第14話 ボーリングマスター
翌日の放課後。
ボーリングという球ころがしを試すことになった。オレは待ち合わせをしていた校門前へ向かっていた。校門が見えると、三人は既に校門前に集まっていた。
こいつら早いな。走って急いだふりするか。
そう思いオレは小走りで走りあたかも急いできましたというような顔で行った。
「着いたぁ、はぁはぁ………」
「遅いぞ、五分遅刻しているぞ」
「悪い。はぁはぁ」
「まぁ、急いでそれなら仕方がないな」
何やら立花がこちらを見てくる。
「何?立花。何か用事でもある?」
「いや、八橋お前。さっきそこの近くからいきなり走って来たよな?それまで歩いてたのに」
なに?見ていたのか……。
「うわっ、お前なんて卑怯な」
「卑怯?むしろ走ったフリをしたんだ。褒められていいと思うが」
「お前。色々と残念だな」
「え?何が?」
「まあ、いいじゃん!行こう!」
と、万条が言う。
「そうだな」
オレたちは目的地へ向かった。その向かっている途中で冨永を見ると少し緊張しているように見えた。オレはまさかとは思ったが聞いてみた。
「冨永ってもしかしてボーリングはじめて?」
「あ、ああ、まぁ、そ、そんな感じだな」
……やっぱりか。
歩いて目的地であるボーリング場へ着くと、富永ははしゃいだように言った。
「ではボーリングだな!」
「やけに楽しそうだな、初めてなんでしょ?」
「そ、そうだ。初めてだからだ。お前には負けないからな!」
「初心者にはさすがに負けないよ。昔はよく行ってたからな」
よく中学の時に谷元に連れられたものだ。
「お前スポーツ苦手そうだけど大丈夫か?」
否めない。よく谷元に連れていかれたものだが、いつも決まってスコアは100いったらいい方であった。
「ボ、ボーリングだけは大丈夫だ、これでも中学の時はボーリングマスターと呼ばれてたんだ」
「そうか!ならば期待できるな!」
「あらら」
オレが、ボーリングマスターという称号を貰ったあと、オレ達は受け付けをした。
「何名の利用ですか?」
「すいません、4人でお願いします」
今回は普通に受付したな。ファミレスの時は酷かったからな。反省したか?
オレ達は靴をレンタルし、各々ボーリングの球を選びに行った。そして準備が終わり、自分たちのレーンのところへ行った。オレはひとつ気になったことがあった。
「投げる順番はどうする?」
「ああ、それはもうワタシが決めておいた」
と、冨永は言った。
「なるほど」
と、言ってオレは順番と名前が表示される画面を見た。オレは受け付けで何もなかったので油断していたことにその時気がついた。
そこには、
ワタシ、タチバナ、ユイ、ボーリングマスター
という順番で表示されていた。ボーリングマスターって。誰だよ。受付で何もないから安心しきっていた。低い点数とったら恥ずかしいな。マスターがガターとかとれないじゃないか。それにワタシって。
「念のため聞くけどボーリングマスターって誰?」
「え、お前じゃないのか?」
「え?そうだよねー」
順番は、冨永、立花、万条、ボーリングマスターとなった。まずは冨永が投げた。
「いくぞ!」
冨永のフォームは初心者とは思えないほどしっかりとしていた。投げた球は見ている側が安心して見ていられるくらいに綺麗に真中のピンに当たった。そして、いきなりストライクを出した、冨永は結構万能のなかもしれない。
「ヒイちゃん!すごい!」
「冨永さん……やるね」
「案外、簡単なものなのだな」
「冨永お前。練習してきただろ、初めてとは思えない」
「今日が正真正銘のはじめてだ!勝負覚えているよな?ワタシに負けたら一日奴隷になるって」
「え?なんだって?」
「いやか?なら一日ではなく永遠にするか?」
「え?なに?聞こえなかった」
「まぁいい。投球に期待しているぞ。マスター」
マスター言うな。
「次はオレだな」
立花はよくやっているのか知らないが慣れた様子であった。球を投げてすぐにストライクをとった。
「バナ君もすごい!」
「やるな!」
「立花。お前も練習してきただろ?」
「してないよ、マスター」
満面の笑みで言う。あれ下手くそなのオレだけ?ていうかマスター言うな。
「次はユイの番だな」
万条が投げようとボールを取ろうとした。すると、オレたちのレーンに近づいてくる人たちがいた。そして声を掛けてきた。
「おお!」
隣でボーリングをしていた2人が話しかけてきた。
誰だ?
「おお!立花じゃん!」
どうやら会話から察するに立花の知り合いであったらしいが……。
……誰だ、知り合いの知り合いほど面倒なことはない。気を遣ってくれよ。いま、いいとこなんだよ。
すると、立花も知り合いに返事をした。
「あ、仲村先輩と倉本先輩じゃないっすか!」
立花は明るく言ったが、立花の様子はどこかこちらを気にしながら話しているようであった。仲村先輩だと思われる人が立花に向かって言い出す。
「お前部活辞めてなにやってんだよ~。遊んでんじゃないか。まあ、どうせお前の実力じゃあ部活やっててもやってなくても変わんなかったけどな~」
ん?部活?ああ。もしかしてこの人たちは水泳部の先輩か。それにしても今のは嫌味か?
すると、その倉本先輩は迷惑なことを言い出した。
「えー、てかさ~こっちと一緒にやろうよ!ボーリング!」
まじかよ。それは面倒だな……。そもそも、知らない人とは絡むなって子供の時に言われたからそれは出来ないだろうに。てか、だいいちそれ断れないやつじゃん。最悪だな。どうするんだ立花は。
「いや、いまはちょっと!きついっすね~」
まぁそうするよな。いきなり知らないやつが来たらしらけてしまう。がしかしおそらく簡単には退かないだろう。多分、粘ってくるに違いない。こういう人たちは退き際を知らない。
そして仲村先輩が言う。
「あ?なんでだよ?いいじゃんよ~。オレたちも部活サボって暇だったんだよ~。いいよな?先輩の頼みだよ」
……予想通りだ。先輩という階級的優位を振りかざし、無理な要求をする。立花が以前、嫌いだと言っていたが、こういうことか。
オレは立花を見た。立花は手に力がはいって握り拳を作っていた。しかしながら、立花は笑って言った。
「あはは!そうっすね!でもオレたちすぐ帰りますよ!」
何で、立花、そんなヘラヘラ笑っているんだよ……嫌いなんじゃないのか……。
「いいよ全然。なぁ、じゃあいいよな?」
立花が皆の顔を伺う。すると、万条が気遣うように言った。
「いいよ!」
「あ、ああ。仕方ない」
冨永も明らかに嫌な顔をしたが仕方なく了承した。すると、すぐさまに彼等はこちら側のレーンにやって来た。
「どうもー、よろしくー」
次は、万条が投げる番であった。万条が投げている最中に冨永は二人の先輩に話しかけられた。オレはそれを黙って聞いていた。
「君、名前なんて言うの?」
「冨永だ」
先輩にも強気だな……。敬語使わないのな。
「下の名前は?」
「メアリーだ」
それは嘘だろ。
「あはは。メアリーちゃんさ、彼氏とかいるの?連絡先教えてよ~」
「いや、ワタシ携帯電話持っていないのだ」
それも嘘だろ。
「あはは、おもしろいね~」
投げ終わった万条が仲村先輩に話しかけられている。
「ねぇ、君、名前何て言うの?」
「万条ユイです!」
オレは自分の投げる番も忘れてぼっーっとしていた。ふと立花を見ると下を向いていた。すると、なかなか投げないオレに、
「次は君の番だよ!マスター!」
と、倉本先輩がせわしく言う。マスターって言うな。
「あ、ああ。いきますよ」
オレは球を取り、思いっ切りに投げた。しかし、その闘魂も甲斐なくピンは三本だけ倒れた。こ、これはマスターの面目が立たない。
と、思いながら冨永をおそるおそる見たが先輩達の相手でそれどころではなかったようだ。
なんだ。見てなかったのか。
「マスター。下手くそだねー。あはは!」
と、仲村先輩は言った。
そんなことは知ってるよ。三本で上手いわけないんだから。
「確かにそうですね」
「ボーリングとかやらない感じ?」
「そういう感じです」
「えー、じゃあ何して遊んでんの?」
「家にいることが多いですかね」
「それ遊びじゃないじゃんーー!人生楽しいの?」
「そうかもですね」
「もっとオープンになろうぜ!」
「あ、すいません。オレちょっとトイレ行って来ます」
「あ、わかったーーで万条ちゃんさ~」
オレはトイレに向かった。
……ふぅ、体力使う。ボーリングよりも疲れる。
トイレから帰っていると、休憩所で冨永が同じくため息をついていた。
「どうした?」
と、オレは言った。
「うわっ、お前か……疲れた。高校生というのはこんなにも扱いにくい生き物なのか?」
「同じく。さっきの人たちは扱いにくい方なんじゃないか?知らないけどさ。ていうかお前も高校生だろ」
「そうなのか、そう思うと道楽部は居心地が良い」
「……そうかもな」
「それにしても、あの男が断っているのに執拗にワタシの連絡先を知りたがるのだが、蹴ってもいいか?」
「それはやめとけ、蹴り飛ばすくらいにしとけ」
「フフッ」
冨永は笑った。オレはふと思った。
こうやって笑うのを見るのは初めてかもしれない。
富永は続けて言った。その表情は何か、言いたそうにしていた。
「お前は話しやすい、ただ……」
「え?『ただ』なんだ?」
「何でもない」
「えー、すげぇ気になるんですけど……」
「それにしても、マスターが三本はどうかと思うぞ」
「なんだよ。見てたのか、まああれはわざとだ」
「どうやらワタシの奴隷決定だな」
「お前がご主人様なんて御免だね。オレは忠義を誓うなら自分にしか誓わないぞ」
「じゃあ、ワタシは何だったらいいのだ?」
「まぁ……部員仲間ってとこか」
「フフッ。そうか」
オレたちはレーンに戻った。二人で戻ってきたのを見たせいか先輩はつかぬ事を聞いてきた。
「お、お帰り~二人さん~。ていうか、二人仲良さそうだな~。付き合ってんの?付き合ってないならさ~教えてよ番号」
「つ、付きっ!?」
冨永はあたふたし始めた。がしかし、何か思いついたのか耳打ちしてきた。
「おい、いまだけ、そ、その恋人のふりをしてくれないか?番号教えるのがだるい」
「え?まぁ……それなら仕方ないな……」
オレは了承した。そして先輩たちに言った。
「すいません、こいつ恥ずかしがって言わないだけでオレたち付き合ってるんですよ」
それを聞いて万条と立花がビックリしていたが冨永と目線を合わせあって、どうやら状況を理解したようだ。オレは冨永に耳打ちをした。
「これでいいよな?」
「あ、ああ」
すると、さっきからしつこく聞いてきた先輩達は、
「あ~、そうなの?な~んだよ~え、じゃあ、ユイちゃんも彼氏いるの?」
「え、それは……」
それを聞いて冨永はすぐさま答えた。
「実は、ユイも立花と付き合っているのだ。そうだよな?なぁ?」
何て無理矢理なんだ……。流石に無理があるだろ……。
そう思っていると、冨永はまたオレに耳打ちをしてきた。
「おい、お前も何かフォローしろ」
「え?オレも?」
こうなったらもうとことんやってやるか。
「そうですよ~万条は立花と付き合ってますよ。オレたちカップル同士なんですよ~、言ってなかったですねぇ~」
我ながらこんなことを言うのは吐き気がする。死ねオレ。3回死ね。そして3回甦れ。
万条もオレの演技に気が付いたようだった。
「そ、そうなんです!ね!バナ君!」
立花はこういった状況をつくってしまったのは自分のせいだといった表情をしながら頷いた。先輩たちは、いきなりでしかもぎこちなさが疑わしかったのか、
「え~ほんとか~?メアリーちゃん?」
オレは小さな声で冨永に聞こえるように言った。
「おい、疑ってるぞ。どうするよ」
冨永もオレにだけ聞こえる声の大きさで返事をした。
「こ、この際、仕方ない……やりきるぞ」
「え?」
冨永は急にオレの腕に自分の腕を組み始め、体まで近づけてきた。
「いつもはこんな感じなんだが……人前で見せるものでもないからな……」
「うわっ、近いよ」
「静かにしろ」
しかし、効果はあったようで、倉本先輩は、
「え~そうなんだ~。なんか嘘っぽいけどまぁいいや。残念だなぁ」
仲村先輩は、立花を見て言った。
「でもよりによってユイちゃんは立花なんてな。お前部活辞めて良かったじゃん」
「あはは、そうっすよね~」
立花は笑顔を作って言った。何でそんな笑った顔していられるのかオレには理解できなかった。先輩たちの辛辣な言葉に対して、万条は立花のことを褒めるように言った。
「バナ君は素敵ですよ!」
「あ~そう。なんか冷めたなぁいろいろ。そろそろ行こうぜ倉本」
「ああ、そうだな~」
先輩たちは帰っていった。先輩たちがボーリング場を出たのを確認すると、冨永はすぐに腕を外して、オレから離れた。
「おい、お前、寄るな」
「お前が寄ってきたんだろうが、それにあんなに寄らなくても良かっただろ。あんなに寄るならあらかじめ言っておいてほしいものだ」
「その場で思いついたんだからあらかじめ言えるわけないだろ。しかし、ワタシがお前のような変態怪獣と付き合うなどあり得ん」
「変態怪獣?何言ってるんだ?お前。それにしてもそれ弱そうだな。まぁ嘘なんだからいいじゃんか」
「まぁな。ワタシにしてはあまり好ましい作戦ではなかったが。まぁ時には役に立つものだな。お前も」
「それはどうも。まぁばれなかったんだし、いいじゃん。あれは上策だったと思うぞ」
立花はそれを聞いて申し訳なさそうに言う。
「なんか悪い。せっかくみんなで来たのに」
すると、冨永は言う。
「別に良い。特に何もなかったではないか」
立花は暗い顔をしていた。万条はそれを見て言う。
「あんまり落ち込まないで。何か悩んでることあったら言ってね。ワタシやれることはするから。バナ君は大事な部員だからね」
そう万条が言ったあと立花は元気を取り戻したのか、
「ありがとう……。もう大丈夫だ!なんか悪いな!」
「いいよ!良かった元気出たなら!」
「立花、もうワタシ達は友達だろう。あまり気にするな」
「ああ、冨永さんもありがとな!」
立花はまた元気そうに言った。
「じゃあ、みな、残りのゲームをするか。」
「そうだね!」
その後、オレたちは残りのゲームをしていった。スコアの結果は冨永が一番でその次に順番に立花、万条、オレと言った結果になった。どうしたマスター……
「いや~ボウリングというものは実に面白いものであるな!」
「そうか?気のせいだろ」
「どうしたのだ?マスター。今回は調子が悪かったみたいだな」
「お前……順位が一番だったからって……まぁアレだ。久しぶりだったからだ」
「そうか。ワタシは初めてだったけれどな。また来てみたいものだ」
「冨永。頼む。黙ってくれ」
「無理だ」
「お前、次、来た時には容赦しないからな。覚えておけよ。なんたって次は立花さんが冨永をやっつけてくれるからな。マスターが本気を出すまでもない。なぁ立花さん?」
「え、え?う、うん」
立花はどこかボーっとしていた。
「じゃあ、みんなそろそろ帰ろっか」
万条がそう言った。
「そうだな」
万条と冨永は出口へ向かった。オレも出口へ向かおうと歩き出した。その後にその場で立ったまま立花が小声で何か言ったのが聞こえた。
「オレは本当に最低だ」
「え?」
「いや!何も!帰ろうぜ!」
「ん?ああ、そうだな」
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