第27話 その頃、立花は
れから翌日も翌日も、部員達は諦めることなく生徒会室まで抗議しに行った。オレも毎回付いて行きはするが、とくに目立つ発言はせずに、打倒廃部に躍起する万条たちを見ていた。
立花の自宅謹慎から1週間が経った日、オレたちは万条の提案から立花の様子を見にいき、その際生徒会長がなかなか納得してくれないということを言いに行くことにしていた。
その日の放課後に立花の家に行くことになっていた。オレたちは校門で集まり、部室には寄らずにそのまま立花の家に向かった。立花の家はマンションで、その階の6階であった。まず一階に着いたらロビーのインターフォンを鳴らすように言われていたので、万条はインターフォンを鳴らした。すると出たのは立花の母親であった。
「はい。どちらさまでしょうか?」
「えっと。立花君の同じ学校の友達です!」
「あら、ヒロアキから聞いているわ。どうぞ」
そう言われて、ロビーにあるエレベーターへ続くドアは開かれ、オレたちは6階に行った。立花の家のドアまで行き、チャイムを鳴らすと、ドアが開いた。
「あら、どうも。ヒロアキの様子を見に来てくれたのね。わざわざありがとうね」
立花の母親は、そう丁寧にオレたちに挨拶してくれたが、何か探るような目つきをしていた。
「はい!お邪魔します」
オレたちは中へ入り、立花の部屋の中に入れてもらった。立花の部屋はとても男子高校生らしく、スポーツ用品、漫画、ゲーム、DVDなど色々なものが置いてあり、綺麗とは言い難かった。しかし、人が来ることを知って慌てて片付けたのだろうと思えるくらいは小綺麗にしてあった。
立花の母親はお菓子と飲み物を用意してくれ、立花の部屋にある机に置いた。
「これ。よかったらどうぞ」
そう言ってまず万条の方を見て、次に冨永を見て、大花をじっと観察する様に見ていた。オレのことも見ていたが、オレはそれを気付いていないフリをして、立花の母親を見ていた。
立花の母親は、全員を見た後にこう尋ねてきた。
「えーっと。皆さんはヒロアキとはどういう友達なのかしら?」
「母さん!みんな同じ部活なんだ!」
「水泳部の?」
「いや違うよ!道楽部だよ!」
「道楽部?あら、そうなの。あなたたちが……」
「はい!そうです!」
と、万条が元気に答えた。
「では、ごゆっくりね」
立花の母親は部屋を後にし、立花は母親が出て行ったのを見てから言った。
「ごめんな。皆にどういう友達なのかなんてさ。うちの母さん最近、オレのことが心配みたいでさ。水泳部は止めるし、自宅謹慎にはなるしで、悪い友達とつるんでるんじゃないかって疑ってるんだ」
……なるほどな。だからあんな観察する様にオレたちを見てた訳か。
「いや!全然!むしろこんな時期にお邪魔しちゃってごめんね」
「そんなことないぜ!オレは嬉しいぜ!」
オレはあたりを見まわし、DVDボックスがたくさんあることに気が付いた。
「それにしてもお前、本当に映画好きなんだな」
「ああ、好きだぜ。ここ最近やることないし、また色んなDVD見返してんだ。八橋にも貸そうか?え~と、これとか面白いぜ……」
「悪いが、オレはその映画は見ないから大丈夫だ。あ、そう言えば冨永がホラー映画を借りたいってさっき言ってたぞ」
「おいお前!言ってないだろ!ワタシはホラー映画は苦……じゃなくて好きだが、今は見る時間がないからな」
「そっか冨永さん。でも借りたいときは言ってくれよ!」
「あ、ああ……」
少し、皆が黙る瞬間があった。皆は生徒会長への抗議が上手くいってないことを言わねばならず、万条も冨永も少し気を重く感じていた。その空気を察したのか、立花はこう言った。
「いや~皆と話すのは久しぶりだな!たかが2週間だと思ってたけど思ったより長いもんだな」
「バナ君元気そうで良かったよ!」
「ああ!」
その時、話を切り出したのは富永だった。
「で、時に立花。抗議の件なんだが、実は正直のところ完敗だ。全然生徒会長は話を聞いてくれない」
「そうなのか……。ごめんな。オレがあの時、坂下を殴ってしまったばかりに……」
「気にするな。それにもう終わったことだ。今、それを言っても現状は変わらない」
「うん!そうだよ!バナ君。あと1週間あるし、粘ってみるよ!」
「悪いな皆。オレも参加したいところだけど。まぁ応援してるぜ!オレの分までよろしくな!夏休みだってもうすぐなんだしよ!」
「うん!」
「では、ワタシ達そろそろ帰るとしようか。あまり長居しても仕方ないからな」
「おう!じゃあ1週間後またな!」
万条達は立花の部屋を出た。オレも部屋を出ようとすると、立花がオレを呼び止めた。
「八橋」
「ん?なんだ?」
立花は少し間をあけて、静かに言った。
「皆をよろしくな」
その後、立花の家を後にした。帰っている途中で万条は急に大声で、
「よし!まだ1週間あるし、諦めないぞ!」
と、誰に向かっていうでもなく、叫び始めた。
「ああ!」
「そうね」
冨永と大花も鼓舞されたのか、力強く返答した。
その時、オレは黙っていたせいか、大花はこちらをチラッと一瞥だけした。その一瞥は何もかも見透かしたような山登りの時のような目だった。
――大花は分かっていたのだ。オレが廃部の阻止は不可能と思っており、諦めていることに。そしてそれでもなお頑張っている部員を、オレは傍観し、何か手助けをしようともしていないことを。
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