第10話 映画鑑賞会?
翌日の放課後。あの騒がしい第三校舎へ向かっていた。オレは言われたとおりに部室へ行くのであった。なんせもし来なかったら万条の奴が黙っている訳がないからだ。あと咲村先生も。ああ、恐ろしや。そして、オレは部室へ顔を出しに行くのだった。すると、既にみんな集まっているようであった。
「よっ!」
「おお!きたか!」
「おう!八橋」
オレは部員の挨拶を一纏めに答えた。
「お、おう」
すると、冨永は仕切り始める。
「では、部活活動を決めようではないか!」
「そうだね!」
「昨日のボーリングの案ももちろんいいのだが、いいことを思いついた」
「え?なに?ヒイちゃん!」
「昨日考えてきたのだが、そもそも曖昧すぎるのだ。他の部活は野球やらサッカーやら方向性が決まっている。まあ、ワタシはそんな曖昧なここは嫌いではが。それで一つ問いたいのだ」
「おい、文芸部だろ。活動は一応」
「なになに!?」
「え?冨永さん。方向性を決めるってこと?」
何を言うか立花、ある意味では方向性は既に決まっているぞ。曖昧という方向性があるではないか。
「いや、方向性を決めるのではない。いやむしろもう曖昧という方向性があるではないか」
うわ。かたっくるしくて面倒な奴だな。
「で、問いはなに?」
「みなの趣味はなんだ?」
「趣味!?」
部員は声を揃えてそう言った、そのあと冨永は答えた。
「ああ、みなの趣味を聞くことで何か共通点が見つかりやることも広がるかもしれないと思ってな!」
「なるほど!ヒイちゃんやるね!」
「確かにな!」
「なんでもいいのだ。一つに拘ることはない。好きなものでもいい。そこからやることができるかもしれん」
「だから、一応文芸部でやることはあるだろうに」
「じゃあオレから!そうだな~。オレは映画鑑賞くらいかな。あとスポーツ」
「なるほど、映画か。スポーツも悪くないかもな。立花いいな!ユイどうだ?」
スポーツだけは勘弁して。苦手なの。
「ワタシは、そうだなー映画も好きだけど、アニメとか見るよ!けっこう面白いんだよ!あとはなんだろうなぁ。あ!あとはワタシ音楽好きだしギター弾けるよ!少しだけどね」
「おー、それはすごいな!しかしワタシは音楽もアニメも詳しくないな」
「で、冨永、お前自身は?」
「ワタシか?ワタシは読書ぐらいかな」
「文芸部らしいじゃないか」
「そういうお前はどうなのだ?どうせ毎日ダラダラ過ごすことが趣味とか言わないよな?」
「ああ、それは趣味というか習慣みたいなものだからな。もう最近は壊れてつつあるが」
「ではなんだ?まさかないのか?」
「趣味はそうだなぁ。読書、音楽、楽器。あと、アニメもみる。映画もみるな。あとは料理、ゲーム、漫画、あとは……」
「もう……いい。早く舌を噛みちぎれ」
「おいおい。お前から聞いておいて」
「それはほんとうなのか?それとも嘘か?」
「いや、ほんとうだ。当たり前だろ」
「いや、そうか。意外と多いのだな」
「へえ!ハッチってけっこう多趣味なんだね!」
「まあ、それは一人が多いからな、一人の方がむしろ忙しいくらいだ」
「ゲーム好きだなぁ。よく小さい頃はやってたなぁ」
「ああ、あの当時のゲーム面白かったよな」
「あ、わかった。論点がずれているぞ、みな。で、何かこの中から手を出してみよう。知ってる人から教われば楽しいであろうしな」
「うん!」
「何かみんなで簡単にできるやつがいいね」
「そうだな。この中で皆でできるのは、映画、ゲームくらいではないか?」
「映画ならオレがDVD持っていくよ」
「おお!そうか!しかし、ここにテレビがないな……」
「そうだね。急に用意もできないし」
「八橋、お前の家のテレビを持って来てくれないか?この通りだー。頼む」
冨永は全く誠意がこもっていなかった。
「無理だよ。いいって言うと思ったのかよ」
「ああ、だから言ったのではないか。ではそれが無理なら……そうだな……。ではワタシの家に来るか?」
「え?いいの?ヒイちゃん!」
「ああ、問題ない………と思う。しかし実は家に誰かを招くのは初めてなんだ」
「そうなんだ!ワタシたちが初めてなんだね!」
「あ、ああ。では明日はどうだ?次の日は休みであるし」
「うん!」
「オレも大丈夫だ!」
即答だな。こいつら暇かよ。
「では、明日授業後にここに集合だ!」
「うん!」
誰が行くか。オレは明日行くことに了承していない。そう思っていると万条が感づいたのか、
「ハッチー行く気ないでしょ!?」
「え?そりゃ、まあないよ」
「咲村先生に言っちゃうよ~」
そんなことをされたらオレはどうなるんだろうか……
「それはなんていうかウザいなぁ」
「じゃあ、行くよね?」
くそぅ。咲村先生と万条のタッグは不可抗力だ。
「あー、もう分かったよ」
「じゃあ、決まりだね!」
○
翌日、授業終わり。オレ達は冨永の家へバスに乗って向かった。
「もうすぐだ」
歩いていると大きな屋敷が視界に入った。あの家デカい家だな。ああいうところに住んでみたい。
「それにしてもそこの見える家デカいな、あんな家に住んでみたいな」
「ん?何を言うか。あれはワタシの家だ」
「え?またまた嘘だろ?」
「ほんとうだ、ほら、もうすぐ表札が見える」
そうして歩いて表札を見た。
「な?」
確かに冨永と書いてあった。
「嘘にしては念入りだな。このドッキリ、昨日考えたのか?」
「いや、考えていない。何故ならワタシの家だからな」
「まじで?」
冨永は家の門を開けた。冨永の家は昔ながらの木造の日本家屋のようで、庭園があるほど広かった。玄関まで遠いよ……。
「すごい!池がある!」
「ユイ、別にすごくはないぞ」
「え~、すごいよ~」
「それにしても庭園も手入れがちゃんとされているな。冨永、お前金持ちだったんだな」
「え?なにか言ったか?金なし男?」
「あー。何にも言ってない」
「そうか」
しばらく歩いた後にやっと玄関まで辿り着いた。
「長っ。疲れた……」
冨永は玄関口でドアを開けた。
「ただいま」
「あら、お帰りなさい」
出迎えてくれた人はとてもおしとやかで冨永とは正反対のように温厚そうな母親に見えた。
「昨日紹介した部員のみなだ。さあ、みな上がってくれ」
「では、皆さんごゆっくりね」
そう言って冨永の母親は行ってしまった。
「ヒイちゃん、お邪魔します」
「冨永さん、お邪魔します」
「オレもお邪魔します」
「邪魔だからやめろ」
「なんでだよ。対応変わりすぎだろ」
「こっちだ」
冨永は廊下を歩きはじめた。オレたちも冨永に付いて行った。
それにしても、デかいなこの家……。
広大な玄関口は入り、廊下を進むと、茶の間などの幾つかある和室が、襖で区切られていた。しかし、リビングや寝室などは洋式にリフォームしてあった。冨永の部屋も洋式であった。
オレたちは案内されるまま冨永の部屋へ入った。あたりを見まわすと、物は少なく、あるのは机と椅子とベッド、本棚くらいであった。部屋の色合いも蛍光色は一切なく、主に白と黒が基調であった。何とも殺風景な冨永らしい部屋だな。まぁ、こいつらしいが。
「殺風景だな」
「別に良いだろ。何が悪い」
「悪いなんて一言も言ってないぞ」
「そうか。では……もう早速DVDでも見るか?」
「いや。ちょっとまった!」
万条は両手を挙げてそう言った。
「なに?どうした万条。いつもにまして楽しそうだな」
「そりゃあね。いきなりDVD見るのも味気ないしせっかくヒイちゃん家来たのだからワタシはヒイちゃんの卒業アルバムが見たいのであります!」
うざっ。
「アルバム?まぁあるが……アレって誰かと見るものだったのか?」
冨永はそう不思議そうに言った。
「そうだよ!誰かの家行った時に見るよ!定番だよ!」
「そ、そうだったのか。てっきり学年全体の写真付き連絡網だと勘違いしていた」
すごい勘違いだな。まぁ誰かと見るものだとも思わないが。
冨永は少し照れながらも部屋の棚からアルバムを取り出して来た。
「これでいいか?中学生の時のものだが」
「うん!」
万条はそれを部屋の床に置いて開いた。それを万条と立花は食い付いて見ていた。
「あ!これ、冨永さんじゃない!?」
「え、ヒイちゃんどこどこ?」
「これ」
立花は指をさした。そこに写る中学生の時の冨永は何とも今と違って棘がなさそうで可愛らしい女の子でしかなかった。
「ヒイちゃん可愛いぃぃ!」
「や、やめてくれっ、ユイ。恥ずかしい」
「確かになんていうか可愛らしい感じだな」
「うあああ、恥ずかしい!こんなにも誰かと見るのは恥ずかしいものなのか………もうやめてくれ!」
そのあともお構いなしに万条たちは冨永を探した。ウォーリーを探せならぬ冨永を探せ状態であった。しかしウォーリーとは違って冨永を見つけるのは意外と簡単であった。
「これも冨永さんじゃないか?」
「あ、これもじゃない!?可愛い!」
「もう、やめてくれ!」
オレはその写真を見てまた冨永を見つけ易いとすぐに思った。何故ならば、赤と白のボーダーを来ていないのに冨永はいつも一人で写真に写っていたから嫌にでも目に付くからだ。本当に友達いなかったんだな……。
「も、もう限界だ……」
冨永は無理矢理アルバムを閉じて棚へしまった。
「あ~ヒイちゃん可愛いかったなぁ。今も可愛いけど。見せてくれてありがと!」
「い、今も可愛いだとっ!?」
「うん!ヒイちゃんは可愛いよ!」
「冨永さんは可愛いぜ!」
なんだこのべた褒めは。しょうもな。でもまぁオレもちやほやされたいぜ。
「で。みなさん。じゃあそろそろDVDでも見るか?」
早く見てさっさと帰りたいからな。
「そ、そうだな。立花、DVDは持って来たのか?」
「もちろんだ!」
「バナ君、何の映画?」
「ホラー映画だ!」
「ホラー映画だと?」
「冨永さん、好きって言ってなかったっけ?」
「いっ、言ってないぞ!」
ん?
「まあ、見てみようよ!」
万条たちはホラー映画を電気まで消して雰囲気づくりをして見た。そうして視聴から何分か経った時オレは思った。
少し見てはみたが個人的な感想ではホラー映画という割に全く怖くない。始まって数分で物語の内容も予測できる。正直、もうお腹いっぱいだな。
ふと、テレビの画面を見返すと重要シーンのようであった。ここがおそらく目玉なのであろう。
「あ、あの人は確かにもうこの世には……」
映画のキャラクターは後ろを向いた。
お決まりだな。これ。振り向いたら後ろに死んだはずの人が幽霊としているんだろうな。こんなの怖いやついるのか?
そう思ってあたりを見まわしてみると万条と立花はワクワクした顔で映画を見ていた。
……だよな。こんなので怖がる奴なんていないよな。
映画を見ていると映画のキャラクターの後ろにはやはりオレが予想した通りの展開であった。その幽霊も怖ければまだいいのだけど、全然怖くない。これで悲鳴をあげるのは映画のキャラクターくらいであろう。そしてその通り、映画のキャラクターは悲鳴をあげた。
「キャァァァァぁ!」
「キャァァァァぁ!」
ん?今、二回聞こえた気がしたが、気のせいか?
声の聞こえた方を見てみると冨永が顔を埋めて震えているように見えた。どうやら冨永がその二度目の悲鳴をあげた張本人であった。映画のキャラクターが悲鳴をあげたのとほぼ同時に冨永も悲鳴をあげたようだ。
「その、冨永怖いのか?」
「こ、怖くなどない!油断していただけだ」
そういいながらも自分の制服のセーターの裾辺りを強く握っていた。
「ほんとかよ」
「ああ、ほんとうだ、ほら見てみろもう大丈夫だ。さっきのより怖いシーンなどもうないだろう。ワタシが怖いわけがな…………」
冨永は意地を張って怖くないと言っていたが映画を見返してみると……
「キャあああああああ!」
再び阿鼻叫喚した後、冨永はかなり怖かったのかオレの方向にいきなり飛びかかってきた。
「うわっ!」
オレは冨永がいきなり飛びかかってきたのでそれと同時に床に頭を打った。
「いった……お前、やっぱり怖いんじゃ……」
気が付いてからそう言いながら目を開けると冨永は四つん這いの体勢でオレに覆い被さっているのが目に映り思わず続きの言葉が途切れ、冨永と目が合った。お互い顔が赤くなるのが分かった。何か仄かにいい香りがした。
「あ……その……どいてくれない?」
「あ、ああ……すまない……」
冨永も顔を赤らめ恥ずかしがりながら体勢をもとに戻して離れた。
「お前さ。もう、見ない方がいいんじゃないの?」
「いや、また油断していただけだ……」
「常に油断してるな」
冨永は強がりを言っていたが、震えるのを耐えるようにして見るのであった。その姿はいつもの高圧的な冨永の様子は垣間見られず、部屋は暗く、お化けに怯えるいたいけな女の子にしか見えなかった。
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