あずかりもの

 改札前で、やっと来た電車に乗り込んで去っていく倉岡さんの姿が見えなくなるまで、おはぎと一緒に見送ってから、私は家に帰った。

 母と兄に声を掛けると、おはぎに水をあげてから、二階にある自室に向かう。

 まだ、倉岡さんの服は洗って干してあるところで、さすがに乾いてはいない。

 とりあえず、これからどうするかを考えようと机に向かったところで、ポケットに入れてあった箱のことを思い出した。

 「……これ、どこにしまっておこう」

 良くも悪くも大切なもの、だということは分かっている。

 だけど、このままぽん、とどこかに置いておくのも、なんだか複雑な気持ちがする。

 箱の汚れは、出来るだけ拭き取って綺麗にしてある。でも、そのせいで表面が毛羽立ってしまって、どことなく物悲しい雰囲気になっているのが、少し気になった。

 ふと、私は思い立って、脇机の一番深い引き出しを開けた。そこには人から貰ったり、店で買ってきたさまざまな端切れなどを、木製の箱に整理して放り込んであるのだ。

 その中をしばらく見つめていると、少し前に母から分けてもらった、淡い青のレースが目に入った。それから、祖母から貰った、艶のある白いリボンも。

 それらを取り上げると、机の上にいつも置きっぱなしのリングノートを開いて、ざっと鉛筆を走らせた。

 とてもデザインと言えるほどのものではないけれど、頭の中のイメージを書き記す。

 「……こんな感じ、かな」

 箱を包み込むような、丸底の、レースの巾着。

 リボンを通して、綺麗にひだを寄せて、同じ素材の花飾りも付けて。

 

 思い切り柔らかい雰囲気にしよう、と思ったのは、多分。

 内側からまだ滲み出ている気がする思いを、包んでしまえばどうかな、と思ったからで。


 出来たのは、日が傾き始めるくらいの時間だった。

 窓から差し込む、わずかに色を変え始めている日の光に透かして、出来栄えを確認する。

 「糸、出てない。よし」

 リボンを通す穴かがりも、結構上手くできた、と自画自賛してから、するりと滑らかなそれを通して。

 グレーの箱を取り上げて、そっとそれに納めてしまうと、封をするように絞って。

 なるべく綺麗な形になるように、リボンを結んでしまうと、小さく息をつく。

 「そうだ、ちゃんと書いておかないと」

 時々、母が仕事で使うものが足りない時に、私の部屋に入ってくることがある。もっとも、私も使いたいものがない場合は、母の仕事部屋から色々と貰ってくるので、おあいこだ。

 ともあれ、何か新作があると、さりげなく出来栄えチェックが入るので、注釈をつけておかないといけない。

 少し考えて、小さな荷物用のタグがあったのを思い出して、引き出しから探り出すと、


 『あずかりもの』


 とだけ書いて、リボンに細い紐が隠れるようにして、取り付けておいた。

 「よし」

 そう呟くと、視界の隅に必ず入るよう、机の上置き棚の一番上に、そっと乗せた。

 あの、赤い石に込められた熱が冷めるのは、いつになるんだろう。

 ぼんやりとそんなことを思いながら、私は青い包みをしばらく見つめていた。

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