第34章 漠 火 廃 鰻 寝 時

34―1 【漠】


 【漠】、右部の「莫」は「暮」の元の字で、草と草との間に太陽が落ちていく形だとか。

 この「莫」は音読みで(ボ、バク)、そして訓読みで(な)いと読み、否定を表す。


 【漠】の代表的な熟語、「砂漠」がある。

 なぜ水を意味する「さんずい」が付いて、「砂漠」なのだろうか? それは水が「莫」(な)い所という意味、だから「砂漠」だとか。

 なるほど、たったそれだけのことだったのかと納得する。


 そして【漠】は、もともとはゴビ砂漠のこと。

 このゴビ、これは砂漠そのもののことで、ゴビ砂漠は「砂漠砂漠」と言ってるようなもの。

 こういう形態を畳語(じょうご)というらしい。幼子に「おめめ、いたいいたい」、「おめめ」も「いたいいたい」も畳語。


 こんな畳語のゴビ砂漠、中国のモンゴル地区にある。1600kmx970kmの世界4番目に大きい砂漠だ。

 夏は45度、冬はマイナス45度まで下がる、まさに荒漠の地。


 そんなゴビ砂漠で、世界で最も過酷なマラソンが開催される。それは7日間で約250キロをラリー形式で走破するというもの。過酷そのものだ。

 そして参加料は3,300U$、約33万円。これも大変チャレンジャブルで厳しい。


 【漠】、水がないということで、それに纏わるものはすべて過酷なようだ。



34―2 【火】


 【火】、見ての通り燃える火の形だ。

 この【火】、二つ重なれば、「炎」(ほのお)となり、三つ重なり、「焱」(エン、ほのお)、そして四つ重なり、「燚」(イツ、イチ)となる。


 火はどんどん燃え盛り、すべてを焼き尽くしてしまうという恐ろしい字だ。

 そして…… ♪ 肥後は火の国よ 恋の国 ♪

 坂本冬美さんは「火の国の女」を歌い上げる。


 この火の国は肥国ひのくに、現在の長崎/佐賀/熊本を含む広い地域だ。

 昔、不知火しらぬひに導かれ、天皇が八代県やつしろのあがたに上陸した。そのことから、その一帯が「火の国」と名づけられたと『日本書紀』に書かれてある。


 だが現在、火の国と言えば、阿蘇山を中心に熊本をイメージする。

 そんな火の国の女は猛婦と呼ばれた時期があり、頑固で情が熱い。

 お付き合いはかけひきや遊びではなく、本音本気でなければならないと言われている。


 ♪ 惚れたおなごを 抱きたけりゃ

   火傷かくごで

   抱かんとね 抱かんとね ♪


 こう歌は続くが、火の国の女、【火】どころではない。

 まさに「燚」レベルなのだ。



34―3 【廃】


 【廃】、「すてる」の意味の字は「法」の元の字だった。そこから形声で、【廃】が「すてる」の意味になったとか。

 そう言われてみても、なんのことかよくわからない。


 他に、「广」(げんぶ)は岩屋の意味、そしてその中に、出発の「発」。それがなぜ「すたれる、すたる」となったのか?

 結局、さっぱりわからない漢字なのだ。


 そんな【廃】の熟語に「廃墟」がある。この廃墟が最近なかなかの人気だそうな。

 ネット内で一度は訪ねてみたい所として、写真で多く紹介されている。例えば、世界ではアンコールワットとかだ。

 ならば、日本ではどこだろうか?

 堂々の1位は、奈良のドリームランド。

 1961年7月1日に開業、45年の営業後、2006年8月31日に閉園した。

 吾輩も幼い頃、二、三度行ったことがある。


 未来の国、幻想の国、冒険の国、過去の国、メインストリートの五つのエリアがあった。

 今から思えば、ほぼディズニーランドのパクリだったのではと思える。それでも懐かしいから、不思議だ。


 というのも、今は廃墟だが、朽ちた木造のジェットコースターに夕日が映える。これがなんとも言えね昭和の風景なのだ。


 第2位は、琵琶湖大橋の大観覧車イーゴス。1992年に建設、108メートルの世界一の高さを誇った。

 しかし、営業終了後の8年間、廃墟のままだったが、2013年に解体開始。ベトナムへ移転した。

 2014年には廃墟は更地となった。惜しいと思うが、ベトナムでのイーゴスの再出発を祝ってやりたい。


 そして、ランク付けをするのはおこがましいが、格違いの番外編の廃墟は──軍艦島。

 長崎港の南西に位置する海岸線1200メートルの小さな島。一時炭鉱として栄え、東京都の人口密度の9倍の5、200人が住んでいたそうだ。

 現在は無人島で、島全体が廃墟。


 しかし、大正、昭和の名残があり、心霊スポットもある。

 恐いぞ! と、一度は行ってみたい気がする。

 調べてみれば、3,600円の上陸幽霊ツアーがあるようだ。

 いかが? と、まずは他人に勧めてみよう。


 いずれにしても【廃】、岩屋の「广」(げんぶ)に、出発の「発」、岩礁の島の軍艦島からどこかあちらの世界へと旅立つ、それに招かれてるようだ。



34―4 【鰻】


 【鰻】は、ウナギ。右部の「曼」という字は、頭に深く被る頭巾に手を掛けて引き、目があらわれる形。そこから婦人の目が長く、美しいことを意味することとか。

 この優雅な「曼」に「魚」が組み合わさって、【鰻】(うなぎ)。川底の穴からにょろと出てきたウナギ、流し目で美しいということか。


 そういえば、蒲焼き前のウナギの目、どことはなしに憂いがある……ように見えるが。

 そんなウナギ、日本で年11万トンが消費されている。


 しかし、太平洋のマリアナ海溝生まれのニホンウナギの稚魚・シラスウナギ、その漁獲量が激減している。

 それにより鰻丼も鰻重も高騰の一途。いや、ウナギ登りだ。

 早く完全養殖できないかと願うばかり、そんな昨今だ。


 しかし、待てない。

 そこで最近注目されているのが、ナマズの蒲焼き。

 かっての江戸時代、ウナギもナマズも夏場の大事な栄養源、いずれもよく食べられていた。


 しかし、ある店で、ウナギが売れず、店主が蘭学者の平賀源内に相談した。

 当時言われてた。土用の丑の日に「う」の字がつく物、例えば梅干しや瓜を食べると夏負けしないと。そこで源内は店主に「土用の丑の日は鰻」と張り紙させた。

 これで店は大繁盛となり、そのキャッチフレーズが現代にまでも影響を与えている。


 されども鰻丼高騰の折、この習慣をひっくり返そうと、ナマズの蒲焼きキャンペーンが始まった。

 で、お味の方はどうかということだが、鯰丼、まったく鰻丼と見極めがつかないほど美味しいとのこと。

 どんなものかナマズの蒲焼き、一度食したいものだ。


 「鯰」は英語で「catfish」、いわゆる「猫魚」。

 そして【鰻】という漢字、婦人の目が長く、美しいという意味。

 一体どちらが美味かな?



34―5 【寝】


 【寝】、元の字は「夢」という字と夢魔に襲われていることが組み合わさってできているとか。そこから「ねる」の意味になったそうな。


 しかし、悪夢じゃたまったものじゃない。

 そこで【寝】を楽しみながら、旅のロマンを満喫する。こんなことが最近流行り、身近に実現しつつある。

 それは豪華寝台特急。大阪発札幌行きのトワイライトエクスプレス。22時間かけて、日本海沿いに走り行く。まさに夢の中のジャーニーだ。


 また上野発札幌行きのカシオペア。これも同様、車窓から流れ行く風景を眺めながら、優雅なスイートルームで愛する人とくつろぐ。もちろんディナーはボルドーの赤ワインに本格フランス料理。まさに至福の一時だ。


 そして……お待ちどおさま。いよいよ日本版オリエント急行の幕開けだ。

 『ななつ星 イン 九州』、クルーズトレインが2013年10月からスタートした。

 予定では1泊2日コースと3泊4日コースが用意され、週1回ずつ運行されるとか。

 九州を豪華寝台列車に揺られ、ゆったりと一廻り。途中駅で停車すれば、温泉にもつかれるという。


 これに続けと、JR東もクルーズトレインを2016年に運行を開始すると発表した。

 10両編成で、ダイニングにラウンジ、そして1両当たり2、3室の客室、他に2スイートルームなどで構成されるとか。


 こんな極楽のような豪華寝台列車、人生に一度で良いから、至福の【寝】を味わってみたいものだ。



34―6 【時】


 【時】、「日」は太陽の形、中に中身があるから線を加えた。それに「寺」、なぜ「寺」なのだろうか?

 【時】は、「寺」でものを時間的に持ち続けていることを意味し、そのことが【時】ということだそうな。


 一方、「持」という字がある。これは「寺」がなにか物理的に持っていることであり、これが「持つ」ということだとか。「寺」に絡んだ似たような字源があるものだ。


 さてさて……、うかうか30きょろきょろ40としている内に、歳月人を待たず。

 光陰矢の如しで、気が付けば10年一昔となっている。

 さらに、昨日は今日の昔と時は流れ、髪に白いものが混じる。

 そして知るのだ、人生白駒の隙を過ぐるが如しと。


 小学生の頃、夏休みは永遠に続き終わらないと思えるほど長かった。

 しかし、最近は1週間。いや1ヶ月。いやいや1年が、猛烈な速さで飛んでいく。

 年を取ると時が経つのが速い。これは一体どういうことなのだろうか。


 ネットで検索すると……、年を重ねると、その日常生活は知ってることや経験したことばかり。そこには驚きや感動がないため、記憶に残ることもなく、あっという間に時は流れ去って行くのだ、と説がある。

 そして、さらに訓示まで。


 時の流れを遅くするためには、驚きや感動のある日々を送れ。つまり日々一喜一憂し、ハラハラと暮らせと。


 【時】という漢字、「寺」が付いているだけに、纏わる話しの解釈も説法めいている。

 しかし、もうやってまっせ、毎日。

 最近の株の乱高下、一喜一憂のハラハラ生活を。


 されども――【時】は超特急ですがな。どうしてくれんねん!


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