第50章 開 酉 台 喧 汁 特

50―1 【開】


 【開】、門を閉める横木を表す「閂」(さん、かんぬき)と「廾」(きょう)との組み合わせ。

 「廾」は左右の手を並べた形の漢字で、「閂」(かんぬき)を「廾」で取り外す。

 これがまさに【開】(かい、ひらく)だとか。

 うーん、なるほどと納得してしまう。


 さてさて、この漢字一文字の旅、1年ほど休まさせて頂いておりました。

 理由は、ちょっと疲れ、温泉宿で休養させてもらっていたとご理解ください。

 そのせいで……、『旅で最も手間取るのは、敷居をまたぐ時だ』。

 これはマルクス・テレンティウス・ウァロという人の言葉です。


 確かにその通りかもね。

 だが「閂」(かんぬき)を両手「廾」で取り外し、敷居をまたぎ、新たな旅へと――再【開】。


 『砂漠を旅する者は、星に導かれて進む』

 このM・トケイヤーの言葉を心に刻み、今度はゆっくりとした旅を続けさせてもらいます。



50―2 【酉】


 【酉】、酒樽の形で「酒」の元の形だとか。

 読みは(ユウ、さけ、とり)。その中の(とり)は音を借りる仮借用法だそうな。


 2017年の干支は10番目の【酉】(とり)、いわゆる鶏(にわとり)だ。

 なぜ鶏なのだろう。

 9番目が申(さる)、11番目が戌(いぬ)、この犬猿の仲の間に入って、間柄を取り持ったのが鶏だったから……だとか。

 まあ、そのようにしておきましょう。


 さて、鉄の女と呼ばれた英国初の女性首相サッチャーさんは【酉】に例えて言いました。

「鳴くのは雄鶏(オンドリ)かもしれません。しかし、卵を産むのは雌鶏(メンドリ)です」と。

 男どもはこれに「御意」と答え、何事にも従わざるを得なかったそうだ。


 そして東洋では「雌鶏(メンドリ)勧めて雄鶏(オンドリ)時を作る」という格言がある。

 これは夫が妻の言いなりとなり、操られること。


 うーん、予感がする。

 2017年の酉年は、ますます女性の勢いが増し、男どもはコケコッコーと。

 いやいや、もう結構、結構! と鳴くしかない事態になるのでは……、と。



50―3 【台】


 【台】、元の字は「臺」(だい)、「高」の省略形と「至」を組み合わせた形だとか。

 「至」は矢が到達することで、古い時代重要な建物を建てる時、矢を射て、その建設場所を選定した。

 その神聖な建物が【台】だそうな。


 しかし、常用漢字の【台】は建物の意味はなく、神が寄りつく高殿のことだとか。

 ということで、ちょっとややこしい漢字なのだ。


 年末になると今年1年を表す漢字が清水寺で発表される。

 2016年の漢字は「金」となった。


 そしてそれ以外に、日本気象協会が発表する――今年の天気を表す漢字一文字がある。


 2016年気象予報士が選らんだ漢字は――【台】。

 理由は夏から秋に台風が連続で上陸した。中には北海道にも上陸し、またUターンして本州に戻ってきた台風もあった。


 されども一方で、一般人が選んだ気象一文字漢字がある。過去も含めて並べてみよう。

 ・・・・ 気象予報士 ・・・ 一般人 ・・・      

 2016年・・  台  ・・・・  雨  ・・・

 2015年・・  変  ・・・・  雨  ・・・

 2014年・・  災  ・・・・  雨  ・・・

 2013年・・  暑  ・・・・  荒  ・・・


 どうも一般人は【台】より、最近の異常気象によるゲリラ豪雨の方が印象が深いようだ。



50―4 【喧】


 【喧】、口偏に「宣」(せん)。

 この「宣」(せん)には「宣室」と呼ばれる半円形の部屋があり、祖先の霊を祭り、裁判などが行われたようだ。

 そこからなのだろう、発令を「宣言」ということらしい。


 そして「口」の方はもちろん象形。

 だが、これは人の口ではなく、祝詞を入れる器の形だそうな。


 口偏に口という字がある。

 それは一文字で「口口」。

 (ケン)と読み、意味はやかましいこと。

 しかし、本来は祝詞を入れた器を二つ並べたものだそうな。


 さらに、口を四つ組み立てた漢字がある。

「 口口

  口口 」

 (シュウ)と読み、やっぱり滅茶苦茶やかましいことだとか。

 しかし、これも本来は祝詞を入れた器を四つ、いや多く並べた形だそうな。


 【喧】に付く「口」は元来

「 口口

  口口 」だったとか。


 これにより【喧】の意味は祝詞を入れた器を多く並べて、大声を張り上げて祈ってる様ということだ。

 故に【喧】は「やかましい、かまびすしい」の意味になった。


 この【喧】が並んだ四字熟語、【喧】々囂々(けんけんごうごう)は当然――多くの人が銘々勝手に発言して大変やかましいさま、の意味となる。


 一方、はばかることなく正論を堂々と主張するさまの意味の侃々諤々(かんかんがくがく)という四字熟語がある。

 【喧】々囂々(けんけんごうごう)と侃々諤々(かんかんがくがく)、この二つはよく混同される。


 そしてもっとごちゃ混ぜにした形が「【喧】々諤々」(けんけんがくがく)だ。

 残念ながらこんな言葉はない。なぜなら、やかましいが理論整然ってあり得ないからだ。

 多くの人が集まり、「【喧】々諤々」(けんけんがくがく)と議論された、などといい加減なことを言わぬように。

 そこで、正解は短縮させて、「ケンゴウ」、「カンガク」と覚えておこう。


 ということで、本日はちょっと【喧】だったかな



50―5 【汁】


 【汁】、「氵」に「十」、十ほどの多くのものを混ぜて作られた液体のことだとか。

 だが現実には「果汁」、「肉汁」、「墨汁」と単品でも液体であれば【汁】のようだ。


 英語で「soup」(スープ)、スペイン語では「sopa」(ソパ)。

 世界三大スープは……、これが諸説いろいろだ。

 トムヤンクン、フカヒレスープ、味噌スープ、ブイヤベース、ボルシチがだいたい定番の候補のようだ。


 ちょっと待った!

 筆者は叫びたい。一番は「ソパ・デ・シエテ・マリスコス」だろ、と。

 メキシコで味わった、要は「七つの海汁」だ。

 七つの海は歴史とともに変遷したが、今は北大西洋、南大西洋、北太平洋、南太平洋、インド洋、北極海、南極海だ。


 これら七つの海からの幸、エビ、イカ、タコ、貝、魚類が凝縮されたソパ。

 これぞ地球海洋生命体の堂々…美味汁だ、と主張したい。


 【汁】、とにかく「氵」に「十」だけに、十人十色てところかな。



50―6 【特】


 【特】、「牛」とじっと立つ意味を持つ「寺」で、じっと立った牛。すなわち立派な牡牛だ。

 ここから「めだつ、とくべつ」という意味になったとか。


 米国の大統領、世界の予想に反しトランプ氏となった。

 英語名は――Donald John Trump。

 では中国名では――「特朗普」。だが巷では――「川普」。


 中国語発音では特朗普はトゥーランプー。

 川普はチュアンプー。

 中国人の耳には「Trump」はトゥーランプーではなく、チュアンプーと聞こえるようで、川普(チュアンプー)が巷ではよく使われているようだ。

 しかし、公的にはあくまでも特朗普の字を使えと指示が飛ばされてるとか。


 うーん、「特朗普」ね。

 この漢字から読むと、アメリカ大統領は牡牛で朗らか。だけど普通ですね。

 どうもこれが公の見解のようだ。


 そして世間では、「川普」。

 もっと上から目線で、川のようにありきたりの普通ですね、ってことかな。


 さすが中国は4000年の歴史、曹操に比べれば、トランプ大統領は【特】別ではなく、「普」通の人ってことなのかも知れないなあ。



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漢字一文字の旅 鮎風遊 @yuuayukaze

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