。

 いや、いくら何でもおかしい。


 「お前、どうやってここに来たんだよ!」


 窓を開け、全力で下へ叫ぶ。


 「徒歩で来たよっ! かすみちゃんって、割と遠いんだね!」


 そう叫び返される。

 違う。そこを聞いたのではない。


 「何で、ここが分かったんだよ!」

 「えっ!? えっと……勘!」

 「はあ!?」


 確かに、この妹は勘が鋭い。

 しかし、今回は彼女の裏をかけていたはずだ。


 彼女の勘は、僕を長い事観察した結果、つちかわれた能力なのだ。

 従って、いつもの僕の行動しか読めない。


 そして、いつもの僕ならば、女子の家に行ったりしない。


 「保健室から僕が出て、かすみが出て……残ったのは日葵、それに望空……」


 望空か。

 望空の予測と助言があって、日葵はここにたどり着いた。


 「か、会長は関係ないからねっ!」


 テンプレなドジを大声で叫ぶ我が妹。

 その声に呼応して、近所の犬が一斉に吠え出す。


 「日葵さん! 近所迷惑ですっ!」


 ひと際大きく、かすみの声が轟いた。

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