第45話 集合


 夏休みが始まったらしい。

 夏休みというものは字のごとく、休みである。だのに、夏休みは各地でイベントが満載である。例えば、海。海は個人的に恐ろしくて入れない。海にはクラゲやサメなどもいて危険だ。そして何よりも海と言えば美しそうに聞こえるが、東京から近場の海は、綺麗というよりもゴミが多い。あまつさえ人ゴミも凄い。そのゴミの海にはいるのは度し難い。そして、花火、祭りなどこんな暑い季節に忙しいことだ。休みであるのだから、休むことに全うすべきだ。


 夏休みが始まり数日が過ぎた。ある日、オレは家でクーラーをかけアイスを食べながら、朝のニュース番組をぼーっとしながら眺めるという快適な生活をしていた。何やらテレビでは、町の人に暑さについてインタビューしていた。


「今日は猛暑日ですけど、何か対策とかしていますか?」


「そうですね、熱中症には気をつけて、水分補給とかはしっかりやってますよ」


 男性はそう答えている。今日は、猛暑日なのか。熱中症?こんな快適な温度なのに?オレがいるのは別世界なのか?インタビューは続く。


「今日の温度は、三十六度なんですよ」


「そうですよね、今日は特に暑いですよね」


 そうか?今日は特に涼しいけどな……。その後もぼーっとテレビを見ていた。そして、こんなことが耳に入ってきた。


「今日は猛暑日ということもあって、海には人が殺到しています!でも、気持ちよさそうですね!」


 海?こんなにも涼しいのに?


 そう思っていたら何やら携帯電話が鳴りはじめた。メールだ。開いて見てみると、


 皆で海に行こう!


 と、書いてあった。なんだ。ただのスパムメールか。スパムメールはすぐ削除だ。オレはすぐに万条の、いや、スパムメールを削除した。ていうか、あいつ絶対に同じテレビ見てただろ。さ、夏休み限定奥義、二度寝でもするか。そしてオレは目を瞑り眠りという至福の時間を堪能した。


しばらくしてから、オレは何か異変に気がつき、オレは目を覚ました。


ドンッドンッ!!


という音が玄関で響いていた。


「眠っていた……。それにしても何だこの音は」


 オレはその音の正体を知るために、玄関ドアの、のぞき穴から覗いた。


「すいませーん!」


 どこかで聞いたことのある声だ。この声は確か、同じ学校で同じ部活のナントカ条というやつではないだろうか。そうだとしたら、面倒なのではないだろうか。


「ハッチー!おーきーてー!あーけーてー!」


 小学生か。あいつは……。


 万条の声が聞こえた気がした。そう気がしたたけであるから気にせず夏休み限定奥義、三度寝でも開発してしまおう。オレは、再び布団に入る。そして、目を閉じる。


「ちょっと!すいませーん!」


 オレは息を殺してばれない様に居留守を使った。


「……」


 静かになった。帰ったか?


「ちょっと!開けて!よ!」



 まぁ、あいつがそう簡単に帰るわけがない。ここまではオレの予想通り。前は宅急便のふりをしてオレを騙して部屋への侵入の成功を奏したが今回はそうはいかないぞ。何たって夏休みなんだ。オレだって本気を出して休まなくてはならないんだ。いつも通り行くと思うなよ。どうしても入りたければピッキングでも学んでくるんだな。


 そう思っているとガチャ、という音が聞こえた。ん?鍵の開く音?気のせいかな。開くわけがない。ていうか、これ此間もなかったか?


「ちょっと!いるじゃん!なんで開けないの?」


 なんだ夢か?やけに現実に影響された夢だな。


「相変わらずあんたは怠け者だねぇ、全く」


 ん?どうやら二人いるらしい。それにしても、両方とも聞いたことがある声だ。まさかな。これは絶対に目を開けてはいけない気がした。が、見てはいけないものほど見たいものである。なぜだろうか。


「ほら、起きなさい!」


 オレは、目を開いた。そして、目を擦りながら、


「ん?誰ですか?」


「また、あんたは……。ていうかさ、居留守なんて失礼なことするなって……また万条ちゃんに迷惑かけてるんじゃないのアンタは」


「いえ!お姉さん、開けてもらいありがとうございます!」


「いえ!万条ちゃん!私は私の任務をしたまでであります!」


 ……なに、こいつらうざっ。


「姉さん、ていうか、何しに来たの?此間来て、帰ったんじゃないのか?また来るなんて姉さんも暇だな。大学でぼっち生活してるんじゃないのか?」


「ギクっ!そ、そんな訳ないじゃない!私は別に誰にもキャンプやバーベキューにも誘われないで、SNSを見て、『あゝいいなぁ』とか言ってる非リアとは違うんだからねっ!」


「え。急にどうしたの。なんかごめん」


「うっ。しまった……。それにしてもハッチーは冷たいな~。お姉ちゃん寂しいよ……。あ、ていうかさ、ユイちゃんは何しに来たの?」


「ワタシは、その……皆で海に行こうと思ってメールしたんですけど返信がなくて……」


「皆?へえ、もしかしてあんた無視したんだ!?サイテーだよ」


「それでここまで来てみたんですけど……」


「また無視したのね……。はあ……」


「なんかオレが加害者みたいだな。逆だオレは、被害者なんだよ姉さん」


 姉は突然、言い出す。


「よし。分かった!あんた海行って来い!」


 全然分かってない……。


「は?嫌だよ、くそ暑いのに外出とかあり得ない。あとメールも無視してない。寝てたんだ」


「はぁ……。もう。あんたも学生らしく遊びなさいよ。どうせ家にいても何もしないんだから」


「学生らしく?何もしない?誤謬だらけだよ。なんだよ、学生らしくって、教科書もないのにわかんねぇよ。そもそも学生だったら字からも分かる通り勉強する方がよっぽど学生らしいぞ。あと何もしない?何もって事はない。家にいることが何もしないとなるなら……」


「あ~もういいよ!うるさい!いつからこんな風になったのかね、全く。昔はお姉ちゃんお姉ちゃんって付き切りだったのにねぇ……まぁ、それよりも一回騙されたと思って行ってみな?海にさ。楽しいよ海は!アハッハ!」


 姉さん……。友達と海に行ったことないんだな……。


「それは、騙されてお終いのやつだ。ていうかさ、寝て良いかな?いま最終奥義、三度寝の開発中なんだけど」


 ガチャ!とまた、ドアが開く音が聞こえた。


「ユイ!まだか?」


 玄関から聞こえる。またまた聞いたことある声だな。


「かれこれ結構時間経ってるけど……」


 これも聞いたことある。急に部屋のドアが開き始めた。


「お邪魔します」


 と言って冨永と立花が入ってきた。


「お邪魔という自覚があるのならお邪魔だから、帰ってくれ」


 オレがそう言うと、冨永は急にびっくりし始めて、顔を赤くした。


「な、なんだこれは?お前の横にユイと大人な女性が……修羅場か?なら邪魔したな」


「まあ、修羅場ではある。てか、なんでお前らはここにいるの?」


頭の上にサングラスを乗せていた立花は元気に言った。

 

「いや~、駅で待ち合わせだったんだけどさ、みんなそろったあと八橋と八橋を迎えに行った万条さんが遅いからさ~、来ちゃいました!」


「来ちゃいました!じゃねぇよ!」


「それにしてもよくオレの家がわかったな……ってお前か万条」


「えへへ」


「はぁ……」


「バナ君。オーちゃんは?」


「あ~、もう車で待ってるよ~」


「車!?」


「ああ。私の家の車だ。運転は私がする」


「おい。さらっと嘘をつくなよ冨永」


 すると、姉が言い出す。


「へえ~、あんたいいね~!お姉ちゃんも行きたいのであります!てへ⭐︎」


「ちょっと、姉さん。黙ってくれ」


「うえ〜ん、ハッチーがいじめるよう!万条ちゃん助けて〜」


 姉さんは万条にバカみたいに抱き着いてから言った。その様子を冨永は不思議そうに見ていた。


「ん?それでこの人は誰なのだ?」


「あ、アタシはこいつの姉よ」


「お姉さん!?それはどうも失礼を」


「全然いいよ~、ていうか逆にこいつがお世話になってるみたいでありがとね」


「そ、そ、そんなことはないですよ……こちらこそお世話になってま……す」


 おい、顔が引きつってるぞ。


「じゃあ、みんな揃ったことだし行こうか!」


「じゃあ、八橋も万条さんもとりあえず話は車で聞くよ!急いで!」


「ちょ、ちょっと!」


「ほら!はやく!」


 オレは万条に腕を掴まれていた。


「はあ、もう・」


「うん!」


 車に乗りこむ途中で、運転席には冨永の母親が座っているのが見えた。運転は冨永の母親がしていたのだった。大変、待たせてしまって申し訳ない……。


「遅かったわね、生き物さん」


 車の中で待っていた大花は静かにそう言った。そう言った目は不思議とオレのことを凝視していた。この無言の圧力……。


「… …待たせてごめん」


「許すわ」


「ありがとう」


「それにしても生き物さん」


「え?」


「遅かったわね」


「悪かったって!」


 そうして車に乗り込んだオレたちは海というところへ向かった。今回は山とは違って車なのでオレは楽に海へ行くのであった。

 車にみんな乗り込んで、少し進んだところで立花は言った。


「海楽しみだね!オレの泳ぎ見せちゃうよ!」


「バナ君、泳ぎは何が得意なの?」


「クロールさ!」


「おお〜!」


「八橋!海についたらオレと泳ぎの競争しようぜ!」


「え?泳ぎの競争?なんでオレがそんなことを」


「え〜!一緒に泳ごうよ!昔はよく私と一緒に市民プールで泳いでたじゃん〜」


「そうそう。昔はよく姉さんと一緒に市民プールで泳い……ってなんでいるんだ姉さん……」


「なんか、乗っちゃった!てへぺろPart2!」


「……オレは少し疲れたから寝る」


 そして、オレは車の中で夏休み限定奥義、三度寝を開発してしまうのであった。


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