第4話 ツインソウル

「さて、改めて出発!あっ健一。そうそう前から思っていたけど

私のこと気にしすぎよ。だってこの前も話したでしょう。

神様に祈るのはもちろんだけど・・・。

それ以上に私たちは、昨日も言ったようにソウルメイト。

その中でも元々の魂の片割れ同士だったツインソウルなの。

だからいつも一緒だからね」

千恵子の例の話にややうんざり気味になりながらも、笑顔で応じる健一。

「その話わかるけど・・・ごめんまだわかっていないような」

すると千恵子は突然健一に抱きつついて、手を握り締める。

「健一。気持ちを静かにどう、お互いの手触りを。

お互いが自分自身を握っているように感じない。

そして、お互いが安心できると言う気持ち」

千恵子にそういわれると、確かにそう感じる健一。


「うん、確かに感じるよ千恵子」すると千恵子は体を起こしながら。

「でしょう。だから私たちは同じ魂これからも一緒なのよ」

そう詰め寄られると健一もこれ以上疑問を挟むこともできず。

「わかったよ。知恵子、俺たちはいつも同じなんだね。いつどこでもな」

と笑顔で応じる。

千恵子は満足げな表情で、「よかった。じゃあ行ってくるね。

今からお客さんたくさん来たらいいわね。」と言いながら出て行く。

「ツインソウルか・・・」健一は千恵子から頻繁に聞くこのキーワードの

ことは、キリスト教の聖典である「聖書」にも書いていないために

あまり理解していなかったが、少なくとも、愛する妻と常に同じという

気持ちだけは持っていたので、わけがわからないながらも嫌な気分

はなかった。

「わざわざ外までありがとう」と傘を差して数歩先まで歩いていたた

千恵子に、何故かこの日は外まで見送る健一。

千恵子が少し離れた所からも精一杯の元気な声を出して手を振る。

そのまま振り返って方から背中に達している長い黒髪をなびかせながら、

自転車に乗って去っていった。


「相変わらずだなあ千恵子は。そうピンクの君が俺たちの中を

一番知っているもんな。と、独り言のようにピンクの熊のぬいぐるみに

つぶやくと、気持ちを引き締めるかのようにやや大きな声で、

「今日こそ頑張ろう」と、気合を入れる。

しかし、この日は夕方に1時間以上も話し合った、

黒山昭一以降はお客さんが全く来る気配が無い。

ただ、昨日の午後から降り止まない雨音だけが店内をBGM代わりに

響き渡っていた。

「厳しいなあ。今日はいけるかもしれないと思ったが、

この雨じゃあなあ。千恵子のスナックも厳しいんじゃないかな。

無理していくこともなかったのに結構意固地だからね」

「さて、どうしようかなあ」と腕を組みながら一人でうなる健一。

「神様か・・・俺と違って千恵子は生まれながらだからなあ

俺はやっぱり信仰が浅いのかな。イエス様への祈りが足りないのかな・・・」

健一は成人した大学生の時に機会があって教会で洗礼を受けたのに対し、

千恵子は生まれながらクリスチャンホームで育ったので、

もっと早い段階から神の存在を意識しているのだった。

とは言え、そのキリスト教とは違うスピリチャルなことをたまに語る千恵子。

「ソウルメイト」とか「ツインソウル」の話は機会があれば

どこかの書物を引用して健一に必死に説明していた。

千恵子が出て行ってから2時間・3時間とと過ぎていく。

あまりにも暇なので、健一は店においてあった小型の聖書を読み始めた。

しかし、読み続けていくうちに、どんどん睡魔が襲って来てしまい、

気がつけばそのまま眠りこけていた。


どのくらいの時間が経ったのだろうか?

何かの拍子に目が覚め、店内を見渡すと、健一の心配をよそに、

一人息子の泰男が無邪気に遊んでいた。

それを見つめながら健一は、泰男に見られないよう暗い表情を隠そうとする。

「どうやら今夜は、千恵子が帰ってきてからのごはんを作るだけに

なりそうだなあ。厳しいなあ。もう店を辞めた方がいいのかなあ。

でもそんな弱気な事言ったら、

絶対千恵子や今日の黒山さんが怒るからな。今が辛抱だよ。

神様からの試練だきっと。

でも泰男、俺が始めてタイ料理の世界を知った8年前と比べれば、

ずいぶん変わってきたんだよ。

あの頃は、本当にタイ料理の店も無くてなあ。

食べに行くこともできなかったよ。

俺がちょうど黒山さんのころの年に、

偶然行ったあの国のあのスープの魅力に取り付かれて、

『これだ!』と思ったんだけどなあ・・・。

でもな、かならず、ブレイクする時があるさ。

将来お前が、今の俺くらいの年になったら、

大きなチェーン店の会社を作って、お前に社長を譲って、

俺は千恵子と2人でタイのバンコクでのんびりすごしたいなあ~。

まあ、夢は大きくないとね。その前にGWの温泉だな。

お前も温泉好きになるぞ!」

と泰男に向かって言い聞かせるように一人でしゃべっていると、

話の内容がわかったかのように、「パパ!」と、かん高い声を出しながら

笑顔で泰男が近づいて来るのだった。


健一は、目の前に来た泰男を抱きかかえると、

「お前の名前の泰男の”泰”は、タイの日本語表記から付けたんだ。

だからお前もきっとタイが好きになるよ」と静かに語りながら、

8年前のことを思い出すのだった。


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