第44話 休日の惨事2


 オレたちはカフェに入り座った。店員が注文をとる。


「ご注文はいかかなさいますか?」


「ハッチー何頼む?」


「コーヒーかな。万条は?」


「ワタシは……カフェラテかな。コーヒーとカフェラテで!」


「かしこまりました」


「で、ハッチー何でまたそんな格好なの?」


「あー、諸事情でな……急に家を出てきたんだ」


「ふ~ん。大変だねー」


「そうなんだよ。それでその後急に出てきたもんだから何にもすることなくてさ」


「うん」


「それでポケットの中調べていつくか硬貨があったから、やった!とか思って見てみたら100円しかなくて。こんなんじゃカフェも行けないじゃないかって感じで……ってあれ?」


「……え?ハッチー?」


 すると、店員がコーヒーとカフェラテを持ってきた。


「お待たせいたしました。コーヒーとカフェラテでございます」


「あ、はい」


 店員が戻ったところで万条が言った。


「ごめん。ハッチー。どういうこと?これ、200円だよ?」


「……」


 オレはそれに答えずに、即座に運ばれてきたコーヒーを飲もうとした。しかし万条はそれを取り上げて言った。


「これ200円だよ?」


「その……すいません……忘れてました……明日必ず返しますので貸してください」


 オレがそう言うと万条は仕方なさそうな顔で言った。


「いいよ。ワタシが払うよ。じゃあさ。この後の買い物付き合ってくれない?」


「は?」


「だからー。飲み物も奢ったし、今日、付き合ってよってこと!」


「いや。まぁ確かにそれは悪かったけど。でも、お金は必ず明日返す!だから、それだけは勘弁してくれ!」


「そ、そんな反応しなくても……。でもワタシがここでハッチーの分の飲み物代を払わなかったらハッチーはどうなるかな?ね?どうぞ?」


  ……っく!こいつ……。


「……す、すみませんでした……」


    ○


 というわけで、いくつもの不遇によってオレは万条と大手ショッピングモールに来ているのだ。そして歩きながらオレは万条に質問した。


「なぁ?こんなとこまで来て、何買うんだよ?」


「え~、別に決めてないよー」


 き、決めてないだとっ!?


「何言ってんの?じゃあ来る意味ないじゃん」


「あるよ!いろいろ見たりしたいの!」


「いや、普通、買いたいものを決めて来るだろ……。こんな時間の無駄な使い方ありえない……。なんという時間ロスだ……」


「ちょっと、ハッチーうるさいよー!ハッチーの時間の使い方の方が無駄でしょ!」


「あ?今、お前は言ってはならないことを――」


「あっ!!」


「なんだ?どうした?」


「これ~!可愛くないっ!?」


 そう言って万条が食い付いたのはペットショップにいる仔猫だった。


「……って。ハッチーにこんなこと言っても同意してくれるわけないよね……ごめんよ。ハッチー……こんなこと聞いたワタシが間違って――」


「かっ、かわいいっ!!!」


「うっわ!!びっくりしたー!え?なに?」


「かわいいと言ったんだ。変なこと言ったか?ていうか、ここ寄ってかない!?」


 実はオレは無類の猫好きであった。そんなことを知らなかった万条は少し引き気味に、


「え…………う、うん……いいけど…………」


「よし!行こう。ほら、何やってんだよ。早く行こうぜ」


 オレたちはペットショップへ入った。


「いらっしゃいませー」


 オレは真っ先に猫がいるところへ向かった。


「おい!万条!見てみろよ!こんなに猫(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)達がいるよ!」


「……ね、猫ちゃん?ハッチー……キャラ変わりすぎ……動物好きだったんだね……ねぇ!ていうか、向こうに犬もいるよー!あっちも見ようよ!」


「いや。ここにいる」


「えー!?犬好きじゃないの?」


「悪いが今、この仔猫達と会話をしてるんだ。邪魔しないでくれ」


「……もう!!」


 そうこうしてオレは1時間近く、不動で仔猫達を見ていた。しかし店員に注意されてしまい、やむを得ずにオレたちはペットショップを出てしばらく歩いていた。


「あーー!可愛かったなぁ!猫ちゃんたち!な?万条?」


「……え?うん。そうだねー。ていうか猫をちゃん付けって……。ワタシのことは呼び捨てなのに……」


 万条はだんだんと声が小さくなりながらそう言った。


「え?なんか言った?」


 万条はムッとなり、少しぽっぺたを膨らませた。


「何でもないっ!ていうか、もう後半はハッチーなかなか帰らないから店員さんが諦めムードすごかったよ」


「そうか……」


「まぁ、ワタシが最初に食い付いたんだしいいんだけどさ」


「なんか悪い……ていうかどっか行くとこある?」


「う~ん……なんかお腹空いちゃったなぁ!なんか食べよう!」


「そうだな……じゃあ……この中の店にでも……って――」


「ん?どうしたの?ハッチー?お腹空いてない?」


「オレお金ないんだった……」


「あ」


 万条もオレもオレがお金がないことを忘れていた。


「あー。もう仕方ないからワタシ出すよ?ほんとなんていうかアレだけど……」


「悪い……明日絶対返すから……ってなんかこれ返さない奴の常套句でよく聞くよな」


「やめてよ!」


「冗談だよ。返すよ」


「じゃあフードコート行こっか」


「そうだな」


 フードコートにてオレと万条はそれぞれそばを頼んだ。机に座り、そばをお互いに静かに啜って食べていた。

「ふぅ。美味しかったー!」


「相変わらず食べるの早いな」


「え?そう?ハッチーが遅いだけじゃないの?」


「そうそう。昔から食べるのが遅いのよ。小さい頃だって食べるのが遅くて父さんにしょっちゅう注意されてたわよ……」


「まぁ、確かに言われてみたら昔から遅いかもな。昔だって食べるのが遅くてよく……って、んっ!?」


 横を向くと何故か姉が座っていた。


「やあ!」


「何故ここにいる?」


「逆に問おう。何故逃げた?理由を言え。どんな理由にせよ、命はないと思え」


「その……ごめんなさい……」


 買い物ってここに来る予定だったのかよ……。


 オレの素直な謝罪に姉はニッコリと笑い許してくれた。


「よろしい。で、あんた。そのカッコなに?ダサいよ」


「……触れないでくれ」


「ていうか、このかわいい子ちゃんは誰?相席してる知らない人?」


「いや。部活で同じなんだよ」


「え!?ぶっ、部活?あんたが?あははは!冗談にしても笑えないよ」


 万条がそれに対して自己紹介を始めた。


「ワタシ同じ部員の万条ユイです!」


 姉はそういう万条を見て初めは驚いていたが、次第に納得したようだった。


「へぇ~。そうかい。まさかあんたが部活なんてやるなんてね……」


「オレだってやりたくなかったんだよ」


「あら。そうなの?」


「こいつ、万条がしつこく勧誘してきたんだよ。その後に担任の先生に無理矢理入れられたんだ。ほんとさんざんだよ」


 万条は頭を掻き、苦笑いしながら姉に謝った。


「あははは。すみません、おねぇさん……」


 姉はそれを聞いて言った。


「ユイちゃん……ナイスだよ!」


「へ?」


「いや~こいつさ~ほんとヘタレで私が何言っても言うこと聞かないし、やっとユイちゃんみたいな可愛い彼女ができたかと思うと……私は嬉しいよ……」


「姉貴。オレと万条はそういうのじゃないぞ。ただの部員だ」


「え~な~んだ~そうなの?ユイちゃん?」


 姉は万条を見た。


「そ、そうですよ~!ハッチーはヘタレで言うことも一言余計ですし……って……あ……」


 万条は言い過ぎたというような顔で姉を見た。


「あははは!そうだよね!一言余計なんだよね!我が弟ながら残念で仕方ないよ!で、ハッチーって誰?」


「あ。ワタシ、あだ名で呼んでるんです……」


「そっか!なんかお世話になってるみたいでありがとうねユイちゃん。大好き!」


「おい。姉貴。マジで気持ち悪いからそういうこと言うのやめてくれよ」


「なんだよ~つれないなぁハッチーは♡」


  う、うぜぇ……。


「ていうか姉貴は買い物って何買うんだよ?」


 姉はオレの質問を無視して万条とさらに話し始めた。


「ていうかユイちゃんは何でこんなに残念……な弟を誘ってくれたの?」


「なんていうか……誘える人がいないってのもあったんですけど……何かハッチー、いいなって思ったんです」


「そっかーーー!いいなぁ。私はハッチーが羨ましいよ……」


「姉貴、次そう呼んだら今日ご飯作ってやらないぞ」


「あーーーー!ごめん!今のなし!」


 続けて姉が面倒なことを言った。


「じゃあご飯も食べ終わったことだし、みんなで見て回ろうか!」


「「え?」」


オレと万条は声を合わせて言った。


「あれ?嫌だった?」


「そんなことないです!」


「嫌だった」


「いや~よかった!じゃあ行こうか!」


「オレの言ったことは無視かよ……」



 その後、オレは万条や姉に振り回された。買い物に付き合わされ荷物はすべてオレが持った。またこれは筋肉痛になりそうだな……。

 そして万条と別れ、帰り道は姉と二人で帰っていた。


「それにしても、あんた。女の子に奢って貰ってたとかサイテーね」


「い、いいだろっ。返すんだし」


「そういうのじゃないわよ……ていうかユイちゃん、すごいいい子じゃない。付き合いなさいよ」


「は?何言ってんだよ。冗談にしてもきついよ。それにさっきも言っただろ。そんなんじゃないって」


「はぁ……」


「なんだよ?」


「さっき、二人になった時、ユイちゃん言ってたわよ。私が弟のどこがいいの?って聞いたら、『そうですね……最初は冷たい人だと思ってたんですけど話してみると意外とお茶目だったり、わがまま聞いてくれたり、色んな顔を持ってると思うんです……なんだろう……あ!……そうです、一緒にいると楽しいんです!』って。あんな子いないって!ねぇ!聞いてる?」


「聞いてるって」


「でもあんた。少し変わったじゃない。それだけでお姉ちゃんは安心だよ!」


 姉はそのあとにまた、続けて言った。


「で、あんたユイちゃんとどこまでいったの?」


「だから、そんなんじゃないって!」




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