第41章 残 宙 蛋 亜 黒 橋

41―1 【残】


 【残】、右部は薄いものを重ねたものを言い、左部は死体の胸から上の骨が残ってる形だとか。

 そこからばらばらになって、僅かに残されている骨が【残】ということらしい。意外に恐ろしい漢字なのだ。


 こんな【残】、生き残りに居残り、そして心残りなどなんとなくすっきりしない。


 そして面白くなく、落ち込むのが「売れ残り」。

 そんな中でも最も残酷なのがペットの売れ残りだ。

 ペットショップで窓越しに可愛いねと一杯声を掛けられて、買い手に引き取られて行くペット。

 だが、いつまで経っても飼い主が見つからない仔がいてる。


 一体その後はどうなるのだろうか?

  1番は値が下げられる。

  2番は里親募集。

  3番は店で飼う。


 そして4番は、保健所へと。

 こうなれば最悪だ。

 せめて生き残らさせてくれとペットから悲鳴が聞こえてくる。


 一方、素晴らしい格言がある。

 それは、

 みんなさんがもっとこの言葉に従えば、4番の不幸はなくなるだろう。


 とにかく【残】、本日の教訓は……残り物には福がある、だ!

 さっ吾輩は、最終日の宝くじを買いに行ってこよう、っと。



41―2 【宙】


 【宙】、往古来今の時間を言い、天地四方上下を意味する「宇」と引っ付き「宇宙」となる。

 つまり時空を意味する。


 また【宙】のウ冠の下の「由」、これは瓢箪の実が熟して溶け、殻の中が空っぽになった形だそうな。

 そこから宇宙のように、果てしなく広がる空間を意味するとか。


 いろいろと解釈はあるようだが、宇宙の大きさはどれくらいのものだろうか?

 現在我々人類が知る宇宙は――半径450億光年の球状の範囲だ。


 そう言われても、ピンとこない。

 人類が暮らす天の川銀河は直径10万光年。

 アンドロメダ銀河、一番近い銀河だが、250万年光年の距離がある。

 計算すると、宇宙の果てはアンドロメダ銀河の1万8000倍先にあるようだ。


 うーん、これでもイメージがわかない。

 もし地球とアンドロメダ銀河の距離が10センチメートルとすると、宇宙の果ては1.8キロメートル先。

 えっ、意外近いじゃんと勘違いしそうだけど、事実はとてつもなく遠いのだ。


 そして、その果てに何があるのだろうか?

 案外、今あるここに戻って来たりして。


 ことほど左様に、【宙】という字、まったくわけわからないが、わかったような気にさせてくれる漢字なのだ。



41―3 【蛋】


 【蛋】、読みは(タン)、中国では「卵」のこと。


 この「卵」は向かい合ったたまごの形だとか。だが【蛋】、なぜたまごなのかわからない。

 蛋白などの熟語がある。難読だが皮蛋はピータン。

 そんな【蛋】に宝石がある。それは「蛋白石」、オパールだ。

 乳白色の輝きがあり、オーストラリア、メキシコが原産地。


 そして「蛋白石」は石だけではない。植物にもある。

 それはプラント・オパールだ。


 稲は水分を吸い上げ、細胞にガラス質の珪酸体を作る。

 枯れて土に戻るが、このガラス質は腐らず、時を超えて残る。

 そして稲のプラント・オパールは美しく、イチョウの葉形の特別な形をしている。


 2005年、岡山県・彦崎貝塚の約6000年前の縄文前期の地層から大量にプラント・オパールが見つかった。

 これが意味するところは、当時ここで稲作が行われていたということだ。


 このようにして日本ではいつ頃から稲作が行われたのか、最近明らかになってきた。

 岡山市の朝寝鼻貝塚、ここが最も古く、6400年前にはみなさん銀シャリをいただいてたようだ。


 いずれにしても【蛋】、中国では「卵」だが、日本では古代ロマンまで誘ってくれる漢字なのだ。



41―4 【亜】


 【亜】、象形であり、王の墓室の平面形だとか。


 それで王はどこに埋葬されているの? となるが、もちろん中央で、四隅は悪霊が潜む可能性があるので、くり取られてあるそうな。

 それを上から見て【亜】、なんとなく納得してしまう。

 そして意味は、なぜか第2番目のこと。


 そんな【亜】に「鈴」が付いて、「亜鈴」。

 (あれい)と読み、両端に重りが付いたトレーニング用具だ。


 あれっ、鉄アレイって日本語だったの? 信じられない人もいたことだろう。

 日々の筋力アップで、オッチニ、オッチニと鉄アレイのお世話になってる御仁も多いことだろう。

 その手にしてるのは「亜鈴」、第2番目の鈴なのですよ。


 英語では「ダンベル」という。

 「dumb bell」で、「音のしない鈴」のこと。

 確かに、どれだけ筋トレで上下しても音はしないです。


 それにしても不思議なものだ、日本語では第2番目の鈴とし、英語では音のしない鈴と呼ぶ。

 どことなく似てるような気がして……。


 ということで、【亜】という漢字、そこはかとなく愛着を覚えてしまうのだ。



41―5 【黒】


 【黒】、元の字は嚢(ふくろ)にものがある形で、それに下から火を加えて、嚢の中のものを焦がして黒くすることだとか。


 そんな【黒】、V6の、いやひらパー兄さんの岡田准一が演じる大河ドラマ・黒田官兵衛が面白い。


 黒田官兵衛は戦国時代から江戸時代前期へと、その動乱の時代を駆け抜けた。

 その生涯の中で一番の危機は、荒木村重が織田信長に謀反を起こし、寝返るなと説得に行ったが幽閉されてしまう。


 信長は官兵衛が裏切ったとし、長男の松寿丸(黒田長政)の殺害を命じる。

 友人の竹中半兵衛が信長を説得し、後日助けられる。


 二つ目の危機は、豊臣秀吉が高松城を攻めている時に、明智光秀による本能寺の変が起こった。

 秀吉は打ちひしがれたが、黒田官兵衛は毛利家と和睦を結び、急いで光秀を討つべきと進言した。

 秀吉は官兵衛が天下を取るつもりだと疑った。


 されどもその案通り、中国大返しをし、山崎の戦いで明智光秀を滅ぼした。

 その後は軍師として立場をはっきりさせ、豊臣家のために奮闘した。


 そして三つ目の危機は、秀吉の朝鮮出兵で石田三成と確執が生まれた。そんな中で、秀吉が没。そして関ヶ原の戦いへと突入して行く。

 この時は官兵衛は「如水」(じょすい)と名乗り、長男の長政とともに徳川家康の東軍につき、石田光成の西軍と戦う。そして勝利。


 長政は福岡藩を任せられ、官兵衛は隠居となる。

 そして京都伏見藩邸で59歳の生涯を閉じる。


 キリシタンであった官兵衛の辞世の句は

 おもひをく 言の葉なくて つゐに行く 道はまよはじ なるにまかせて


 宣教師にルイス・フロイスは後日記している。

 官兵衛のすべての功績は如水、水の如く消え去って行った、と。


 こんな黒田官兵衛が側室を設けず一途に愛した女性は、正室の櫛橋光くしはし てる

 7歳年下で、15の時に嫁いできた。


 てるの一番の危機、関ヶ原の戦いで石田三成が大名の妻子を人質に取ろうとした時、細川ガラシャは自害した。しかし、てるは家臣たちによって救出され、豊前国中津城へと船で脱出する。

 官兵衛以上に波瀾万丈だった。されども75歳の生涯を全うする。


 いずれにしても【黒】、どこまでも力強い漢字なのかも知れない。



41―6 【橋】


 【橋】、右部の「喬」(きょう)は物見櫓である「高」の上に神を招く標木(目印)を立てた形だとか。

 そして古代、「はし」の両側にもこの標木を立てたそうな。

 こんな謂われより川にかかる「はし」は漢字【橋】となったようだ。


 江戸時代、江戸の八百八町に京都の八百八寺。

 これに対抗してか、大阪は浪華の八百八橋と言われた。その呼称通り、橋は多くあったとされている。


 では、実際のところはどうだったのか。

 江戸には約350橋、これに比べ大阪には約200橋ほどしかなかった。

 では、なぜ江戸より少ないのに八百八橋?


 江戸の橋は約半数が公儀橋、つまり幕府が架けた橋なのだ。

 それが大阪では12橋のみ。残りがすべて町人が架けた町橋だった。

 幕府の援助なしで、町人が自腹切って架けた。

 このプライドと、あまりにもむかつくので、「浪華の八百八橋」とふれ回るしかなかったようだ。


 その上に戎橋えびすばし淀屋橋よどやばし、そして心斎橋しんさいばしなどなど、呼び方は(はし)はなく全部(ばし)なのだ。

 うーん、なんとなく気持ちわかるよな。


 さらにだ。

 東京にもある日本橋、大阪の日本橋は――――ですわ。


 そして、現代となり……。

 サッカーの応援はやっぱり――ニッポン、チャチャチャでしょ。

 これ、大阪の「ニッポンばし」の流れだとか、大阪のオバチャンが言うてはりました。


 とにかく【橋】、「はし」と美しく言うか、「ばし」と濁って呼ぶかで、えらい違いなのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る