第33話 先輩たち
万条は教室に戻ると、既にコーヒー牛乳を飲み干していた。席に着き、次の授業の準備をしていた。自分の席に着いたところでミキに話しかけられた。
「遅かったね~。迷子にでもなってたかぁ?」
「違うよ、なんか先輩に話しかけられてさ……」
ミキは驚いて、万条の肩を揺らした。
「え!?ナンパ?」
「そんな感じかも。いや、でも違うよー、たしか……道楽部っていう部活の……」
「あー、よかったーユイ、ぼけーっとしたとこあるから心配したよ。ていうかなにその部活?」
ミキは笑いながらそう言って、次の授業の教科書を出していた。
「……ワタシもよくわからない。道楽部って何やってる部活か全然分からなかったよ……先輩たちは変わってそうだったし」
と、万条は笑いながら説明した。
「なにそれ?変なのー」
「だよねー」
「はーい、静かにしろ―。授業やるぞー席に着けー」
5限は国語だったので、咲村先生が教室に入って来た。生徒たちは、自分たちの席に着いて、だんだんと教室の中は静かになっていった。ミキは自分の席に戻って、万条も机の上に教科書を出して、それを、テキトーに開いた。
「じゃあ、教科書の34ページを開けー。そこをじゃあ、誰かに読んでもらおうかな」
万条は、咲村先生の言っていることはまったく聞いていなかった。教科書を開いておきながら、それを全く見ないで、窓の外を見ながら、さっきの昼休みに会った先輩たちのことを何気なく考えていた。
――道楽部……。変な先輩たちだったなぁ。どんなことやってるんだろう……。
「そうだなぁ。じゃあ、さっきから窓の外ばかりを見ている誰かさんにお願いしようかな」
「……」
「おーい、万条~。聞いてるかー?」
「……」
「万条!聞いてるか!?」
「え?はい!聞いてませんでした!!」
クラスの生徒は万条のおとぼけさに笑った。万条は、何があったのか、わからないような顔をして、立ち上がった。
「じゃあ、万条。そこを読んでくれ」
「え、は、はい……」
万条は、開いてある教科書を持ち上げて、読み始めた。読み始めた瞬間、クラスの生徒が、怪訝な顔をして、また咲村先生は呆れた顔をした。
「万条……。何ページを読んでいるんだ……。お前が読んでいるのは36ページだぞ。私が読んでほしいのは34ページだ」
「あっ……!」
万条のミスにクラスの生徒は再び、笑った。咲村先生は溜息をついた。
「はぁ……。万条、お前、今日は大丈夫か?」
「あはは……ダメかもしれないです」
万条は、ふと横目で大花を見てみた。大花は、周りの生徒とは異なって笑っていなかった。万条は教科書の34ページを開いて、今度は注意されることはなかった。
その後も、万条はどこかボーっとしながら過ごして、5限が終わった。
放課後になった。
万条は、ミキとパフェを食べに行くことを約束していた。帰りのホームルームが終わった後、ミキのところへ行った。そこで、ミキは誰かと話していた。何を話しているかは聞こえなかったけれども、万条は、ミキに話しかけに行った。
「ミキー。パフェいこっー!!」
すると、ミキは、
「あーごめん……ユイ。今日、いけなくなっちゃった……」
と、申し訳なさそうに言った。
「えっ!?」
「本当は今日の練習はなかったはずなんだけど、ワタシたちの吹奏楽部は、試験が終わったらすぐに大会があってね……、どうしても、その前に音合わせやら打ち合わせやらしないといけなくなっちゃって……」
今日の放課後はパフェに行く約束をしていたので、内心、がっかりしていたが、その後に、ミキの顔を見て、言った。
「そっか!部活なら、しょうがないね!練習頑張ってね!」
「うん……また今度、行こうユイ。ワタシから誘っておいてごめんねほんと」
「いいよっ!今度行こうね!」
「うん、ユイありがとう」
「いいよ!」
万条は、予定がなくなってしまった。久しぶりにミキと遊ぶのは楽しみであった。しかし、ミキは部活動をしていて忙しいみたいだった。
ミキは、万条が高校に入学してから、初めてできた友達だった。クラスが一緒で、席がひとつ後ろだったミキとは、お互いに緊張しながらも、万条はすぐに仲良くなった。万条は人懐っこく、元気であり、その後もすぐに他の友達ができたが、ミキは初めてできた友達だし、家が近いこともあってか、クラスの中でも特に仲が良かった。
そんな友達も、部活をやっていると、遊ぶ機会が少ないことが分かっていた。そして、部活動をやっている友達を見て、少しだけ、えもいわれない焦燥感を抱くのであった。
万条は、帰宅することにした。教室でしばらくの間、他の友達とおしゃべりしていたが、どんどん教室にいる生徒の人数が減っていったので、教室を出た。下駄箱まで歩き、上履きを脱いで、ローファーに履き替えようとした時、万条は今日の昼休みのことを思い出した。
――そういえば。今日、昼に会った先輩が、誘ってくれてたっけ。……道楽部。
場所は……たしか……。
万条は、一旦、動きが止まった。その後、万条は、ローファー下駄箱にしまい、再び履き直した。
気が付くと、第三校舎の二階の一番奥の部屋の前に来ていた。
万条は、道楽部の部室の前で、なかなか入れずにいた。なぜだか緊張してしまい、ドアを開けるのを躊躇っていた。すると、
「おっ!万条じゃないか!朝の話聞いていたのか?どうしたこんなところで、もしかして道楽部の入部か?それならやめとけ、こんな変な部活」
後ろから声が聞こえ、振り向くと、そこには咲村先生がいた。
「せ、先生はなんでここに?」
「はっは!知らないのか?私は、道楽部の顧問だぞ?」
「そ、そうなんですか!実は、ワタシ、今日の昼休みに、小池さん?に一回でもいいから部室に来てみてって言われて、それで……」
「なるほどな。まぁ、どちらにせよ、ちょうどよかった」
「ん?なにがちょうどいいんですか?」
「いや、何でもないさ。小池も成長したなー。では、いらっしゃい、道楽部へ」
咲村先生は、そう言って唐突に、部室のドアを開けて、中へ入った。
「よっ!小池、堀口。調子はどうだ?」
「あ、せんせい。また来たんですかー。さすが暇人ですね?」
「あ、暇人な咲村先生じゃないですか。略して、暇村先生お久しぶりです。調子ですか?まぁ小池は相変わらずですよ。受験生なのに全然勉強してないですし」
「たった今、お前らの調子などどうでもよくなった。小池、堀口。先生に向かって暇人とはどういうことだ……?」
咲村先生が怒り込めて返答するも、小池は、堀口が勉強していないことを指摘した方に反応した。
「ちょ、ていうかホーリー。何それ。アタシは日々進化しているのに気づいていないの?受験生であるワタシが勉強しなくてはいけないのに、こうやって、この勉強に無益な部活に出ているの。それは、まさに余裕!他の受験生がひしひしと勉強している間、アタシたちはこの部活で未だ楽しいことを追及している。これはどういうことだろうか?分かるかホーリー?」
「おそらくだが……」
「よし。いってみなさい」
「志望校に受からないだろうな」
「大正解!」
「小池。もう一年、勉強する日が365日増えてよかったな」
「いや、アタシ、浪人しないから!てか浪人するならあんたも道連れよ!」
咲村先生は、小池さんと堀口さんの会話を、目を細めて聞いて、呆れていた。
「お前ら相変わらず、頭の悪そうな会話してるな……」
「で、先生。先生は何しにきたんですかー?また見回りという名のサボりですか?」
「小池。咲村先生はこれでも先生だぞ。忙しいんだ。そう。サボりをしていて忙しいんだ。そうですよね?先生?」
「サっ、サ、サボりなどではっ――」
「あの……」
いままでずっと会話に参加できずに、黙っていた万条が、ふいにそう声を出すと、咲村先生は、万条がいたことを思い出して、二人に紹介し始めた。
「あ、そうだ!小池。堀口。話があるんだ。サボりなんかじゃないぞー。ほら、みたことか!部活見学者がいるんだよ。私のクラスの生徒の万条ユイだ。まぁお前たち、よろしくな」
「あ!ユイちゃん!来てくれたの!嬉しい」
「万条ちゃん、ようこそ」
「万条ユイです。よろしくです!」
「よろしく~とりあえず座りなよユイちゃん」
「は、はい!」
「では、私はやることをやったので失礼する。お前ら二人、まじでちゃんと勉強しとけよ~」
咲村先生は部室を出て行った。先生が出て行ったあと、万条は部室へ来たはいいけれど、この部活は何をするかも、分からなかったため、尋ねた。
「あ、あの。この道楽部って何をしてるんですか?」
「え?そうだな~何やってるんだろう。堀口知ってる?」
「小池。そんな難しいこと知らないぞ」
「え?」
「まぁ~つまり暇なのよこの部活。ね?堀口」
「そうだな。暇なのさ」
「ということで、二人とも!出かけよう!」
「小池。いきなりだな。勉強はしなくていいのか?」
「息抜きは必要よ!そうこれは息抜きなのよ!今日くらいいいじゃない!せっかくユイちゃんも来てくれたんだしさーそれに行きたいところがあるのよ。せっかくだし行こう!」
「まぁそれもそうだな。今日は万条ちゃんも来てくれたしな。ん?待てよ。しかし、ひとつ気が付いたんだが、小池はいつも息抜きをしていないか?」
「う、うるさいわね!」
小池さんの堀口さんを軽く、叩いて言ったその姿は楽しそうだった。万条はそれを黙って見ていた。
「じゃあ、ユイちゃん、出かけようか!」
「え?はい!」
「で、小池。どこに行くんだ?」
「行ってからのお楽しみよ!」
「……そうか。てっきりパチンコに出も行くのかと思ったぞ」
「ちょっと堀口……アタシはどんなキャラ設定なのよ……ってことで、いこうユイ
ちゃん!」
「はい!」
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