第9章 壺 雨 薔 遊 鳴 数
9―1 【壺】
【壺】、この字体、丸く腹がふくれ、口をすぼんだ「ツボ」の形だとか。
この【壺】という字、もう一つ漢字がある。それは中身が微妙に違う――【壷】
印刷標準字体の「亞」タイプと、非印刷字体の「亜」タイプとなっている。
これって、どちらが正しいのだろうか?
調べてみると、どちらも正解だとか。
そんな【壺】、その中には『
そこへ潜り込めば、酒が一杯飲めて、この世の憂さが忘れられるそうな。
昔、
ある日、楼上から眺めていたら、薬売りの老人が店先にある壺の中に跳び込むのを見てしまった。
興味が湧き、帰ってきた老人に頼み、一緒に壺の中に入れてもらう。
するとその中は、立派な建物が建ち並び、
費長房は老人とともに、それはそれは楽しい思いをした……そうな。
行ってみた~い!
ということで、近場を探してみた。だが、そんな【壺】はどこにもない。
あるのは「骨壺」くらいなもの。
そんな【壺】に、もし飛び込んだら、閻魔大王の思う【壺】……ということになるのだ。
そして大王は嬉しそうに仰るだろう。「間抜けが【壺】に嵌まりよった」と。
9―2 【雨】
【雨】、天から「あめ」が降る形の字。
そんな【雨】、少し科学的に解釈すれば、空から落ちてくる直径0.5ミリメートル以上、大きなものは直径3ミリメートルの水滴のこと。
それより小さい雨滴のことを、「
【雨】は平らな饅頭の形状をして、毎秒9メートルの速さで落下してくる。
そんな【雨】、必ず降る日がある。
それは曾我兄弟が討たれた陰暦の5月28日。
そして時代を経て、さらに情が入れば【雨】は詩となる。
雨はふるふる 城ヶ島の磯に
利休鼠(りきゅうねずみ)の 雨がふる
雨は真珠か 夜明けの霧か
それともわたしの 忍び泣き
北原白秋は城ヶ島の雨でこう詠った。
この中にある「利休鼠の雨」、それは抹茶のような緑色を帯びた鼠色。
イメージからすると暗い感じがするが、「利休鼠は
そんな風情一杯の【雨】が、初夏に降る。
9―3 【薔】
【薔】、難しい字だ。
音読みで、(ショク)、(ショウ)、(ソウ)、(バ)。そして、「薇」と合体して「薔薇」(ばら)となる。
低木で棘のある木が「
それを音読みで(そうび)、(しょうび)と読む。
その「薔薇」の字、日本での初登場は約1,100年前の西暦918年。本草和名という本で、「うまら」と読まれている。
そんな「薔薇」、1867年以前の薔薇は「オールドローズ」と呼ばれ、それ以降の四季咲きは「モダンローズ」と大別される。
そして最近人気があるのが、この二つのDNAを持つ「イングリッシュローズ」だとか。特徴は、なんとなく
そんな薔薇、かってクレオパトラは、百均の温泉名湯の粉ではなく、一杯の薔薇の花びらを浮かせた風呂に、毎晩とっぷりと浸かっていたとか。
美人は薔薇によって育まれるものなのだろうか。
そんな期待に応え、あるはあるは薔薇冠商品。
薔薇香水はもちろん、薔薇水、薔薇茶、薔薇酒、果ては薔薇団子に薔薇饅頭までもが。
ということで、【薔】の世界、古今東西、実に賑わってるようだ。
追記:
だが、残念なことだ。
ほとんどの人が【薔薇】という字が書けない。
【薔】――草に土、人人が回る。
【薇】――草の下が微か、ただその中の山下に一あり。
さあ、これで今日から威張れるぞ、【薔薇】という字書けるぞと。
9―4 【遊】
【遊】は、道を行く意味を持つ「しんにゅう」。
その上に、神霊が宿っている旗を建てて出行する形の上の字を乗せている。
そこから神霊が遊ぶこととなり、さらに発展し、人が興のおもむくままに行動して楽しむこととなった。
白川静先生は「遊字論」の中で、【遊】について次のように説明されている。
遊ぶものは神である。
神のみが、遊ぶことができた。
【遊】は絶対の自由と、ゆたかな創造の世界である。
それは神の世界に他ならない。
この神の世界にかかわるとき、人もともに遊ぶことができた。
そんな【遊】、芭蕉が奥の細道の序文の元にもしたが、李白の「春夜桃李園に宴するの序」にある。
光陰は 百代の
歡を
古人燭を
……
この中にある言葉・『秉燭夜遊』(へいしょくやゆう)。これがまことに素晴らしい言葉なのだ。
その意味は、人生は
簡単に言えば、『夜遊び』の大奨励。
そんな『秉燭夜遊』、座右の銘にしている輩がいるとか。
えーい、それに賛同して、元々【遊】は神だけに許された行いだが、思いっ切り――【遊】んじゃいましょう!
参考: 奥の細道の序文
月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり。
舟の上に生涯をうかべ馬の口とらへて老を迎ふる者は、
日々旅にして旅を栖とす。
古人も多く旅に死せるあり。
9―5 【鳴】
【鳴】、「口」と「鳥」が組み合わされた漢字。「口」は祝詞を入れる器で、「鳥」の鳴き声で祈ることとか。
そんな【鳴】、この世では多種多様なものが鳴く。
鶯は、梅に鶯ホーホケキョと鳴き、雉も鳴かずば打たれまいと注意されても、それでもケーンケーンと甲高く鳴く。そして大山鳴動して鼠一匹と、山まで鳴く。
しかし、清少納言はもっとスゴイ!
枕草子の中で、
いわく、
蓑虫の親は、子に可笑しな着物を着せて、
秋風が吹く頃に迎えに来てやると言って、どこかへ逃げてしまった。
それで蓑虫は、仲秋の頃になると、「ちちよ、ちちよ」と鳴く。
それが哀れで、心が動かされる。
こんなことを、平安時代のブログで仰っられたのだ。
それから一千年の春秋を経てしまったが、これがまた律儀に、高浜虚子は俳句でコメントを返す。
―― 蓑虫の 父よと鳴きて 母もなし ――と。
そして、それだけで止せば良いのに、また調子に乗って、高浜虚子はついでにと、「亀鳴くや 皆愚なる村のもの」と、亀まで鳴かせてしまったのだ。
そんなん鳴くかー! と叫びたくなるが、俳句の世界では、他に鳴くものは一杯ある。
驚くことに、季語にまでなってしまっている。
たにしって、たんぼにいてるたにしが、どう鳴くねん?
梅雨時、紫陽花にかたつむり、ツノ出して鳴くんかい?
みみずって、土から出て来て……、みみずの遠吠えかい?
こうなれば、もう何でもありだ。
ならば……、ならばだ。鮎風の「鮎」。
「鮎鳴く」も夏の季語として、充分あり得る話しだ。
で、一句できあがり!
鮎【鳴】くや 皆塩焼きに 夏の涼
で、鳴き声は?
シオシオ……シオシオ
これ、どうでっしゃろか?
9―6 【数】
【数】、元の漢字は【數】。
その【數】の左部は、女性が髪を高く巻き上げた形。
右部は崩すという意味があり、その二字が合わさって、髪が崩れ、髪の毛が数えられないほど乱れた状態。それを【數】というらしい。
そして【数】は「数字」となり、一、二、三の漢数字に、また1、2、3のアラビア数字、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲのローマ数字……などになる。
さらに【数】は語呂合わせされ、言葉にも変身するのだ。
本エッセイでは、恥ずかしながら本邦初公開。思いっ切り行きましょう。
テーマは――『貴女の彼は、どんなヤツ?』
(11)82 (カッコいいヤツ)?
それとも 8636 (ハンサム)?
秘密は守られてます。お気に入りの【数】を、どうぞ。
007182 折れないヤツ
037182 幼いヤツ
18782 嫌なヤツ
23782 地味なやつ
29182 ニクイヤツ
420782 失礼なヤツ
45182 すこいヤツ
487182 シャーナイヤツ
49982 よく食うヤツ
5561182 心がいいヤツ
5922782 極普通なヤツ
697782 無口なヤツ
8910782 薄情なヤツ
9041782 クレージーなヤツ
992782 窮屈なヤツ
#782 シャープなヤツ
でも、やっぱり 110105 いいオトコ。
【数】、それは尽きず、いつまでも遊ばせてくれるのだ。
それでは、この辺で、
110753(いいおなごさん)と、
8341023(やさしいおにいさん)に、0843(おやすみ)
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