第19話 テスト


 数日後。またいつものように放課後に部室に集まる。大花も山登り以来来るようになった。来るのはいいが、大花はいつも黙って本を読んでいる。すると、やることがなく立花が暇に耐え切れなくなったのか、叫ぶように、


「あ~暇だな!」


 そう言った後、退屈そうに背伸びした。それを聞いた冨永が現実的なことを言い出す。


「しかし、もうすぐ中間テストだろう。ていうか、みな勉強はしているのか?特に立花」


 立花は図星を指されたかのように挙動不審になる。


「え、え?まあ人並みになー、あはは」


 こいつ絶対やってないだろ。同じことを全然勉強してない中学の時オレも言ったことがあるぞ。ていうか、今まで気にしたこともなかったけれど、こいつらは勉強してるのか?立花はともかくも、万条、冨永、大花はどうなんだ?


「ていうか、みんなは成績とかどうなの?今年はまだテストないから去年の成績」


 オレは聞いてみた。するとまずは冨永が毅然として答えた。


「ワタシは学年でいつも十番以内には入っているぞ」


「え?まじ?カンニングのやり方教えてください」


「何を言うか。実力だ」


 こいつ頭良かったのか。それに金持ちだなんて。

 万条が、不思議そうな顔をしてオレに聞いてきた。


「ハッチー知らないの?ヒイちゃんは成績優秀者にいつも載ってるじゃん!」


「そ、そうなの?あんなの自分が載ってないから見る気も起きない」


「そういうお前はどうなのだ?」


 冨永がオレの成績を聞いてきた。自分の成績を言った後に聞くなんてほんとうに嫌なことをしてきやがる。オレは自信なげに答えた。


「い、いや。普通より少し上くらいだ……と思う。でもまぁ、日本史と英語には自信がある」


 そうこれらの科目については自信がある。日本史と英語はどちらも90点オーバーしている。しかし、そんなオレの自信は冨永の一言で一瞬にして打ち砕かれた。


「では、前回のテストでなんてんだったのだ?ちなみにワタシは日本史は96点。英語は満点だ。さ、点数を言ってみろ」


 た、高いな、何、ちなんでんだよ。公開処刑かよ。くそぅ。


「オ、オレは日本史は95点。英語は94点だ……これで満足か?」


 オレがそう言うと冨永は本当に満足そうに、


「ふむ。満足だ」


 ムカッ。こいつ憎たらしいやつだ。なら、オレもちなんでやる。


「まあちなむとだが、前回は少し調子が悪かったからな。今回はどっちも150点はとってやる」


「テストは100点満点だろう。それにそう言う奴に限って成績は伸びないのだぞ?」


 冨永はそう言った。しかし、オレは本当に前回は風邪をひいてしまい納得のいく点数が出せなかった。まぁ、言い訳だけれど。


「しかし今回は本当に満点をとってやるよ」


「ほう。ではどうだ?今回のテストで勝負して負けた方は勝った方の言うことを何でも聞くというのは」


「ああ、いいだろう。何でもだな?」


 こいつに勝ってこの傲慢な態度を改めさせてやる。


「ああ、何でもだ。では決まりでいいか?」


「ああ」


 その会話を聞いていた万条が、


「ワタシもやりたい!ていうかみんなでやろうよ!総合成績で!」


「それもいいな。みなで切磋琢磨出来るしな」


「別にいいけど万条、お前。成績どれくらいなの?」


「あへへ。普通くらいかなぁ」


「あへへって。呑気だな。ていうか、立花はともかく大花はどれくらいなんだ?」


「ともかくって……ひどいな八橋……」


「ていうかお前、知らないのか?大花の成績」


 冨永が言う。すると立花も、


「八橋。ドンマイ」


 どうやら状況を把握してないのはオレだけであったらしい。万条も立花も冨永もじっとオレの方を見て笑っていた。


「え?」


「オーちゃん。言ってあげて」


 万条はいつまでたっても状況が分からないままであったので大花の口から言わせようとした。すると、大花は読んでいた本に栞を挟み本を閉じていつものように真顔で言った。


「ワタシ?ワタシは学年一番だけれど、どうかしたの?」


「………………え?」


 オレは驚いた。驚いたまましばらく言葉を発することは出来なかった。念のためにオレはもう一度聞き返した。


「何て?」


 オレの無知さに呆れた顔をして冨永が繰り返して言った。


「だから大花は学年トップだぞ」


「ま、まじ?」


「お前本当に何も知らないのだな」


 どうやら、オレの耳は正常に機能しているようだ。大花が学年一番だと?こいつが?何かの間違いだ。


「それ、本当なんだよな?」


「ああ、なぁ、大花?」


「ええ」


 くそう。オレの聴神経が正常で且つこいつらの言うことが正しいと仮定すれば、分かることは一つ。世の中って残酷……。


「どうかしたの?生き物さん。ワタシと勝負する?」


「しないです」


「なんで?」


「逆になんで?」


「まぁいいわ」


 そう言ってまた本を読み始めた。すると、今まで黙っていた立花を見て冨永が言い出す。


「ていうか立花、お前は前回どれくらいだったのだ?」


「え、え?オレ?オレは……そのなんていうか、覚えてないなぁ。だいぶ前のことだしなぁ」


 立花は冨永と視線を合わせることなく、動揺して言った。こいつ相当悪いな。その動揺に気付いた冨永がおかまいなしに問い詰める。


「じゃあお前この前の英語のショートテストなんてんだった?」


「アレは何点だったかなー?お、覚えてないなぁ」


 立花は余計に倉皇たる態度になり始めた。立花、絶体絶命である。


「ちょっとバッグ見せろ」


 そう言って冨永は立花のバッグを取り上げて中身を物色し始めた。


「ちょ!何やってるの!」


そして冨永は見つけたらしく、


「なんだこれは」


 と言いながら、前回の立花のショートテストを取り出した。


「ああ……それは」


 冨永はそれを見て唖然として言った。


「お、お前。28点って」


「28点っ!?」


 その点数には万条もオレも驚いた。28点!?28点は、笑えない点数だな。フッ。


「あ、見つかった……」


「深刻だな。もっとやった方がいいぞ。さすがに」


「お、おう……」


「じゃあ、バナ君の勉強見るのもかねて、みんなで一緒に勉強会しようよ!」


「それはいいな!」


「それならオレもやるかも!」


「立花お前な……ていうかオレはパス。勉強は一人でするものだからな」


 テスト期間というこの一人になれる期間を逃していいだろうか?いや、ダメだろう。反語も意外と使えるものだ。


「え~、ハッチーもやろうよ!オーちゃんはどう?」


「ワタシは構わないわ」


「じゃあ、早速今日の放課後に集合だ。みないいか?」


「うん!ハッチー、これも部活だよ。咲村先生に言っちゃうよ~」


「お前と咲村先生どんだけ仲良いんだよ。しかもあの人に言われた暁にはオレは人としての肉体の原型を留めていないだろうな」


「そりゃ、恩師だからね!じゃあ、来るよね?大丈夫!ちゃんと勉強するから!」


「よく、小学校の時に母親にそう言っては隠れてゲームをしていたものだ」


「ワタシもよくそう言って友達の家に遊びに行ってたよ!」


「おい。確信犯だな」


「でも、もう高校生だから!それにみんないれば自ずとやると思う!だから来てよ!たまにでもいいから!ねぇ!ね!どう?ねぇ?」


「あ~、もう!うるさいよ!分かったよ、行けばいいんだろ」


 テスト期間ですらもこの部活は休めないのか。

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