第45話 温泉地で出合った本

健一は、どこか見知らぬ荒野にいた。「まさか死んだのかなあ」

すると目の前に心配そうに頭を抱えながら健一を眺める長い髪の女性が見える。

よく見えるとリボンの形をしたピンク髪飾りが見える。


「千恵子?」健一は恐る恐る近づくが、その女性は健一のことをまったく気になっていない様子。

健一は少しずつ近づくが、その女性は突然走り出す。「おい、待ってくれ千恵子!」健一はそういって

追いかけるが、女性の走るスピードは変わらない。健一も追いかけるが突然地面がなくなった。

「あれ」その瞬間、奈落の底のようなところに急速に落ちてい行く。健一はそのまま気を失う。


その直後、健一が目を覚ます。すると病院のベットに横たわっていた。

「パパ!」見ると泰男がいて健一のそばに詰め寄る。「心配したわ。健一君が倒れたと聞いたから」

と福井真里の姿もあった。「おばさんごめんなさい。ちょっとがんばりすぎました」

体を起こそうとしながら謝る健一。

「いいのよ。とりあえず意識が戻ってくれたから、お医者さんはちょっとした過労だから

意識が戻れば大丈夫でしょうといってくれたわ」健一は、自分のエゴでより多くの人に

迷惑をかけたことに穴があったら入りたい気分であった。


翌日に、完全に復活した健一は午後に退院の準備を進めると、大串が見舞いに来た。

「ああ、大串すまなかった。もう大丈夫だから。明日からがんばるよ」

しかし大串の表情は硬いまま。「大畑さん。とにかく事務所で倒れたからみんなびっくり

しましたよ。本当に大事でなくて良かった。社長にも報告したんだけど社長から

大畑さんに、これからの指示がありまして」というと大串は健一に青木からのFAXを手渡す。

健一が一読する”大畑健一、1週間の謹慎を言い渡す”「何これ?」「社長からの命令です。

社長の話では、独断で勝手なことばかりして挙句の果てには、勝手に事務所で倒れて社内業務に

多大な損害を与えた。本来ならもっと重い懲罰ものであるが、本人はまだ新人で若いし、

これは会社のことを考えての行動ということで、今回は軽いものにする」という事でした。

大串からの話に、「やってしまった。青木社長にご迷惑を」と一人落ち込む健一。


「ここでは健一君と呼ばせてもらうよ」と病室に入ってきたのは青木本人。

「ああ、社長。申し訳ございませんでした」ベットの上から慌てて正座して頭を下げる健一。


青木は笑いながら「いやいや辞令などでは厳しく書きましたが、健一君らしいと思いました。

でも、『ほう・れん・そう』という言葉があるとおり、組織で働く以上、どんなことでも報告や連絡

相談は必要なんだ。でないと今回のようにより多くの人に迷惑をかけるだろう。

まあまだ慣れていないだろうし若いからね。今回のことは、君自身の良い戒めにしたら良い。

謹慎とあるが、疲れているだろうから休暇のようなものだ。どうだ温泉でも行って心身ともに

リラックスしてから事務所に戻ってきなさい」と言いながら青木はそのまま退出していった。

「青木さん・・・・。俺が悪かったんだ」「大畑さん。社長はとりあえず休憩しなさいということですよ。後は僕がいますし、しばらく社長も東京なので、安心してリラックスしてください」


思わぬ形での休暇となった健一は、青木の言われるように温泉旅館で宿泊することにした。

福井にお願いして泰男の面倒をまた見てもらうこととし、一人で2泊3日の温泉に出かけた。

「千恵子と富士山の見える温泉に行こうといっていたなあ。いつも一緒にいるピンクの熊を

見ながら健一が向かった先は、静岡県の御殿場であった。


列車に乗り込み御殿場の駅に到着、温泉に入りながらのんびり本でも読もうと思い

駅の近くにある小さな本屋に立ち寄る。

「リラックスの温泉の旅だからそういう本でないと意味がないなあ」と思い本を探していると

健一の視線が捕らえたものに「夢の本」という本がある。


健一が軽く見ると、夢の原理から始まり夢の種類や夢占い、夢分析、明晰夢に至るまで、

夢に関する内容が満載していた。「そうかこの前もたぶん千恵子と思われる人の夢とか

みたからなあ。そう千恵子も夢の話とかそうそう明晰夢のことも言っていたなあ。

よし、この本を買って読んでみよう」そういって健一はこの本を購入した。


チェックインした旅館の部屋の窓からは、壮大な富士山が良く見渡せた。

健一は特に外出せず。滞在する2泊3日の間、

一日何度かに沸けて、ゆっくりと温泉に漬かる。

それ以外は、部屋に篭もり、部屋から見える富士山を眺める。

「そうあの富士山の頂上に言ったことがあるなあ」

しばらくして富士山を見るのに飽きると、先ほど購入した「夢の本」を読み始め、

疲れたらまた富士山を眺めてということを繰り返す。。

「こんな何も予定がないリラックスした時間はいつ以来だろうか」

健一は一人何もしなくても良いという時間をゆっくり味わっていた。


2日目の時、本を読んでいると健一はあるキーワードが目に留まる。

”幽体離脱(体外離脱)”そうこれは、千恵子がかつて富士山頂で体験したというもので

健一も前の日にそれに近い不思議な経験したもの。健一はこの記事について、「もっと知りたい」

という思いがよぎったかと思うと、重箱の端をつつくような視線で記事の内容を眺めるのだった。

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