第11話 大富豪

 

 しばらくした後、映画が終わった。


「ふぁー、面白かったね!ヒイちゃん大丈夫だった?暗くてよく分からなかったけど」


 そういえば、こいつは全然怖がってなかったな。こわいものあるのか?あ、ていうかこいつがこわいものだった。


「だ、大丈夫だ。もっと、怖いやつでもよかったんじゃないか?」


「あ、冨永さん。まだもっと怖いやつあるよ。見る?」


「い、いまはいい。今度見よう」


 こいつ。意外と怖がりなんだな。


「そっか~残念だなぁ」


「ああ、みな、ちょっと飲み物とお菓子を持ってくる」


「あ、ありがと!」


 冨永は飲み物とお菓子を取りに行った。時計を見てみると時刻は夜七時であった。そろそろ帰りたい時間であるが……。


「そろそろ帰ろっか」


 万条が帰ることを切り出した。ナイス判断だ。


「そうだな。あまり遅くまでいても迷惑だろうし。っておい立花お前なにやってんだ?」


 立花は窓を見ていた。何を見ているのか知らないがずっと見ていた。そして言う。


「あー、雨降ってきてるよ。すごい降ってる。映画見てて全然気付かなかった」


「まじかよ、どれくらい降ってる?」


「かなり大降りみたいだ、バス動いてるかな?」


「動いてるよ。絶対に動いている」


「八橋……必死だな……」


 すると、冨永がやってきた。


「みな、飲み物とお菓子を持って来たぞ。時に大変だ。外が大雨でバスが動いているかわからん」


「ちょうどそれについて話してたんだ。このままだと今日は帰れないかもな。まあ明日休日なのが救いだけど」


 立花はそう言ったがオレにとっては救いでも何でもない。帰りたい。


「大丈夫だ。万が一そうなっても一人一人部屋を用意する」


「そっか!なんか悪いね」


「それは申し訳ないな」


「八橋。お前の部屋は用意するなんて言ってないぞ」


「なんでだよ、お願いしますよ冨永大明神」


「とりあえず、八時まで様子を見るか」


「そっか……ごめんねヒイちゃん」


「別に良いぞ。それにこうやって遊ぶのも初めてだったし……」


「オレとは全然態度が違うな」


「え?何か言ったか?」


「いや。何も言ってない」


「そうか。ならいい」


「なにしよっかー。みんな何かあるー?」


「ワタシの部屋は特に何も遊べるものは置いてないな……すまない」


「そっかー、じゃあ、どうしよっか」


「ふふふふっ」


 ん?


 やることがなくて困っていた時、急に立花が笑い始めた。


「どうしたんだ立花。いつもにまして気持ち悪い」


「おいおい!ていうかいい案があるんだ。それはな……みんなは、《いっせーのせゲーム》って知ってるか!?」


「冨永。悪いがそこのクッキーを取ってくれ」


「ああ。これか?」


「そうそう。ありがとう」


「あ、ヒイちゃん。ワタシもー」


「ってちょっとみんなー!聞いてよ!」


「立花、一応聞いてはいるぞ」


「ちょ……それ尚更ひどい……ていうかさ。やろうよ!《いっせーのせゲーム》」


「お前は小学生か。そんな手遊び今やっても面白くないだろ」


「やってみてから言おうよ!さ、一回でいいからさ」


 そう言って立花は両腕を前に出した。


「ていうか、万条と冨永は知ってるの?」


「うん!ワタシ知ってるよー。小学生の時よくやってたなー。うちの学校では指スマって呼んでたけど」


「冨永は?」


「ワ、ワタシだって知ってはいる。よく周りの子がやっているのを見て覚えた」


「あ、そこまでは聞いてなかった……なんかごめん……」

「う……」


 こいつそんなに前から友達いなかったのかよ……。


「ていうか、じゃあ、一応だけどルール確認。まず参加者は両腕を前に出して親指が上に来るように手でグーを作っておく。万条、立花、冨永、オレの順番で0から8までのどれかの数字を一人一つずつ掛け声していく。それと同時に全員は作っておいた握り拳の親指だけを最大二つまで上げる、もしくは上げないってのもアリだ。その自分の掛け声と同じ数の親指が上がっていたら片腕を引っ込める。そうして両腕引っ込めたらそいつはアガリ。最後まで残った奴が負け。って感じだよな?」


「そうだね八橋。じゃあ、掛け声は『いっせーの 数』って感じにしよう!じゃあ、万条さんから」


 みんなはグーを作り両腕を前に出した。


「いくよ~!いっせーの 4!」


 万条は1本、立花は2本、冨永は2本、オレは0本の親指をあげていた。


「あ~。惜しかったなぁ」


「じゃあ、次はオレ!いっせーせの 5!」


 万条は1本、立花は2本、冨永は1本、オレは0本の親指をあげていた。


「うわっ。惜しい……ていうか八橋、さっきから指上げてないけどやる気ある?」


「ない。次は冨永の番だな」


 次あたり、1本上げとくか。ずっと上げないと思わせておいてあげるという戦法だ。


「ワタシか……では、いくぞ!いっせーの 4!」


 万条は1本、立花は2本、冨永は0本、オレは1本の親指をあげていた。


「フンッ。八橋、やはりそろそろあげてくると思ったぞ。ではワタシは片腕を戻すぞ」


「ちっ。ばれてたか」


「ヒイちゃんやるね!」


「あ~、冨永さん!上げるか上げないかで迷ったんだよなぁ……」


「いや、立花。そういうゲームだから。じゃあ次はオレだな。じゃあいくぞ」


 みんなは腕を前に出していた。


「その前に1ついいか?さっきから気になってたんだが」


「え?ハッチー。なにこのタイミングで」


「悪いな。それで、さっきから気になっていたんだがよくよく見るとこの部屋の天井の上にだな…………いっせの 0」


 みんなが天井を見ている間にオレがそう不意打ちで言った後、誰も指を上げてはいなかった。


「よし。片腕クリアーだ。さ、万条の番だぞ」


「え!?八橋ずるくない?」


「うっわっ。お前、卑怯な」


「ハッチー、サイテー」


「おいおい。待てよ?ちゃんとルール確認はしただろ?途中で会話を挟んで不意打ちをしてはいけないなんてルールはないはずだが?」


「ハッチー……だから自分から説明したんだ……」


「なんて残念な奴だ……」


「八橋……オレ知ってるぞ。こういうのを試合に勝って勝負に負けた、って言うんだぜ」


「な、なんだよ、急にお前ら。ゲームごときで」


「それはそっくりそのままお前にいえるな」


「むっ」


「あー、やっぱり他のことしようか……誰かさんがズルしたからさ~」


「誰だ。そんなことした奴は。まったく、許せんな」


「ハッチーだよ!」


「え?だからオレはルールの範疇でだな……」


「まぁいいよ。ワタシもはじめからこの《いっせーのせゲーム》はその……アレだったし……」


「ちょ……万条さん……」


 すると冨永が急に何かを思い出したようだった。


「あ、そうだ。今、思い出したが……そういえばトランプとやらがあるぞ。みな」


「トランプいいじゃん!」


 立花は元気を取り戻した。

「トランプか……この前やったのは中学の時か?」


「トランプいいね!ワタシやりたい!」


「そうか」


 冨永はその場を立ち部屋にある押し入れを開けて探し始めた。


「あ、あった!」


「なんでそんな押し入れなんかに入れてんだ?」


「べっ、別に昔は誰かと一緒にトランプするためにすぐ手の届くところへ置いていたがそんな時が来なかったから押し入れにしまっていたわけではないぞ!」


「おい冨永?急にどうした。で、万条。なにやるんだ?」


「う~ん。《大富豪》!」


「万条さんいいね!」


 立花は遊びならなんでもいいんだな……。


「みんな知ってるか?」


「もちろんワタシは知っている」


「だよな、周りがやってたのを見てたからね。立花は知ってるだろ?」


「ああ!」


「そ、そういうお前は……いや、貧民は知っているのか?」


「ちょっと待て。なんで言い直した。それにはじめから貧民とかオレ不憫すぎ」


「《大富豪》ジョークだ」


「へぇ。すっげー面白いな」


「そうか?そうでもないだろ」


「な、そうきたか……」


「で、ハッチーは知ってるの?」


「オレは知ってるよ。よく谷元とやってたからな」


「谷元?誰だそれは?お前の地縛霊か何かか?」


「うんまぁ。遠くもないな。でも正解は友達ってやつだ」


「ほ、本当にいたのか……」


「まぁあ。で、じゃあ、ルール確認をしておくか。このゲーム、地方によってルールが違うらしいからな……」


「待ってハッチー!ルール確認はワタシがやる!ハッチーズルするから」


「まぁ、ズルも一種のゲームだけどん。じゃあ、よろしく」


「《大富豪》はまず4人に1枚ジョーカー入りの53枚のカードをそれぞれに全部配ります。それで最初の人が出したカード(同じ数なら複数出しても大丈夫)を自分の番の時に前のよりも強いカードを出していく。自分以外のみんなが切れなかったら最後に出した人がまたカードを場に出して……カードがなくなればその人から抜けていくってゲーム。でね。強い順に2が一番強くて1、キング、クイーン、ジャック、10……4、3って感じ。あとズルはなしだよ!」


「ズルはなしだよってだいぶざっくりだな」


「じゃあ、2がワタシで、3が八橋か」


「冨永。何言ってんのお前?」


「この世の真理を言っていたのだ」


「だからお前……それはオレが不憫すぎるだろ……」


「で、役付のカードがあって……8が8切りって言って8以下の数ならすぐに切れる。で、もう一回その人がカードを出せる。あと同じカード4枚で【革命】っていうのがあってカードの強さが逆になるの。強い順番に3、4……1、2って感じで」


「ドンマイだな冨永」


「何言ってるんだお前は?」


「この世の真理を言っていたんだよ冨永」


「くっ!貧民のくせに……」


「あ、あとジョーカーはなんの数にでもなれる万能なカード!」


「あ、万条さん。それはオレみたいなカードってことだな!」


「……あ……えっと……うん!」


 え、万条さん?いま明らかに戸惑ってたよね?間があったよね?


「他にあるかなー?」


「万条さん、それくらいのルールでいいよ」


「そうだな。ていうか万条。ネットで調べてもらえば一発なのに」


「え?ハッチー。なんか言った?」


「いや、別に」


「じゃあ、やろうか!」


 万条がカードをシャッフルして配りゲームが始まった。順番は万条、立花、冨永、オレである。


「みんなカードあるー?」


「ユイ。大丈夫だ」


「オレも大丈夫だぜ」


「オレも。さぁ、ジョーカーは誰が持ってるんだろうなあ?」


「オレはないなぁ。冨永さんが持ってそう?」


「ワタシは4枚、ジョーカーを持っている」

「お前な……ジョーカーは1枚しかないから。お前持ってないだろ……万条あたりか?」


「え?ワタシ?も、もってるよ!」


「そうか。ジョーカーは万能だからな」


 この嘘つきめ。ジョーカーはオレが持っているのにな。


「そ、そうだね!じゃあ、ワタシからね!最初はこれ!」


 そう言って万条は3を出した。


「フッ。八橋…ドンマイだな」


「おい笑うな。いいのか?万条。オレはいま【革命】できる手札だぞ?」


「いい!バナ君、早く8で切っちゃって!」


「おいおい。別に8じゃなくていいだろ」


「じゃあ、オレは6!次は冨永さん」


「うむ。次は八橋だよな?ならばこれだ!」


 冨永はいきなり序盤から一番強い2を出した。


「お前……どんだけオレに出させたくないんだよ……パスだ、パス!」


「フンッ。もうパスか。雑魚め」


「くっ……」


「ワタシもパス」


「オレもだな」


「じゃあ、またワタシの番だな。じゃあ、これだ」


 富永は自信満々に2を二枚出してきた。ていうか2を三枚持っていたのか。このブルジョワが。


「お、お前。もしかして【革命】する気だな?」


「【革命】?なぜワタシが貧民救済しなくてはならない」


「こ、これだからブルジョワは……パスだ!」


「ワタシもパス……」


「オレも……」


「では、またワタシか。ではこれだ!【革命】!」


 冨永は10を4枚出した。その後に7を二枚出してきた。


「な、お前。【革命】しないって……てめ、急進派だったのかよ」


「え!ヒイちゃん!3とっておけばよかった」


 しかしオレは笑みが零れていた。こんなこともあるかと思って9が三枚とジョーカーが一枚がある。そうオレも【革命】できるのだ。ことを焦ったな。冨永め。7が二枚か。堕ちたな。次がオレなのに7だと?なめてもらっては困るぞ!オレは3を2枚持っている。いけ!最強のカード、オレ!


「じゃあ、3が2枚だ。みんなパスだろ?」


「うん」


「オレもパスだな……」


「ワタシもだ」


「じゃあ、またオレだな。オレはそうだな……どうしようかな……あはは!じゃあこれだ。【革命】!どうだ?冨永!」


「あ、ハッチー!ジョーカー持ってたの?ってことは……うわっ。自分で持ってて聞いたとかほんとサイテー……」


「八橋…オレはそんな気がしてたよ」


「オレは自分が持ってないなんて言ってないぞ。ただ勝手に万条が引っかかってくれただけだ。それはそうと冨永の時代は終わったな」


「フッ、何を言うか。貧民!」


 そう言って冨永は12を4枚出してきた。


「え?嘘だろ?」


「【革命】返し!」


「お前。手札良すぎだろ……これがブルジョワとの差なのですか。神よ……」



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