第46章 羊 詳 葛 恐 胡 光

46―1 【羊】


 【羊】は象形、ヒツジを正面から見た形だとか。

 うーん、確かに角がある。

 そして「美」という漢字は、ヒツジを角から後ろ足までを見た形だそうな。


 そっかぁ、「美」は【羊】の全体像なんだ!

 そう言えば、美人は【羊】みたいな人ばかり、と思えてくるから不思議だ。


 こんな美女解釈って、どやさ! と声を上げられる、ちょっと「熟羊」の方もおられるかと思いますが……。

 あくまでも鮎風の勝手思考ですので、ご容赦を。


 さてさて、十二支(じゅうにし)は

 子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥

 ね・うし・とら・う・たつ・み・うま・ひつじ・さる・とり・いぬ・い


 2015年の干支は【羊】。しかし、「未」と書く。

 なぜ?

 となるが、無知な庶民が十二支を覚えるために、「未」に動物のヒツジを当てたとか、と言われてる。


 しかし、本当のところ、よくわからないのだ。

 そもそも「未」という字は象形で、枝が茂ってる木の形だそうな。

 だが、そこには熟した果実はない。

 そのようなことから「いまだ」の意になった。


 こんなくだらない思考に脳が興奮し、眠れね夜は1匹2匹3匹……、柵を跳び越える【羊】を数える。

 そして1000匹ほど数えれば、もうクタクタ、結局疲れて眠りに落ちる。


 世間では未辛抱(ひつじしんぼう)と言われ、まさに辛抱の年。要は【羊】の数を数えるような年なのかも知れないなあ。


 しかし、これじゃやってられない。

 一方で、未年は変化が始まる年だ、とも言われてる。

 だから、1000匹の【羊】を数えた後には、光り輝く朝が来る、と信じることにしましょう。


 追記です。

 多分【羊】(ヒツジ)と「山羊」(ヤギ)の違いがわからない方もおられますよね。

 この際、ハッキリさせましょう。


 鮎風の動物学分類では……。

 1万円札を食べて、ウメェーと鳴く、不届きなヤツが「山羊」(ヤギ)。

 そして、1万円札に見向きもせず、野っ原の草しか食べない偏食野郎が――【羊】(ヒツジ)です。

 ご参考に。



46―2 【詳】


 【詳】、言偏に「羊」で、詳しいという意味になる。


 かって「羊神判」(ようしんぱん)という裁判があった。それは争う当事者が獣の「羊」を差し出すことで執り行われたようだ。

 もちろん審理に当たって、裁判官は当事者の主張を十分に聞き、調べた。つまり、それが【詳】だそうな。


 そんな【詳】、「詳しく教えてください」や「詳細は?」などの言葉は日常的に使われている。

 それではここで問題を。

 『詳らか』――これはどう読むのでしょうか?


 答えは平安時代から使われていた(つまびらか)。美しい響きがある言葉だ。

 だが、「内容をつまびらかにしてください」なんて迫られたら、なにか真綿で首絞められるようなもの、かな?


 また「不詳」と「不明」の違いがよく話題になる。

 例えば、「年齢不詳」。

 これは現段階ではわからないが、詳しく調べればわかる状況をいう。

 そして「年齢不明」はまったくわからないこと。


 とにかく【詳】は、「羊神判」にかけられ、『詳らか』(つまびらか)にされてる事態ということなのだろう。



46―3 【葛】


 【葛】、草冠の下の「曷」は死者の骨を呪霊じゅれいとし、激しく祈ることをいうらしい。

 そこから喉が渇く意味に派生したそうな。


 そんな【葛】、音読みで(カツ)、訓読みで(くず・かずら)と読み、山野に自生する蔓草つるくさのことだ。

 当然、渇いてるせいで、つるを切っても水分が出ない。

 そのためか、古くから茎の繊維で布が織られ、根からはくず粉が作られてきた。


 眩しい太陽、夏の大地は日照る。

 そして辺り一面【葛】が覆い尽くす。

 ふと目を遣ると、古い住居が緑一色に覆われてる。

それは人が住まなくなって【葛】が巻き付いたものなのか……?


 いや、そうではない、呪われたのだろう。

 【葛】が人間が造った建造物に襲い掛かり、廃墟と化せたと言える。


 そのの表側は緑だが、裏側は異様に白い。

 昔、安倍保名という男が傷を負った美しい女を助けた。

 この女は葛の葉くずのはと名乗り、やがて安倍晴明を産み落とす。


 しかし、女の正体は白狐だった。

 それが保名にバレて、女は歌を残して、信太しのだの森へと帰って行ってしまった。


 恋しくば 尋ね来て見よ 和泉いずみなる

 信太の森の 葛の葉


 この「恨み」が「裏見」とも解釈され、夏から秋に吹く風を、葛の葉の白い裏が見えることから『葛の裏風くず うらかぜ』と呼ばれている。

 そして、「裏見の風」 ->> 「恨み風」とも言われてるそうな。


 ひょっとすると、今も、夏が終わる時節に。

 安倍晴明の母の白狐・葛の葉が信太の森から『葛の裏風』、いや、「恨み風」を吹かす……、のかも知れないなあ。



46―4 【恐】


 【恐】、「心」の上にある文字は、神に仕える人が呪具を両手で高く持ち上げ、神を迎える仕草。

 その時、神をおそれ、かしこまるその「心」が【恐】だとか。


 こんな【恐】と「竜」で、熟語「恐竜」となる。

 英語では「dinosaur 」。この言語はギリシア語で「恐いトカゲ」の意味だとか。

 やっぱり【恐】なのかと感心する恐竜、毎年新発見で話題に事欠かない。


 日本で化石発見された最大恐竜は、かって三重県鳥羽市で発見されたトバリュウ。体長は約16~18mと推定されている。


 これが世界となれば、驚愕だ。

 2014年アルゼンチンで、約9000万年前の草食恐竜が発見された。

 体重は約100トン、体長は40メートルで、アフリカ象14頭に相当するとか。


 うーん、アフリカ象ね。これではちょっとイメージが湧かない。

 そこで大型バス、ざっくり1台10トン、長さで10メートルだ。

 要は重さでバス10台、体長でバス4台の長さなのだ!

 これって、どないなヤツなんだ! と叫んでしまう。


 しかし、こんな恐竜が地球を歩いてたと思うと、その自然のダイナニズムに【恐】悦至極となってしまうのだ。



46―5 【胡】


 【胡】、古い月と書く。

 中国の遊牧民族を【胡】(こ)と卑しんで呼んだそうな。


 そんな【胡】は熟語となり、胡瓜きゅうりのように【胡】が付けば、のものを示す。

 他に胡麻ごま胡桃くるみがあるが、胡蜂と胡座となると、ちょっと読みが難しくなる。


 答えは、胡蜂は(すずめばち)、中国の遊牧民族の方から飛んできたのかな。

 また、胡座は(あぐら)、異民族から伝わってきたのだろう。

 さらに馴染み深いのが胡椒こしょう、英語で香辛料の「Pepper」だ。


 だが、ここへ来て、ソフトバンクが「Pepper」と言うロボットを発売するらしい。

 元々「タロウ」と名付けられていたが、孫正義氏が世界中の人が覚えやすくて発音しやすい名前にしたかったとかで、変更された。


 そして、このロボットはなかなかの優れものらしく、胡椒はピリピリとするが、どうもこのヒューマノイド「Pepper」は人の心にそっと寄り添ってくれるらしい。


 なるほど、「Pepper」は胡椒で、異民族の分類になるが、一緒に暮らした~い!



46―6 【光】


 【光】、これは「火」と「人」の組み合わせだとか。

 つまり「人」の頭上に「火」をかざしている形だそうな。


 他に同じような組み合わせがある。「見」とか「先」とかだ。

 「見」は「人」の上に「目」、これで「見る」。

 「先」は「人」の上に足跡の形の「止」をおいて「先」。

 いろいろあるものだ。


 そして最近話題になったのが――LED(light emitting diode)、つまり光を放射する半導体素子。

 赤崎勇教授、天野浩教授、中村修二教授の三氏が2014年のノーベル物理学賞を受賞した。


 理由は、明るくエネルギー消費の少ない白色光源を可能にした高効率な青色LEDの発明。そして、20世紀は白熱灯が照らし、21世紀はLEDが照らす。

 スウェーデン王立科学アカデミーはこう締め括った。


 光の色は赤・緑・青の3原色が混じり、あらゆる色が現出する。そして全部混ぜ合わせば白色となる。

 この中の赤色と緑色の開発はすでに終わっていた。


 しかし、青色は20世紀中は不可能とされていて、このため白色は作れないことになっていた。

 しかし、三氏による努力により、それは可能となった。


 素晴らしいことだ。

 このようにして、最近のイルミネーションはほとんどLEDが使われるようになった。


 しかし、ここで、待った! がかかったのだ。

 冬の風物詩の神戸ルミナリエは東日本大震災以降LEDに切り替わってきた。

 だが、声が上がった。光が冷たい、と。

 この評判に応え、2014年からすべて白熱電球と白熱灯に戻されたのだ。


 この事実を知り、人間の感性とはなんと奥深いものかと感銘せざるを得ない。

 世の中がノーベル賞で盛り上がる中、LEDにノーを突き付けたのだから、こんな凄いことはない。


 ひょっとすれば、我々人間は【光】に対し、「ぬくもり」や「ゆらぎ」のような曖昧な要素も求めているのだろう。


 とにかく【光】は、「火」と「人」が組み合わさった漢字だから、と一応ここでは結論しておこう。


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