道楽部 夏休み編

第43話 休日の惨事

 道楽部の危機を乗り越えた日から数日が経った。オレは晴れて道楽部に通う生活になった。

 しかし、しかしだ。オレの培った怠惰の精神は簡単に消えることはない。そう、オレは確かに道楽部が自分の中で楽しいと感じていた面があったことは認めたが、事実として面倒なことには変わりないのだ。

  

 そして、あっという間に夏休みはやって来たのだった。夏休み初日、オレは道楽部の活動がなかったので、家でゆっくりと休んでいた。

 オレは道楽部をやり始めてから休日というものがどんなに偉大であるかを更に思い知るようになっていた。普段の道楽部の疲れからか、ずっと家で寝ようと思っていたのだが……。


「何で……こうなった……」


「え?何て?」


 と、言ったのは万条であった。オレと万条は昼時に大手ショッピングセンターに来ていた。


    ○


 遡ること、2時間前。9時頃である。

 オレは家でスヤスヤと安心して眠っていたのだが……。


ドンッドンッ!!


 という音とともにオレは目を覚ました。


「ん?何だ今の音は」


 まさか、万条じゃないだろうな……。


「すいませーん!」


 ん?声は万条じゃないな……。ふぅ。


「すいませーーーーーん!」


 すると、もう一度さっきより声が聞こえた気がした。そう気がしたたけであるから気にせず休日限定奥義、二度寝でも開発してしまおう。オレは、再び目を閉じた。


「ちょっとーーー!すいませーん!」


 うるさいな……。それにしつこいな。誰だよ……。帰ってくれよ……。


 オレは相変わらず息を殺してばれない様に居留守を使った。すると、ドアの向こうは。


「…………」


 静かになったな。帰ったか……?


「ちょっと!開けなさいよ!」


 いやいや。本当に誰?恐いんだけど……。

 そりゃあ。開けたいのは山々だけど、オレだって本気を出して休まなくてはならないんだよ。


そう思っていると何やら独り言がドアの向こうで聞こえた。


「あ。そういえば、鍵あるんだった!忘れてた。私ってば、かわいいってばよ!てへっ!」


 ん?鍵?いや。待て、ていうかなんかどっかて聞いたことある声だな……。

その瞬間、ガチャ、というドアが開く音が聞こえた。


 ん?鍵の開く音?


 すると、誰かが部屋の中へ入って来るのが聞こえた。そしてその人は言った。


「ちょっと!いるじゃない!なんで開けないの?」


  ああ……。そうだ……。今気づいた。この声は……。


「相変わらずあんたは怠け者だねぇ~。全く……」


 これは絶対に目を開けてはいけない気がした。が、見てはいけないものほど見たいものであり、まさかあの人がいるまい、と思って目を開けようとした……。


「ほら、起きなさい!」


 と、いう声とともにオレは恐る恐る目を開けた。そこにはボブパーマの髪型でしゃがんだ姿勢でオレの頬を人差し指でつんつんしてくる大学生の女性がいた。間違いない……。


「やあ!おはよう!マイブラザー!」


 と、笑顔でそういう姉がいた。

 オレは、再び目を閉じた。


「ちょ!あんた、起きてるんじゃない!」


 やばい、見られた。こうなったら寝てる事をどうしてでも見せつけるしかない。


「……むにゃむにゃ……」


「はぁ……。あんたね。寝てるやつはそんなこと言わないわよ……」


 オレは、目を開いた。そして、目を擦りながら、


「ん?誰ですか?」


「また、あんたは……。ほ~ら!あんたの大好きなお姉ちゃんだお!」


「うざ」


「……うわ。傷付く……。ていうかさ、居留守なんて失礼なことするなって……」


「姉貴。ていうか、何しに来たの?」


「何しにって……あんたの様子を見に来たのよ。それにしても相変わらずだね~あんた。休日くらい彼女とお出掛けしてくればいいのにさ~。って彼女の一人や四人もいないか!あはは!これ傑作!!」


  ……うざ……。


「姉貴こそ相変わらずウザさ炸裂してんな。やめて。何故ならば、うぜぇから!」


「ちょっと!あんた失礼ね!ていうか、冗談抜きでさ~彼女とかいないの~?」


「いないよ。ていうか姉貴こそ彼氏いないのかよ?って彼氏の一人や四人もいないか!あはは!これ傑作だな!」


「……あんた……そんなんだから彼女もできないのよ……」


「そうだよ、よくわかっていらっしゃる。さ、じゃあ用は済んだみたいだし帰ってくれよ」


「冷たいな~。お姉ちゃん寂しいよ……。グスングスン……」


「……ちっ……。で、何しに来たの?どうせまたオヤジと喧嘩でもしてきたんだろ?」


「おっ!よく分かったね!でさ~しばらくの間、泊めてくれない?」


「はっ?」


「だから~私を、と・め・て♡」


「……おえ」


「ちょ。それが久しぶりに会うお姉ちゃんへの対応?ひどいな~。あ、で、いいよね?騙されたと思って泊めてよ~」


「それは、騙されてお終いのやつだ。あと別に久しぶりじゃないから……。一か月に一回は来てるじゃないか……。ていうかさ、寝て良いかな?今、休日奥義、二度寝の開発中なんだけど」


「えっ?急にあんた何、訳わかんないこと言ってんの?」


「……。帰れよ……頼むから……」


「はーい。了解したおー」


 そう言って姉はテレビをつけて、オレの布団に入り込んで来た。


「うわっ!入って来るなよ!ああ、もう!」


 そう言ってオレは布団を出た。

 仕方がない。こうなったら二度寝は諦めて起きるか……。


「で、姉貴。今回はどんなことで喧嘩したんだよ?」


「聞いて!父さんったら、私が何日か連続で遅くまで出かけてただけでもうカンカン!そしたら私もカンカン!それ見てママまでカンカン!ね?ひどいでしょ」


「いや。ひどいのは姉貴の説明かな……」


 その後に姉は布団の中でテレビをボーっと見ながら言った。


「あ。ってかあんた。久しぶりに私の買い物付き合いなさいよ。今日、昼に行くから」


「え?誰と話してんの?」


 オレはそう言った瞬間、急いで、そしてできるだけゆっくり音を立てずにドアの近くまで行った。


「な~にまた変なこと言ってるのよ?あんたよ。あんた。あんたしかいないでしょ?」


 姉はそう言いながら振り向いた。しかし、オレはもう既にドアを開けて逃亡することに成功していた。姉はその光景を見て、


「って……あれ?いない……あいつ逃げやがったな……」



 一方、オレは無事に家から脱出していた。


 ふぅ……。姉貴は人使い粗いから酷い目に遭うに決まってる……。この間だって少しだけとか言ってたくさん買っては全部オレに持たせて、翌日オレは筋肉痛になったんだからな。


「とはいうものの……出てきたはいいが……」


 オレは今日は外に出るつもりがなかったので格好が、いつも家にいる時に着ている右胸のあたりに自宅警備員とロゴの入ったジャージのまま出てきてしまった。まぁしかし自宅警備員が外出てるって矛盾はそれはそれでシュールだな……。


「でもこれ、思ったよりもハズいな……」


 オレは右胸あたりに書いてある自宅警備員という文字を隠そうと、右腕を胸に当てるがそれはそれでこれだと、なんかずっと胸が痛いやつみたいだし……。

「それはそうと今9時だったよな?姉貴は昼に出かけるって言ってたな……どこで時間潰すか……」


オレはポケットに手を突っ込みいくらかお金が入ってないか調べた。すると、手に硬貨のようなものが複数、触れた。

 頼む!200円はあってくれ!それならカフェくらいには行ける!

急いで取り出して見てみると、


「50円一枚と……10円が……五枚で…………100円かよっ!」



 しばらくの間、オレは近くの公園のベンチに座って何をして時間を潰そうかを考えていた。

 どうしようか。昼まではあとおよそ3時間近くある……。近くにはブランコ、ジャングルジム、砂場、鉄棒、すべり台か……。なるほど。

とりあえず今の案では、一人手遊びで30分、ブランコで30分、ジャングルジムで30分、砂場で30分、鉄棒、すべり台で30分で3時間じゃないか。いや……しかし待て。どれも30分もできる自信がないぞ。特にすべり台なんて一回滑ったらもういいだろ。って、こんなこと言っていても仕方がないな。こうなったらまずは一人手遊びからだ。

 そういうことでオレは一人で手遊びを始めた。オレは右手と左手で両方でキツネを作り、まず右手のキツネを動かして言う。


「ふぁっ。ふぁっ。ふぁっ。ジョニー。やっとここまでたどり着けたようだな」

続いて左手のキツネを動かして言う。


「今日こそお前を倒すぞ!山田!あ、さっきは外国人設定だったか?まぁいいや」


 (山田、ジョニー、酒場にて)


山田「ジョニー。愚かな者よ。この俺には勝てぬぞ」


ジョニー「この日をどれほど待ったか……。聞いて驚くなよ。俺は自分の姿を拳銃に変えることができるようになったのだ!」


山田「ほう。面白い。やってみろ」


ジョニー「いくぜ」


 オレは左手で拳銃を作った。そして言った。


拳銃ジョニー「どうだ!これで撃てばお前は一発だ!」


山田「…………」


拳銃ジョニー「へ。びびったか?さぁ!撃ってやる」


山田「ふぁっ。ふぁっ。ふぁっ。よ~く見てみろ。それはただの左手だ!」


拳銃ジョニー「な、なんだってー!?」


 (山田、ジョニー退場。八橋登場)


八橋「……よし。次はブランコだ……」



「え……なにやってるの?」



 その時、誰かが引き気味に話しかけてくるのが分かった。


「ん?」


 その声が聞こえる方を向くとそこにいたのは万条であった。


「え、お前今の見てたか?ていうか何やって――」


「え、ハッチーそんな変な服着てなにやってるの……」


 万条はオレが来ていた自宅警備員のロゴに気を取られていた。


 ふぅ……さっきの見られてなかったみたいだな……。


「悪かったな……そういうお前は普通だな」


 万条を見てみると、至って普通な、どこにでもいそうな私服であった。


「ふ、普通って……まぁいいやーハッチーだし」


「てかお前はどっか友達とでも遊んでくるのか?」


「いやー今日は違うよー。ちょっと今日駅前でオープンするショッピングセンターにいこうかなぁって」


「へぇ。いってらっしゃい」


「ちょ……なんか素っ気無くない?」


「そうか?じゃあ何て言えばよかったんだよ」


「それは……おれも行く!とかさー」


「それ。面白いジョークだな」


「……っ。ハ、ハッチーはなにやってたの?こんな朝早くから自宅警備員がさ」


「実は姉が来てて……はぁ……」


 オレは姉を思い出しただけで疲れがどっと沸いてきた。


「え、どうしたの?」


「姉が出かけるまで時間潰さないといけないんだ。昼頃まで……」


「そ、そうなんだ……」


「ああ……」


 すると、万条は何か思いついたような顔をして言った。


「あ!じゃあワタシもまだショッピングセンター開くまで時間あるから少しの時間だけカフェでも行く?」


「ああ!助かるよ!」


「うん!じゃあいこ!」


 

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