第1章 純 京 機 宝 似 湯

1―1 【純】


 【純】、汚れがないこと。

 「純愛」、「純真」、「純情」と熟語を作る。

 英語ではピュア(pure)。日本語のジュンと同様に響きが良い。


 【純】は、元々厚織物の端に垂れた混じりけのない単色の糸のことらしい。

 しかし、こんな【純】、「糸」と「屯」に分解できる。そして語源を辿たどって行くと、この「屯」、なかなか大したものなのだ。

 地面を突き破るために、草の芽が頭をもたげる様。地中でぐっと力を溜め込んでいることを言うらしい。


 「糸」の横にこんな力強い「屯」が貼り付いて、「糸」が秘めた力を持ったことになる。

 したがって【純】、本来はまことにパワフルなのだ。


 例えば、「純愛」、「純真」、「純情」。

 現代の流れから行くと……、それらは美しい。

 しかし、何か弱々しさを感じ取ってしまう。


 だが、【純】は元来充分過ぎるパワーを保持している。

 だから、人生の旅路の果てに、たとえ満身創痍まんしんそういでヨレヨレだとしても、「純心」でありさえすれば、清々しく、かつ力強く生きて行ける。


 なぜなら、そこにはまだまだ新芽吹く【純】パワーが残されているからだ。



1―2 【京】


 【京】は(ケイ)とも読む。それは数字上で、兆の1万倍。

 1京は、9、999兆 9、999億 9、999万 9、999より、1つ大きい数字。

 そのためか【京】と言う漢字には、とてつもなく大きいという意味がある。


 例えば、京都。途方もなく大きい都という意味となる。

 したがって飛鳥京も平城京も、そして平安京も、当時はいずれの都も京都だった。大きな都という一般的な意味で解釈されていたようだ。


 それでは京都という今の固有地名になったのは、いつ頃のことだろうか?

 それは随分と最近のことだ。廃藩置県後からとされている。

 そんな【京】(ケイ)、数字としてはまだまだ日常的に使われるところまではきていない。


 一方、「兆」は、例えば日本の借金はざっくり1千兆円とか。またトヨタの売上高は19兆円。このように、兆の単位は日常茶飯事に耳にする。

 されど【京】の場合はまだまだ。

 だが、最近たまたま耳にしたのが、次の二つ。

 一つは、約20年後の2030年には、世界の株式総額が1京円を超えるとか。

 二つ目は、お隣りのアンドロメダ銀河まで、1,800京キロメーターあるとかだ。

 こんな話題でしか、【京】は今のところ聞いたことがない。


 したがって、日常生活への数字の【京】の出番は――ここしばらくはなさそうだ。



1―3 【機】


 【機】は〈はた〉と読み、織物を織る道具を意味する。

 【機】は元来物理的に動くものであり、からくりもの、つまりマシンのことだ。

 だが、そこから自由奔放に他の漢字を取り込み、いろいろなものを機織りしてしまうようになった。

 しかも時までも織ってしまったのだ。


 例えば、「会う」を織って「機会」となり、「好む」を織って「好機」ともなる。

 そして、止せば良いのに「運」まで織って「機運」ともなる。


 だが英語では、この時間的な【機】、論理的に偶然の機を「chance」と言い、偶然でない機を「opportunity」と区別して使う。それが一般的だ。

 やはり日本人は情緒的なのだろうか、どちらの【機】も好き。

 偶然も、偶然でないものも、全く無視。


 だが、こんな【機】だけは勘弁願いたい。それは「危機」。せめて一言後ろに添えて欲しい、「一髪」を。

 これで危機一髪、なんとか生き延びられる。


 そんな【機】に目が離せないのだ。



1―4 【宝】


 【宝】は、「ウ」冠の下に「玉」。

 つまり家の中に、希少で美しい玉があるということだとか。

 そして旧字体では【寶】と書く。

 家の中には、玉(宝石)や貝(貨幣)がざくざくあるということらしい。


 庶民の生活では、「玉」は半熟の目玉焼き。

 「貝」は、シジミのインスタントみそ汁。それをすするのが関の山なのかも知れない。家の中に宝石や貨幣がざくざくなんて……、羨ましい限りだ。


 そこで一念発起して、一攫千金の宝探し、そう、トレジャー・ハンティング(Treasure Hunting)となる。

 大海賊キャプテン・キッドが、約300年前に金銀財宝を埋めたとされる宝島。それは米国ニューヨークのロングアイランド沖にある小さな島、ガーディナーズ島だ。

 そして金銀財宝が眠るその場所は――「北北東より1ポイント北に位して、遠眼鏡の肩、高い木、髑髏《どくろ》島東南東微東」とされている。


 グーグルマップの航空写真上では、すでにその在処ありかのマーキングは終えているのだが……。旅費がない。


 だが、そんな夢を追っていることが、心の【宝】なのかも知れない。



1―5 【似】


 【似】は、(とうばる)とも読む。その意味は、貴人の容貌に似ていることとか。

 そして、世間でよくあるのが、『似たもの同士』。

 これは貴人の(とうばる)ではなく、単に振る舞いや性格、そして考え方が似ているだけの話しだ。だが、なかなかいい言葉だ。


 こんな似たもの同士、なにも人間だけではない。宇宙の星にもある。

 そして、地球にもその相棒が存在するとか。

 約20光年離れた天秤座に、太陽に似たグリーズ581という恒星がある。その六つある惑星の一つに、『C』なる星がある。


 その星こそが第二の地球、『似たもの同士』だと言われている。

 ただ、その第二の地球、自転していない。そのために、太陽(グリーズ581)に面している部分は摂氏70~80度ある。また、裏面は氷点下だそうだ。


 だが、心配は御無用。

 その裏表うろもての境目にある20度の温暖の帯、それがぐるっと星を巻いている。そこに人間、つまり我々の友人たち、そう、我々の似たもの同士が住んでいる可能性が高い。


 ひょっとしたら、第二の自分というヤツがいて、今日もアホな小説を書いているかも知れない。

 そんな『C』星の景色、それは多分、星の表と裏の境目だから、太陽は天高く昇らず、一日中美しい夕焼け状態だと言う。

 そんな第二の地球の『似たもの同士』に逢いに行ってみたいものだ。


 ただ――【似】て非なり――でないことを祈りつつになる、かな。



1―6 【湯】


 【湯】、それはかって、町の銭湯ののれんに大きく書かれてあった。

 それをくぐり、番台でお金を払い、脱衣所へ。そして引き戸を引き、ワンワンと声が響く浴場へと入る。


 すると、そこには美保の松原の絶景があった。

 時代の流れとともに、そんな町の銭湯は衰退し、【湯】という字を目にすることが少なくなった。


 しかし、たまに目にした時、不思議にほんわかとした気分になってくる。

 そして、日本人は風呂好きで、9割の人が38~42度の湯を好む。

 だが、もう少し仔細しさいに分類すると、リラックスするためには38度と低めが良い。

 肩こり解消には41度らしい。

 朝起きてシャキットするには42度が一番。


 それに比べ、お茶の温度は玉露が50度、煎茶は70度、そして番茶は熱湯と幅広い。

 そして同じ【湯】でも、焼酎お湯割り。絶対に60度と頑固一徹のやからがいる。

 また、燗酒が一番美味しいのは人肌。しかもぬるめの燗が良い。

 人肌であり、かつ温めって……、35度くらいのことだろうか? もし、♡♡でもいて、確認できたら嬉しいのだが。


 そんな妄想に、今夜は42度のシャワーで――喝!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る