第17話 恒例のアレ
翌日の放課後。
部室に向かう途中で立花と会い、そのまま立花とオレは部室に入った。
「あ!バナ君!来たね!」
「おう!何にも問題ないぜ!」
その日は部員全員が揃っていた。あ、大花って奴以外。
「おっ、八橋。珍しいな。自分で来るなんて」
そう言ってきたのは咲村先生であった。
「オレってそんなレアキャラなんですか?カードだったらすごいキラキラしてるんですかね?それに先生が強制的に来させてるんじゃないですか。全く」
「八橋はキラキラとは程遠いな。あはは」
「で。先生は何でいるんですか?」
「なんでって顧問だからに決まってるだろ」
「そ、そうですか。もういいです」
「よっ!ハッチー!」
「よう」
ふと、冨永を見てみると黙り込んでいた。そういえば、こいつに昨日叩かれたな。あれは痛かった。
「よう、冨永」
「フンッ」
オレが挨拶したが冨永はあしらった。
「ムカッ」
そんな時、トントンッとドアのノックオンが聞こえ誰か入って来た。
「久しぶりに来てみたけど相変わらず何やってるのかしら。この部活は」
確かに、何やってるのこの部活、是非オレにも教えて!で、この人は誰だ?
「あ~!オーちゃん久しぶり!もう大丈夫なの?」
「ええ」
「オーちゃん?」
「そういえば、三人は大花と会ってないんだったな?」
咲村先生はそう言った。続けて、お互いを紹介するように、
「こちらは大花ミカ。同じ二年で、この部活には一年から入っている。で、対して冨永、立花、八橋」
「八橋?なんだそれは」
冨永は意地悪くいった。
「なんなのこれは?」
オレはオレを指差した。
「おそらく、生き物だろうな」
立花はそう真面目な顔で言う。いじめか?いじめなのか?これは。
「で、そこの生き物さんも部員なの?」
大花は言った。
「まあ」
「そう、了解したわ」
「あ、そうですか……」
了解しちゃったよ……。なんか掴みどころなさそうな奴だな。すると、立花は大花に自己紹介を始めた。
「オレは立花。よろしくな!大花」
「よろしく。立花君」
続いて冨永も。
「ワタシは冨永ヒイラギだ。これからよろしく頼む」
「分かったわ。よろしくね冨永さん」
「ん?」
「……」
全員の自己紹介が終わった後、大花は今度はお前の番だろうという顔でこちらを見てくる。
なんだこの無言の圧力は。仕方ない。一応、名乗っておくか。
「あ、オレは八橋」
「分かったわ。生き物さんね」
「いや、おかしいだろ」
「何が?」
「いや、じゃあもういいよ」
「そう。生き物さんは皆と違うのね」
「は?何が違うって?」
「何でもないわ」
「ん?」
自己紹介も終えたところで、咲村先生が言い出す。
「よし。初めて五人がそろったようだな」
「そうですねせんせー!」
「う~ん。それでだ。どこかみんなで一緒に行ってみるのはどうだ?お前たち」
「いいですね!せんせー!」
「オレ、動きたいっす!」
こいつらはほんとうに元気だな。
「オレは動きたくない」
「アタシも」
「え?」
「何か変なこと言ったかしら」
「いや、全然」
何とも信じ難い。気が合う奴がいるなんて。
「じゃあ、動くか!どうだ?お前たち!」
「よっしゃー!」
「そうですね!オーちゃんもいい?」
「みんながいいならいいわ」
「じゃあ、オレはよくないからダメだな」
「お前は黙ってろ」
冨永は険しい顔つきで言った。
「なんだよさっきから当たりきつくないか?」
「いつもと同じだ」
「いや、明らかにきついな」
「お前こそきつくないか?」
「いつもと同じだろ」
「まぁまぁ。二人とも。じゃあ、アレでもしに行こうか」
咲村先生はオレたちを落ち着かせてそして何やら提案してきた。
「いいですね!せんせ!アレしましょう!」
「アレってなんですか?」
「アレよ。アレ」
「いや、アレじゃ何にも分かりま……」
「では来週の休日にアレをしに行くか。私も同行する」
まじかよ。来るなよ。
「そうですね!」
「あの……先生。アレをしたいんですが、来週の休日はちょっとアレがありまして無理なんですよね……」
「なんだアレって。まさかお前来ないつもりか?」
「アレがあってアレなんでアレはアレしたいんですけど」
「アレアレ何を言っている。お前来なかったら…………アレだからな!」
そう咲村先生は勢いづいて言ったがアレってなんなんだ……。
ということで、オレは無理矢理アレをすることになった。日曜日、連絡が来た通りに学校で待ち合わせをした後で、咲村先生がそのアレをしに目的地に行くために車を出してくれた。そしてオレたちは無事に目的地に辿り着いた。
「みんなそろったか?」
パワー咲村が点呼をとる。
「そろいました!」
万条がそう言ったが、オレはひとつ解からないことがあった。オレは咲村先生に聞いた。
「なぜ、山?」
アレだろ?アレじゃなかったのかよ。超しょうもないよ。
「まあ、毎年恒例で部員みんなで登ってるんだ」
「そうなんですか」
山登りとか聞いてない。疲れる。嫌だ。
「嫌だったか?山登り」
「いやいや、むしろ山登りしかしたくないですよ」
むしろ山登りだけはやりたくない。
「そうか!では行くぞ」
オレ達は登り始めた。普段動かないオレにとってスポーツは応えた。しばらく歩いたところでオレは疲労を隠せなくなった。
皆さん歩くペース早いなぁ。人とペースを合わせるのは大変だな、休憩したくてもなかなか言い出せないし、帰りてぇ。するとオレの歩くペースが遅かったせいか咲村先生が話しかけてきた。
「何をこれくらいで疲れたみたいな顔をしているんだ」
「あ、パワ、じゃなくて咲村先生じゃないですか」
「ああ。今お前はどうせ、帰りたいとか思っていたんだろう?」
ギクッ
「よく分かり、じゃなくてそんなことはないですよ~」
「顔が強張っているぞ。で、そういえば何だかんだで立花の件どうにかおさまって良かったよ」
「そうですね。ていうか、先生。この前も思ったんですけど部員ほとんど先生が勧めてたみたいですね。もしかして先生って……」
「それよりお前、冨永とまだ喧嘩してるのか?さっきから一言も話していないな」
「そう言う日だってあるでしょうよ。それに避けてるのは向こうですし、気まずさを作ってるのも向こうです」
「お前なぁ……。全部人のせいにしてないか?信条や考えを持つのは大切だが、他人の気持ちも忖度してやってもいいんじゃないか?」
「他人の気持ちなんて考えるだけ無駄です。分かるわけないんですから」
「まあ、それがお前なのかもしれないな。その人を本気で受け入れようとしないところが」
咲村先生はそれを知っておきながら……。
まぁいい。だが、それの何が悪いのだ。
人は孤独を嫌がる。孤独というものは他人という対立項があってはじめて生まれるものであり、集団と比べて出てくる相対的な結果だ。ならば寧ろ集団にいる時のほうが孤独を意識するであろう。何故ならば、集団の中の孤独は際立つからだ。しかし、人は一人の自明な孤独を恐れ忌む。解決策として群れることを選択するがまた孤独を感じてそれを嫌がり、孤独の連鎖に陥るのである。孤独スパイラルである。
だから、初めから孤独を受け入れればいいのだ。集団でも一人でも常に自分は一人なのだと。つまり、普遍的に人は孤独であるのだ。それを肝に銘じておくべきだ。
オレはその咲村先生の言葉にどう返そうか迷ったが、少し間を置いて言った。
「それを分かってて入れたんですか?酷いですね。それに人はいつだって孤独ですよ」
「しかしな。もうお前は部員の一員なんだ。みんなそう思っているはずだ。そしてもう八橋は役割を持っているんだ。それを忘れるなよ」
「はぁ」
「じゃあ、私は先に行っているぞ。あんまりのんびり歩くなよ」
「あ、はい」
咲村先生は先頭を歩いている万条や立花、冨永達のもとへ向かって行った。
「役割?この部活での役割?役割なんてオレにあるのか?」
そう独り言を言っていたら、
「さっきから一人で何、言ってるの?生き物さんは」
「うわっ!いつからいたの?えっと、大花だっけ?」
「ええ。そうよ。それにずっといたわ」
「そうなんだ……気付かなかった」
「生き物さんは……」
「ちょっと、まだその呼び方なの?大花も生き物だろ」
「そうかもしれないわね」
「いや、そうだよ。え?もしかして違うの?」
なぜ今まで気がつかなかったんだ、オレは。こいつはもしかしたらもしかすると……
「生き物よ」
「まぁそうだろうな」
そしてオレは山登りは初めてでもあり、体力のなさには自信があったために既に息が切れていた。
「はぁはぁ」
オレが息を切らして歩いているのを見て、大花は怪訝な顔をして言った。
「アタシの横にいる生き物さんはすごく疲れているようだけど、何かあったのかしら?」
「まぁ、端的に言えば山を登っているよ」
「そんなこと見れば分かるわ」
「じゃあ、なぜ分からなかった。だから疲れてるんだよ。お前意外と疲れてないのな」
「そうね。一度登ったことあるから」
そうか。こいつは確か一年からこの部活に入ってるらしいな。
「そういえば、お前一年からこの部活入ってるみたいだけど、なんでこんな変な部活入ったんだ?」
「アタシもなんでかは分からないわ。ユイと咲村先生に勧められたの」
「あの二人か。それは断れないな。ほんと変な部活だよな。疲れる」
「そうなの?その割には楽しそうにも見えるわ」
「そ、そうか?でも、一人の時の方が断然いいな」
そう答えると大花は意外とまともなことを言い出した。
「それはそうよ。傷付かないで済むもの」
「え?お、大花?」
「ワタシ。ユイに感謝しているのよ」
「な、なんだよ。また急に」
「ワタシ。昔、生き物さんみたいに人を避けてたの。みんな能天気でバカだと思って周りを見下して敵視していたわ」
こいつ思ってたより変な奴じゃないのか?まさか大花からこんな言葉が出るなんて。
「おい。オレみたいにって……まぁそうなのか」
「ワタシね。でも思ったの。だから人が寄ってこないんだって」
「どういうことだ?」
「だから。そんな態度で人と接したって人は寄ってこないわ。避けてるんじゃなくて避けられてるの。でもユイはどんな事をしても諦めず寄って来てくれたわ。ワタシは何だか嬉しかったわ」
「なるほどな。でも人と接したくないならそれでもいいんじゃないか?一人が好きだったらさ。そういう奴にしてみたら万条みたいなやつは迷惑極まりないな」
「そうね。でも生き物さんの場合、完全にそう思っているかしら?だからこうして今、山登りしてるんじゃない?」
大花は表情を一つとして変えない。その目は何もかも見透かしたようでオレは恐怖を覚え、さらに返答に困惑した。
「お~い!八橋遅いぞ!」
すると、先に休憩所に着いていた立花の声が聞こえた。
「ああ!もうすぐ着くよ!」
「待ってるみたいね。急ぎましょう」
「あ、うん」
やっと、休憩所に着いた。オレはひとまずベンチへ向かい、座った。
「あー疲れた……」
「いい男子がだらしないぞっ!」
一人でベンチに座っていたオレに飲み物を届けに来た咲村先生は言った。
「ん?あ、すいません」
オレはいい男子じゃないけど。
「冨永は?」
「あ、トイレですね、あいつも疲れてると思うんではやく飲み物持っていってあげてください」
「お!優しいな!仲直りでもしたか?」
「い、いや、ただ一人になりたかっただけですよ。優しさに見せかけた我儘ですよ」
「はぁ……お前はいつも一言余計だな。じゃ、また14時に集合場所でな」
「あ、はい」
いまは13時40分か。あと、3時間は休みたい、そして山頂行かないでそのまま帰りたい。ああ、疲れた。こんなにもハードなのか?これ帰り道もあると思うと鬱だな。大抵、行きは楽しみでも帰りってやつは面倒なんだよな。まあオレの場合は行きも帰りも楽しみじゃないからどちらも苦痛でしかないのだけどな。あはは。全然、笑えない。
再び時計を見ると時刻は集合時間の5分前であった。戻るか……。もう少し休みたかった。ていうか、もう帰りたい。
集合場所について咲村先生が点呼を取った後にすぐに出発した。しかし、しばらく歩いた後に、ある問題が発生した。
「ハッチー。オーちゃん知らない?」
「あ、万条か。さっきまで後ろに……あれ?」
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