なぜ僕が殺されたのか知りませんか?

松葉たけのこ

日常編

一話 僕が死んだってマジですか?


 「痛ッ……」


 ――次の瞬間、僕は死んでいた。

 どうだ、バカっぽい文章だろ。いかにも頭が悪い。

それでも本人は至ってマジメなのだ。

笑ってはならない。

だって、本当に死んでしまったのだ。

小学生の時に鼻から牛乳入れすぎて溺れ死にかけた時とか、女子のパンツを覗こうとして半殺しにされた時とは訳が違う。

そこ、人の死は笑わないように。


 「別に笑ったりはしてないさ」


 小さな女の子が空中で膝を立て、体操座りの姿勢で呟く。

 金髪碧眼の結構な美少女。

なぜかウチの高校の制服に、猫耳の様な二つトンガリが付いたニット帽。

 そして、純白のパンツを履いている。

きっと心もパンツと同じく、純真無垢だろう。


 「なるほど。私がこう座っていると、その位置からは見えるのか」

 「見えるのかって……恥ずかしくはないのか」

 「ただの布切れだろう。何を恥ずかしがらなきゃいけないんだ」


 彼女の言葉に、僕は目を細めた。


 達観してらっしゃる。

 普通の女の子なら、赤面の一つもするだろうに。


 「正直言って、つまらない。そう思っただろう」

 「そうだな……って、お前、人の心が読めるのか」

 「まあ、そうだな……私は……」


 真っ暗、真っ黒な空間に浮かびながら、考え込む少女。


 「……天使。そう、私は天使だからな。お前の心が読めるのだ」

 「天使? マジで?」

 「ああ。何なら翼を見るか?」


 僕は周りを見渡す。

 一面、僕と少女以外の何も無い空間。

上も下も定かでは無く、立っている感じもしない。

こんな所で何を疑ったってしょうがない。


 「見せなくていい。信じるよ」

 「なるほど。見るまでも無く、把握しているか」

 「把握していないよ。ほとんど。全く」

 「君は死んで、ここはこの世では無い――この事実を把握しているんだろう? それで十分さ。説明に支障はない」


 青い瞳を細め、天使はくすりと笑う。


 「君には、これから人生をやり直してもらう。死ぬまでね」

 「それって……よくある転生って事?」


 首を傾げる天使。


 「何が“よくある”のかは知らないが、転生では無い。君の中の時間を巻き戻すだけだからね」

 「時間を巻き戻す……?」

 「そう。君の時間を殺される一週間前まで巻き戻す」


 一週間分の人生のやり直しと言う訳か。

 けれど、そんな事をして天使に何の得がある?

神の怒りを買う覚えはあっても、祝福を受ける理由には覚えが無い。


 「何で、そんな事を」

 「なぜなら、私が君を愛しているから」

 「へ」


 初対面の男に、この美少女は何を言い出すのか。

 まあでも、顔は可愛いし、僕なんかにも気さくに話してくれるし、いい匂いがしそうだし、貧乳は正義だし、お尻がいい感じだし、何より超可愛いし。

付き合ってやらない事も無いかな、うん。


 「冗談だ。笑ってくれ」


 やめろ。僕を笑うな。


 「……まあ、簡単に言うとお遊びだよ。余興だ。君は都合良く殺される直前の記憶を失ってくれているし。私は暇を持て余している。それだけの話なんだよ」

 「ごめん。話の筋道がさっぱり」

 「そうか。うーん……つまりだ。“ゲームをしよう”と言っているんだ」


 目の前に迫る天使。

 青い瞳は異様な光を放っている。


 「これから一週間。られる前に犯人と殺し方を明かせ。そうすれば、君の勝ちだ」

 「勝ったら、どうなるって言うんだ」

 「君の余生を認めてあげるよ。おめでとう!」


 無表情なままで拍手をする天使。


 「犯人が分からなかったりした時は……?」

 「その時は君の負けだ」


 見開かれる。


 「魂を頂く」


 それは僕がその空間で見た、最後の瞳。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る