第7章 金 沙 鼠 岬 蜜 鰹

7―1 【金】


 【金】、元々は銅のことで、一定の型に鋳込んだ塊の形だとか。

 そんな【金】、元素記号「Au」の光沢ある黄色の金属。化学的にきわめて安定で、王水以外の酸には溶けない。

 そのため貴重で、現在価格は約4,000円/グラム以上と高騰中。


 だが、よく延びて、1グラムあれば数平方メートルの厚さ0.1ミクロンの金箔になる。

 その金箔を貼り付けたのが金閣寺。

 昭和25年に修行僧が放火し、全焼。

 その後、20キロの金が使われ修復された。

 単純計算で、1億円近い金箔がペタペタと貼られていることになる。少し分けて欲しいものだ。


 だが今の日本は――都市鉱山。

 ケイタイ、パソコン等々に、金が約6,800トン眠っているとか。

 単純計算で約30兆円。これは世界の現埋蔵量の16%に相当する。


 さてさて、我が家にはどれくらい眠ってるかな?

 気の狂ったパソに、重量級のケイタイ……ドッサリとあるぞ。

 発掘したいものだ。



7―2 【沙】


 【沙】、水を表す「氵」(さんずい)が「少ない」と一緒になり、水辺の砂地の意味となる。

 音は(さ)で、響きが良い。そのためか、「沙織」は女性名前ランキング上位に位置したことがある。


 こんな【沙】に、姉妹漢字がある。それは「紗」。

 こちらは「糸」が「少ない」となり、薄い絹織物のこととか。

 それならば、同じ「さおり」でも、砂ではなく、「紗織」の方を好む人もいるだろう。


 だが、そんな【沙】と「紗」。【沙】の方が熟語を断然多く作る。

 その代表格が『沙汰』。

 「汰」は分ける意味があり、砂を分けることとなり、そこから善悪を分ける意味となる。

 そして、「地獄の沙汰も金次第」の裁決の意味を含むことになったようだ。

 他に、色恋沙汰、刃傷沙汰、警察沙汰……等々、恐ろしい言葉ばかりだ。


 だが、心和む熟語もある。それは音信の意味の『御無沙汰』。

 御無沙汰でした、というところから会話が始まれば、『沙汰』することはないと、すべては許され、あとは一気に盛り上がる。


 そして最近、きっと皆さん御多忙なんでしょうね。あちらこちらで――『御無沙汰』の挨拶だらけなのだ。



7―3 【鼠】


 【鼠】、これは「ねずみ」の象形文字。

 上は歯、下へ向かって身体、爪、尾だとか。

 そう言われれば、そのようにも見えないわけではないが……、うーん。


 そして、「ねずみ」の語源は「盗み」だとか。夜に食べ物をこっそりと失敬して行くからだ。

 だが、幼い頃が懐かしい。夜になると、天井で大運動会をやっていた友達。

 しかし、最近てっきり会うことがなくなってしまった。

 その代わりに、西洋の【鼠】、ミッキーマウス君が我々に元気を与えてくれている。


 中国では、この友人のことを、「米老鼠」(ミーラオシュー)と呼ぶらしい。

 アメリカの年季の入った立派な鼠さん。尊敬の念をもって、「老」が充てられている。

 確かにそうなのかも知れない。ミッキーマウス君は、1928年11月18日(日曜日)生まれの大鼠君なのだ。


 そして、日常生活な中でも他の【鼠】君が大活躍してくれている。

 それはパソコンに向かうと必ず握手する『マウス』。

 最近のマウスは線付きから放たれて、スルスルと上手く動き回ってくれる。

 そんなマウス、中国では「滑鼠」と呼ぶらしい。なるほどと……納得。


 と言うことで、これからもまだまだ、【鼠】君とのお付き合いは続いて行きそうだ。



7―4 【岬】


 【岬】、元々の意味は山と山の間、山あいだとか。

 それが日本国語では、なぜか海中に突き出た陸地の端となり、「みさき」となる。

 そんな【岬】、旅情一杯で、いろいろな伝説がある。

 その一つがグアムにある『恋人岬』。


 グアムをスペインが統治していた時代、父はスペインの貴族、母はチャモロ族の首長の娘。

 そんな両親から生まれた美しく心清らかな一人の娘がいた。

 年頃となり、父はスペイン人の男を婿に迎え入れようとした。しかし娘は嫌で、町から逃げ出し、海岸へと辿り着いた。

 そこでチャモロ族の貧しい兵士と出会い、恋に落ちてしまった。

 二人は人目を忍び、浜辺で逢瀬を繰り返した。


 しかし、それを知った父は怒り、二人をタモン湾の崖まで追い詰めた。

 もう逃げられないと悟った二人は、互いの長い黒髪を固く結び合い、崖の上から身を投げてしまった。

 そして、その後、その悲恋の岬は「恋人岬」と呼ばれるようになったとか。


 だが、このような伝説は日本にもある。それは新潟の柏崎にある『恋人岬』。

 昔、佐渡にお弁という美しい娘がいた。佐渡に船大工の仕事で来ていた籐吉と恋に落ちた。

 しかし、籐吉は仕事が終わり、柏崎へと帰ってしまった。

 お弁は恋しく、柏崎の岬の常夜灯じょうたとうを目指し船を漕いで行った。そして毎夜船で漕ぎ行き、籐吉との逢瀬を繰り返した。


 しかし、籐吉はお弁の深情けが鬱陶うlとうしくなってきた。そのため、ある夜、常夜灯を消してしまった。

 その翌日、お弁の水死体が岸に漂着した。それを見た籐吉は悔い、後を追って海に飛び込み死んだ。

 人たちはお弁を葬り、そして、その岬を『恋人岬』と呼ぶようになったとか。


 古今東西、【岬】には、微妙に異なってはいるが、悲しい物語があるようだ。



7―5 【蜜】


 【蜜】、「ウ」冠に「必」で、封じ込めるという意味がある。

 これに「虫」を付けて、蜂が巣の中に封じ込めた「みつ」となる。

 とろ~りと甘いためか、江戸時代、いい男のことを「水もしたたるいい男」とは言わず、「【蜜】が滴るいい男」と表現したようだ。


 当時、役者が顔に、化粧水の代わりに【蜜】を塗っていたとか。

 うーん、甘そうだ。

 だが……愛犬ポチが舐めにきそう。


 こんな【蜜】、口に【蜜】あり腹に剣あり。とにかく用心が必要。

 スパイの世界では、ハニー‐トラップ【honey trap】と言う。いわゆる【蜜】のような甘い罠のこと。

 女スパイがお色気で、外交官、政治家、軍関係者などを誘惑し、諜報ちょうほう活動をする。


 そして一説では、マリリン・モンローはハニー‐トラップを仕掛ける超セクシースパイだったとか。 

 もし本当ならば、一度そんな甘い罠に填まってみたいものだ。そんな気にもなってくる。


 しかし、その【蜜】のような甘い罠、なにも男性だけを標的にするものではない。逆バージョンもある。

 男スパイが女性を、色仕掛け(?)で落とすとか。


 そんな男スパイ、きっとイケメンで、【蜜】も滴るいい男……なんだろうなあ。



7―6 【鰹】


 【鰹】、「魚」に「堅」で「かつお」。

 万葉の時代から食用にされてきたが、身が柔らかく傷み易い。そのため堅い干物にして食べ、「堅魚」(かたうお)と呼ばれていた。


 特に初鰹は、江戸時代珍重された。

 傷みが早く、危ない。そのため安全に食べるためには高価となる。 

 「まな板に 小判一枚 初鰹」と言われるほどだった。


 庶民にとって、初鰹は途方もなく高級魚。

 それなのに、「目には青葉 山時鳥ほととぎす 初松魚かつお」と、旬を味わうのはこれしかないとあおられる。

 それでも初鰹を食べない輩に、「女房子供を質に出してでも食え」と、無理強いまでもが。

 もうここまでくれば……人権侵害の域。


 しかし、救世主が現れる。【鰹】を丸ごと火に炙ったもの、それは――「タタキ」

 これで少々古くても、ポンポンは痛くならない。そして、当然お値段はお手頃なものとなったのだ。

 庶民にとって、タタキ万々歳だ。


 ならばと言うことで、少し余談となるが、問題のユッケも――タタキにして食べたらいかがなものだろうか?


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