第47話 鉄板

オレと立花はひとまず2人を探すために、食べ物が売っている海の家までやって来た。辺りを見渡し、2人を探すものの、姿は見えない。どこに行ったんだ全くあいつら。


「あいつらいないな。もしかして、帰った?」


オレは興味無さそうにふざけて立花に言った。しかし、立花は思ったよりも深刻な顔をしていた。


「オレちょっと、向こうの方も見てくる。八橋はまだこの辺お願い」


そう言って、立花は急いで海の家から離れた人気の少ない遠くの浜辺へ向かった。オレは1人になり、その場で突っ立っていた。何であいつあんなに深刻な顔してたんだ?

探してはみるものの、やはり2人の姿はどこにもなかった。オレは痺れを切らして、海の家の売店まで歩いて行った。というのも、オレは2人がどこに行ったということよりも、お腹が空いて力が出なかったのである。


「すいません、焼きそば貰えますか?ひとつ」


「はいよ!」


店員さんは注文を受けた瞬間に、焼きそばを作り出す。鉄板の上で一口サイズに切ったキャベツ、にんじんを音を鳴らして炒めていた。火が通ると、次に豚肉を炒め、思わず唾の出てしまう香りをオレは目の当たりにしていた。そして、麺を入れる。その瞬間、麺は解れ始め、炒めていた具材と絡まり始める。オレは焼きそばが炒められる音を聞いて再び、唾を飲み込んだ。


「はいよ!お待ち!」


「どうもありがとうございます!」


オレは、割り箸を2つに折り、湯気が出た焼きそばを口に放り込んだ。この濃厚なソースと絡み合うそば。そして、具材が多くの食感を作り出し、香りを漂わせる。

完璧だ。やはり、【鉄板】で焼いた焼きそばこそが焼きそばだ!

オレはこんなに美味しい焼きそばを作ってくれた店員さんに御礼を言った。


「焼きそば、美味しいです。さすが、鉄板で……って、おいおい」


オレはその時初めて顔をあげて、店員さんの顔を見た。その顔はどこか見覚えがあったのだった。


「何やってんの?お前」


そこには、頭にタオルを巻いて焼きそばを作る万条がいた。

……何だろう。こういう展開をよく【鉄板】って言うよな。よくあるんだよな、こういうの。漫画とかドラマとかでさ。なんていうか、本物の【鉄板】を前にして、【鉄板】的なこの展開。すごくしょうもない。すごく疲れた。


「いらっしゃいっ!」


「いやいや、『いらっしゃいっ!』じゃなくて、何やってんだって話だよ。オレは疲れたよ。お前ら戻らないから、立花心配してたぞ。ていうか、富永は?」


「あいよっ!」


オレがそう言うと、万条は海の家中でドリンクや料理を運ぶ富永を焼きそばを混ぜていたヘラで指し示した。


「お、おう……お疲れ……」


オレはひとまず、バカみたいに心配していた立花に連絡した。そして、オレは海の家に入り、そこで焼きそばを食べていた。

どうやら、なぜ富永と万条が海の家で働いていたのかというと、それはオレの姉がここの海の家をやっている人と知り合いだったらしく、人手の足りなさに万条と富永を無理やり導入したようだった。

それにしても、姉さん、顔が狭いんだか、広いんだか分からないな。


「ハッチーも働くかい?働かざる者食うべからずだよ」


焼きそばを食べていると、元凶であり姉さんがオレにワザとらしく言ってきた。


「あの、もうひとつ焼きそばを頼めますか?」


「了解いたしました!焼きそばいっちょ入りました!お願いします!!」


姉さんは大きな声で、万条に言った。そして、続けた。


「また食べるの?働かざる者食うべからずだよ?それでも働かない?」


う、うざ……


「あ、あの……注文はないので、もう色々と結構ですよ。勤務中ですよね?」


「はい、勤務中ですが私は今ーー」


姉さんの言うことを遮ってオレは、


「ごちそうさまでしたー」


と言って、外に出た。


「あれ?焼きそば食べないのかー?」


オレは外に出て、辺りを見渡した。その瞬間、立花はようやくやってきた。立花はオレに言った。


「はぁはぁ……二人ともいる?」


オレは何も言わず、二人を指差すと、立花は安心したように一息着いた。

結構、走り回ってたみたいだな。だいぶ、お疲れのようだな。


「お前、まだ何にも食べてないだろ」


「え?うん、そうだけど」


「あったかいうちの方が美味いぞ」


オレはそう言って、さっきオレが座っていた席を指差した。そこには、さっきオレが頼んだ焼きそばが既に出来上がっていた。


「おっ!八橋!サンキュー!」


と言って、立花はすぐにそこへ行き、焼きそばを啜った。


「いいとこあるじゃん」


その姿を姉さんは、見ていたらしく、オレを膝で突くようにして言ってきた。


「働け」


オレは姉さんにそう言って、大花が待っているだろう荷物置き場へ向かったのであった。

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