第27章 準 若 長 努 八 鶯
27―1 【準】
【準】、元来水平を測る器のことだとか。ここから「平準」、平らな意味になったようだ。
そして「標準」、「準則」、「準拠」の述語が生まれた。
訓読みでは準(なぞら)えると読み、goo辞書では「ある物事を類似のものと比較して、仮にそれとみなす」とある。
また「準XX」とあり、「XX」に次ぐものを表す。例えば、準一級に準決勝、さらに重ねて【準々】決勝。もうなんでも【準】だ。
果ては【準】チョコレート。
元々チョコレートはカカオ分が35%以上のもの。そして妥協したとしても、このチョコレートを全重量の60%以上使用した加工品。これが【準】チョコレート。
こんな分類だけでもややこしいのに、事はそう簡単ではない。
「チョコレート菓子」という分類があるのだ。これはチョコレートが全重量の60%未満の菓子だとか。
チョコレートから見れば、【準々】チョコレートってとこかな。
そして、止せば良いのに、【準】チョコレート菓子という分野がある。
ここでもまた【準】。【準】チョコレート菓子は【準】チョコレートが全重量の60%未満だとか。いわゆる【準々々】チョコレートということのようだ。
ああ、ややこしいってありゃしねえ!
さて、ここでクエスチョン。ポッキーは、な~に?
チョコレートでないことだけは確かだ。
種類が数多とあるポッキー。答えは――【準】チョコレート菓子より格下で、チョコレートから言えば、【準々々々】チョコレートだとか。
しかし、本当のところは、誰もよくわからないそうだ。
【準】チョコレート、チョコレート菓子、【準】チョコレート菓子のいずれかの表示があったらまだましな方。たいがいは無表示。
それでもチョコレートと呼ぶ【準々々々々】チョコレートのようなものもあるようだ。
いわゆる、限りなく……単なる菓子ってところかな。
ことほど左様に、【準】という漢字、【準々々々々】と、どこまでも準(なぞら)えてしまうのだ。
27―2 【若】
【若】は象形文字。巫女が長い髪をなびかせて、両手を挙げて舞い、神のお告げを求めている姿だとか。
さらに具体的に言えば、草冠が挙げた両手の形。
そして神が乗り移り、巫女がうっとりした状態にあるのが【若】ということらしい。
うーん、なるほど、神がかってるとなるが、いや、むしろ色っぽい漢字かな。
だが、こんな【若】、読み方はいろいろある。
音読みは(ニャク、ニャ、ジャク、ジャ)、例としては「老若男女」、「般若」、「泰然自若」、「若干」がある。
そして訓読みでは、(わかい)に(もし)。
もし天気が晴れたら……、この(もし)が「若し」という字なのだ。
なぜ(もし)が「若し」なのか、この仮定の(もし)に【若】の漢字が充てられたのか調べてみたがよくわからない。
ならば電話で「もしもし」、これは「若し若し」と書くかなと思ったが、これは「申す申す」から来ているそうな。
やっぱりね、【若】、神がかって神秘かな?
27―3 【長】
【長】は象形で、長髪の人を横から見た形だとか。
なるほど、そのように見える。
だが、ここで不思議なのは、長髪の人は老人であり、氏族の指導者、だから「たっとぶ、かしら」の意味になったのだと言う。
えっ、老人が長髪?
普通ははげ頭じゃないか!
多分、これは中国での解釈。そう言えば、中国でははげ頭の人を見ない。年老いても髪はふさふさ、長髪となるようだ。
日出ずる大和の国では決して生まれない漢字なのかも知れない。
こんな【長】、人は小学校の「級長」から始まり、大人になれば「係長」に「課長」、 そして「部長」、挙げ句に「社長」と、とにかく【長】を欲しがる。
しかし、八百【長】だけは御免こうむりたい。
スポーツ界、過去いろいろな八百長があった。八百長試合だけは見たくない。
だが最近のことだ。国際サッカー連盟(FIFA)の会長が「スポーツに不正行為は常に存在する。それを防止するのは無理」と発言した。
これには耳を疑った。無理と諦めて、どうするんだ! と叫びたくなる。
そんな「八百長」、元はと言えば、明治時代、長兵衛という男が「八百長」という相撲茶屋を開いていた。
そこへ大相撲年寄の伊勢の梅が碁を打ちに通ってきていた。
長兵衛は勝てる腕があったが、伊勢の梅が喜んで来てくれるようにといつも負けていたのだ。
しかし、なぜばれてしまったのだろうか。
後日、碁会所開きに招かれた長兵衛、本因坊と互角に戦った。そして、その腕前が知れ渡ってしまい、ばれたとか。
こんな話しなら、まだ笑って済ませられるが……。
いずれにしても【長】、八百長はもちろんのことより、部長、社長より――長髪が欲しい!
27―4 【努】
【努】、分解すれば、「女」の「又」に「力」。
おまえ何考えてんだ! と問い詰めたくなるが、これは分解のし過ぎだ。
まず上部の「奴」、この「又」(ゆう)は手の形であり、「女」を手で捕らえた形だそうな。ここから「めしつかい、やっこ、しもべ」の意味になったとか。
そして下部の「力」は鋤(すき)の形であり、農耕に勤め励むこと。したがって【努】は、しもべが農耕に勤め励む意味。
さらに発展し、人がつとめる、人がはげむ意味になったようだ。
しかし、こんな【努】、意外に(ゆめ)とも読む。
万葉集に、笠女郎(かさのいらつめ)が大伴家持に贈った二十四首の歌がある。その中の一つが次ぎ。
『
意味は、年が経ったからといって、今はもう良いと思い、貴方、ゆめゆめ私の名を、人にはおっしゃらないでください。
かって恋人同士だった。そして再会。女は人目を気にし、自分の名前を口にするなと男に念を押す。
よくある話しで、1000年前も今も一緒。
そんなことを訴えた歌、【努】(ゆめ)よ我が背子とある。
この【努】(ゆめ)はあとに禁止を表す語を伴って使われ、決して/必ずの意味。【努々】(ゆめゆめ)と繰り返して使われたりして、例として「ゆめゆめ油断するな」などがある。
【努】という漢字、「女」の「又」に「力」なんて、【努々】(ゆめゆめ)思うなということなのだ。
27―5 【八】
【八】、左右にものが分かれる形だそうな。算木でこの形は数の「やつ」を表す。
【八】は「末広がり」で、幸運の字。
車のナンバープレートも「8」が続けば抽選でとなる。また【八】には八百万の神のように、数多いという意味も含まれる。
大河ドラマ「八重の桜」、それは新島八重の物語だ。
八重は弘化二年(1845年)に、会津藩の砲術師範の山本権八の娘として生まれ、昭和七年(1932年)まで87年間の動乱の生涯を生きる。
明治元年(1868年)、京都鳥羽伏見で
これで弟の三郎は落命し、兄の覚馬は政府軍の捕虜となってしまう。そして三郎の衣服のみが会津に送られてくる。
政府軍が会津へと攻め上がってきた。
八重は断髪し、そして弟の衣装を身に纏い、七装式のスペンサー銃を担ぎ、鶴ヶ城に立てこもった。
そして籠城戦で男たちとともに戦うが、明治元年の9月22日、会津藩は政府軍に降伏。この時、23歳の八重は鶴ヶ城三の丸の雑物蔵に和歌を刻んだ。
『明日の夜は 何国の誰か ながむらん なれし御城に 残す月影』
あすのよは いづこのだれか ながむらん なれしみしろに のこすつきかげ
その後、明治四年(1871年)、兄の山本覚馬を頼って上洛する。そして京都女紅場(府立第一高女)の教道試補となる。
それから兄を通して同志社を創設したクリスチャン新島襄と巡り会い、明治九年(1876年)に31歳で再婚する。京都初の日本人同士のキリスト教式の結婚式だった。
男勝りの八重は新島襄の同志社の運営に助言をし、またかしづかず、西洋慣習に慣れた夫とは似合いの夫婦だったとか。
新島襄は八重のことをアメリカの友人にこう評した。
「彼女は見た目は決して美しくはありません。ただ、生き方がハンサムなのです。私にはそれで十分です」と。
その後、新島襄は46才で逝き、八重は日本のナイチンゲールとして日本赤十字社で活動し、87歳でその生涯を閉じる。
京都岡崎に光明寺という寺がある。そこは京都守護職を務めた会津藩主・
そこには境内の会津藩墓地で撮影した八重の写真がある。87歳の八重が穏やかな表情で写っている。
また鶴ヶ城落城時に刻んだ和歌を写した八重直筆の書が残されてある。それは達筆で驚くものだ。
八重には悪妻、烈婦、元祖ハンサムウーマンと様々な評があった。
まさにそれこそが【八】、末広がりで様々、【八】重の生き方そのものだったのだろう。
27―6 【鶯】
春告げ鳥の【鶯】(うぐいす)、上部の冠は「栄」であり、ぐるりととりまく様を表す。そして【鶯】、首まわりを輪の羽模様がとりまく「鳥」だからだとか。
と言われても、【鶯】を見掛けることはない。
【鶯】は臆病な鳥で、藪の中で虫を食べ、めったに人前にはその姿を見せない。
だが遠く方でホーホケキョと美声で鳴き、色は鶯色。この鶯色は灰色がかった緑褐色だ。
しかし、ここで問題が。同じ春告げ鳥にメジロがいる。
この鳥は花の蜜が大好物。特に梅の花。そして大胆で、そう逃げない。
色も抹茶色に近く、鮮やか。これにどうしても目が取られる。
そのためか、ここに間違いが起こる。
ホーホケキョと美声が聞こえてきた。窓から梅の木を見ると、そこに抹茶色の美しい鳥がいる。
「梅に鶯、ホーホケキョ」
人はこんな言葉でついつい春を愛でてしまうのだ。
しかし、ようく見てくだされ、それは――メジロだよ!
【鶯】は藪の中。
梅にいる鳥は花の蜜をついばみ、押しくらまんじゅう状態でしょ。そう、目白押しなんです。
えっ、花札に梅に鶯、抹茶色の鳥が描かれてるのに?
ブー、これも間違ってま~す。
とにかく【鶯】、こんな間違い探しも、ホーホケキョと軽く終わらせてしまいましょう。
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