第21話 異変

 テストまであと5日になったある日、事件は起こってしまった。オレはその日、昼休みになりいつものように部室へ向かっていた。階段を上がっていると急いで階段から降りてくる奴がいた。そいつはなんかに追われているように階段を下ってきてオレとぶつかった。


「おっと、申し訳ない」


 オレがそう言うとそいつは何も言わずにそのまま行ってしまった。チラッとそいつの顔を見るとそいつは以前、冨永と口論を繰り広げていた奴であった。こんなところでなにをやっていたのか知らないが、危なっかしい奴だ。そしてオレは部室へ辿り着いた。


「あ~、なんでここの部室二階なんだよ。エスカレーターを設置してくれよ。全く」


 そう独り言を言いながら部室のドアを開けると、誰もいなかった。


「まだ、誰もいないのか」


 オレは、一先ず椅子に座りみんなが来るのを単語帳を見ながら待っていた。すると間もなく万条がやってきた。


「お~ハッチー!早いね!どうしたの?」


「まぁそう言う日もあるだろう」


 そして、立花と冨永も続いてやってきた。


「だから、お前、アレはだな、円の接線を求める問題であって……公式覚えているか?」


「えっと……」


 そう数学の話をしながら入って来た。


「よっ!ヒイちゃん!バナ君!」


「おう!あれ八橋?」


「お~ユイ。ん?お前、今日は早いな」


 立花と冨永は何故オレがこんなにも早くいるのか、と言った眼で見てくる。


「また、それか。たまにはそんな日もあるだろうよ」


 すると、大花が本を読みながら部室に入って来た。


「あら。何故、生き物さんが……」


「うるさい。その先は言わなくていい」


「分かったわ」


「ああ、それはどうも」


「で、何故、生き物さんがこんなにも早くいるのかしら?」


「言いやがったな……まぁ何でだろうな。自分で考えてみな」


「そうね……また今度考えるわ」


「……それは今後一切考えないやつだ」


「あら、正解よ」


 そんな会話をしていたら立花が何かを探していた。それを見て万条が聞く。


「どうしたの?バナ君?」


「え?昨日ここに置いて置いた教材が一部ないんだ……」


 それを聞いて冨永が、


「どうせ探し方が悪いのだろう。ちゃんと探したのか?」


「うん……。絶対に昨日ここに置いたはずなんだけど……」


 オレは立花を見た。すごく一生懸命に探している。


「まぁ、記憶っていうのは間違っていることも多いからな。家に帰った時にもう一度探せよ」


「いや、でもたしかに昨日、今日使うためにここに置いておいたと……誰か持ってないよね……?」


 オレはその時ふと頭をよぎった。それはさっき階段でぶつかった奴である。もしかしたら、あいつが盗んだ?いや、でも、わざわざそんなこと何でするんだ?冨永?冨永への、この前の仕返しか?それにしてはやりすぎじゃないか?


 そんなことを考えていたら冨永が、


「どうした八橋容疑者。そんな顔して」


「いや、オレが犯人だと疑ったような言い方するなよ」


「違うのか」


「ああ、当たり前だろ」


「じゃあ、早く出してやれ。イタズラにしては過ぎるぞ」


「いや、だから違うって」


「じゃあ、どうしたというのだ?」


「その、今日オレが早く来たとき、階段であいつがいたんだよ」


「あいつ?八橋のことか?」


「おい、真面目に聞けよ。じゃあ、オレは誰なんだよ」


「それで?」


「ああ、それでそいつはその、この前お前が揉めてた男子生徒だったんだ。何か知らないがすごい形相して階段を下って行ったのを見た」


「え?坂下(さかした)か?」


「名前は知らないけど、そいつだよ。まぁでもそんなことさすがにしないと思うんだが」


「そ、そうか……」


 すると、万条がオレに尋ねてきた。


「てかさ、ハッチー!部室どうやって入ったの?」


「は?何言ってんだよ。普通に入ったよ」


「え?普通にって?」


「だから普通にドアを開けて入るんだろ。それともドアをすり抜けて入るのか?」


「いや、だからさ、ドアを開ける前だよ」


「は?開ける前?強いて言えば手汗を拭くぐらいかな」


 オレが言ったことに対して万条と立花、冨永は目を合わせた。


「どうしたんだよ」


「ハッチー。鍵借りてないの?職員室で」


「鍵?」


「うん、部室入る時は鍵が必要なはずなんだけど……」


「そ、そうなの?」


「あ~、もう~。ハッチー……」


「いや、ちょっと待て、そうか。じゃあ鍵が空いてたってことはオレの前に誰か入ったってことじゃないか」


「そうだよ……やっと気付いた?」


「ああ、でも鍵って職員室にあるんなら坂下が持っていくことなんかできないじゃん」


「いや、そうでもないんだよね~、色んな部活の鍵が一纏めになって置いてあるから……先生達もいちいち確認なんてしないし……」


「なるほどな。じゃあ、やろうと思えばどの部活の部室でも自由に入れるってわけか」


「まぁそうだね……今日はてっきり誰かヒイちゃんかバナ君あたりが先に借りてるのかと思ったよ」


「まぁ、じゃあ、多分いま職員室に行ったら鍵は平然と置いてあるんだろうな」


「そうだね……」


 すると冨永は口を手で押さえて言い始めた。


「き、きっと、坂下だ……。ワタシに仕返しをしようとしたんだ……」


「いや、待てよ、でもまだ確証があるわけじゃ……」


「しかし、他にいない。それにお前も見たのであろう?」


「まぁ、そうだが……」


 万条と立花がよく分かっていない顔をして聞いていた。そして、冨永に尋ねた。


「え?ヒイちゃん。仕返しって?」


 冨永は少し動揺した。しかし、深呼吸して言った。


「ああ、その実はな……」


 そして、冨永がクラスで嫌われているという話をした。その嫌われぶりは自意識過剰的なものではなくオレも目撃したように実に解かりやすい嫌われ方であった。

その話を聞いて、万条と立花は、


「え~~!?何で!?ヒイちゃんが?」


「何でだろうな。冨永さん接してみれば良いやつなのに」


「まぁ、アレだろ。一回誰かに嫌われて、それが広がってたいして冨永と絡んでないやつも嫌い、ていうか悪いイメージを植え付けられてんだろ」


 冨永は言い出す。


「ワタシのせいだ……ワタシのせいで……」


「いや、冨永さん。そんなことないよ。オレも教材に名前書いてなかったし……」


「バナ君、どれくらい無くなったの?」


「数学の教科書とノート、あと生物と日本史の教科書。あと国語のノート……」


「その取り方をみるに明らかにテスト勉強の妨害をしてるな。おそらく、その坂下ってやつが犯人だとすれば、冨永にテスト勉強させないようにしたかったんだろうな。でも盗んだのが立花のだった。って感じか」


「そうだな、八橋。冨永さん気にしないでよ。別に誰かに見せてもらえばいいし」


 大花が本を閉じて言った。


「ワタシが貸すわよ」


 しかし、冨永は耐えきれず、


「ダメだ!!それでは……」


「いいって。冨永さん」


「ワタシは見て来たのだ!お前がこの何週間かすごく一生懸命に教科書に書き込んだり、まとめのノートを作ったり……それなのに!」


「いいんだよ、もう一度やればいい」


 立花は笑って言う。冨永はそれを見て余計に荒ぶった。


「しかし、教科書はこの先ないと授業が受けられない!ワタシのせいですまん。ワタシがいつも見高であるために……」


ついには立花も黙り込んでしまった。すると万条が、


「取り返しに行こう」


 と、言った。そして黙っていた立花も、


「そうだな!今から行ってやろう!問題は早く解決した方がいい」


「そうだねバナ君!みんないこ!」


 やっぱり行くのか。こうなったら万条は、いや、こいつらは退かないであろう。




 

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