第35章 空 画 鮪 網 氷 倍

35―1 【空】


 【空】は「穴」と「工」で構成されている。開いた「穴」が「工」の形、つまり虹のように弓形に曲がった意味だとか。

 そして「穴」の中には何もない。そのため「から、むなしい」の意味となった。


 秋の青空、まさに清々しいブルースカイだ。だが、その元の意味は「穴」だとは、少しがっかりする。


 そんな【空】の四字熟語に「色即是空」(しきそくぜくう)がある。これはクレヨンしんちゃんの野原家の床の間の掛け軸にも書かれてある。

 これは一体どういう意味なのだろうか?


 まず「色」は仏教語で、宇宙のすべての事物や現象。そして「空」は実体がなく空無なこと。

 「即是」は二つのものが一体不二ふに、要は二つとないことである。

 これから「色即是空」は現世の物事は実体がなく空無、つまり一瞬たりとも同じ状態にとどまらず、常に変化し続けるという意味となる。


 そんな四字熟語「色即是空」は「色即」と「是空」の組み合わせだと思っていた。

 だが違った。

 読みは(しき・そくぜ・くう)。

 そう、「色」、「即是」、【空】の三つの組み合わせだったのだ。この歳になって驚いた。



35―2 【画】


 【画】、元の字は「筆」と、四角い盾の形の「周」とで形成された漢字だとか。そこから【画】は盾に模様を「えがく」ことであり、また画かれた模様のことを言うらしい。


 そんな【画】、最近は動く【画】がある。いわゆる動画、アニメだ。

 そして最近、株式市場で囁かれている都市伝説がある。それは――ジブリの法則。

 スタジオジブリのアニメがテレビで放映されると株式市場が荒れるというもの。


 宮崎駿の新作品「風立ちぬ」が2013年7月に公開された。一方で、1986年作品の「天空の城ラピュタ」もテレビ放映された。

 このタイミングに合ったかのように、米雇用統計が発表された。就業者数の増加幅が市場予想を下回ったという。

 結果として、日経平均株価は208円安と大荒れとなったのだ。


 これは単なる偶然か?

 しかし、こんな事態が2008年から14回あったようだ。そして10回的中したとか。

 これはやっぱり都市伝説──そう、ジブリの法則だと囁かれている。


 このジブリ、砂漠に吹く熱風のこと。

 動【画】となって、こんな熱い風をマーケットの世界にまで吹かしてしまっているのだ。



35―3 【鮪】


 【鮪】、この字は元々中国で大きな魚、チョウザメのこと。その後、日本にこの字が入り、大きな魚であるマグロとなったとか。

 マグロの語源は目が大きく黒いから「目黒」(まぐろ)。または大きく黒い魚で「真黒」(まぐろ)のようだ。


 そんな【鮪】、ちょっと複雑で、スズキ目、サバ科、マグロ属だとか。一体本性はどれなんや? と尋ねたい。


 そんな質問に──黒いダイヤだよ!──と名答が返ってきそうだ。

 全長3メートル、体重400キログラムのクロマグロ、こんなドデカイ黒ダイヤ、一度でいいから手に入れたいものだ。


 されども、そんなマグロ、辛い宿命を背負っている。なぜなら、えら蓋をパクパク動かすことができない。

 そのため海水の酸素を取り込むために、いつも口は半開き。水が口内に入ってくるよう、一生泳ぎ続けなければならないのだ。

 同情の極みだ。


 さらに不幸なことに、寿司ネタにするため捕獲され続け、絶滅危惧種に指定されそうだ。

 そこで業深い人間が思いつくのが、黒ダイヤの養殖。それも卵から成魚まで育てる完全養殖。


 しかし、これがなかなか難しい。

 巨体が悠々と遊泳できる大きなスペースが必要。また成熟に時間が掛かること。

 さらに皮膚が弱く、小さな傷でも死んでしまう。

 これらの難点を乗り越えて、商業ベースにやっと乗りつつあると言われている。


 舌の上でトロッととろける黒いダイヤ、トロを思い切り食べられる日はそう遠くはないようだ。



35―4 【網】


 【網】、「糸」に右部「罔」は「あみ」の象形だとか。


 こんな漢字のことわざ、「天網恢々疎にして漏らさず」

 この「かい」は「心」に「灰」、元はうつろな気持ちの意味であったが、広くてゆったりしていることらしい。

 天に張られた【網】は粗い。しかし、小さな悪事でも見逃さない【網】だ。


 そんな【網】、英語では「net」。現代社会ではインターネットだ。

 このネットに老若男女、みんなが嵌まってる。

 そして行き着く先がインターネット中毒、あるいはネット症候群と患い、社会問題にもなっているようだ。


 何を隠そう吾輩も典型的なネット中毒。パソコンの前に座ること、毎日平均6時間は超える。

 連れ合いと過ごす時間より長い。もうネットなしでは生きて行けない。

 こんな人生、幼い頃思い浮かべたことはなかった。だが今はネット命なのだ。

 まるで奴隷のように。


 そんな【網】、かって鳥獣を捕獲する、があった。

 細い糸で作られた【網】であり、飛んできた野鳥はそれに絡む。

 当然そこから逃れるため羽ばたこうとするが、細い糸のため反力は得られない。そして力尽き、逆さ吊りとなり、喀血により死に至って行く。

 残酷過ぎて、現在は禁止されている。


 いずれにしても【網】、今はネットとなり、「かすみ網」以上に残酷なものになりつつあるのだ。



35―5 【氷】


 【氷】、水が凍ってる象形。

 しかも水の流れの中で2個の氷がある形だとか。


 えっ、どこに氷が? と叫びたくなるが、左部の「ヽ」と「フ」がその二つの氷……だそうな。

「そうなんだ」と呟き、あとは何も言えず、黙るしかない。


 そんな【氷】、夏場はやっぱり──かき氷。

 童謡の金太郎は

 ♪ まさかりかついで 金太郎

   くまにまたがり お馬のけいこ ♪ ……と歌う。


 この金太郎、足柄山で熊と相撲を取ったりして大きくなり、源頼光の四天王の一人の坂田金時となった。

 そして丹波の国、大江山(現在京都府福知山市)の酒呑童子しゅてんどうじを退治するなどの大活躍をした。


 この坂田金時は真っ赤な顔をしていた。そこから赤い豆、すなわち小豆あずきは金時となった。

 こんな金時を宇治茶とコラボさせ、かき氷に。宇治金時の出来上がりだ。

 まさに暑さを吹っ飛ばしてくれる。


 宇治金時のかき【氷】、「ヽ」と「フ」は【氷】だが、さらに目を懲らせば、宇治茶の葉っぱに見えてくるから不思議だ。



35―6 【倍】


 【倍】、右部は実が熟し、割れようとしている形だとか。これに人偏が付いているため、人為的に割って数多くなることだとか。


 最近流行ったTVドラマ「半沢直樹」。

 東京中央銀行、大阪西支店融資課長の決めゼリフ 「やられたらやり返す。倍返しだ!」

 そして倍返しからますますエスカレートし、今は「10倍返しだ!」となっている。

 前述の通り、【倍】は人偏付き。人為的に割れて数多くなることだから、実に恐ろしい展開になって行きそう。


 だが、一粒万倍いちりゅうまんばいもある。一粒のもみから稲が万倍にも実ること。

 最近は宝くじ売り場でよく目にするのが、一粒万倍日。本日は事始めの吉日、買えば大当たりになる、というもの。


 しかし、この一粒万倍日、暦上は月に2回はある。

 そんなのホント? と疑ってる御仁には、決して宝くじは当たらないそうだ。


 いずれにしても【倍】、最高は一粒万倍もあるぞ。

 半沢直樹の決めゼリフも、究極は「万倍返しだ!」……かも知れないなあ。


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