第4章 微 車 驫 欲 肉 恋

4―1 【微】


 【微】、(かすか)と訓読みし、「わずか」なこと。その意味は、細い糸の端のように目立たないということらしい。


 しかし、どの程度のものかがわからない。

 だが、漢数字では「一」、「分」、「厘」、「毛」、「糸」、「忽」、【微】、「繊」、「沙」、「塵」……と小さくなる。


 その中の【微】は100万分の1のこと。ほとんどないに等しい。

 そして笑いにも微かなスマイルがある。

 それはモナリザの微笑。


 レオナルド・ダ・ヴィンチは、その100万分の1の微笑みをスフマートという技法で描いた。

 その口元辺りに輪郭を作らず、透明色で何度も何度も微かずつ上塗りをし、100万ドルの微笑を創り出したとされている。


 そして、その微笑を万人に贈るために、左右の瞳の見つめる方向を違えた。これにより、どこから見てもモナリザは、自分だけを見つめて微笑んでくれているのだと錯覚に陥る。

 そして御愛嬌にも――左目頭に吹き出物まで作って。


 ナポレオンは浴室にモナリザを飾っていた。

 うっとりとしながらシャンプーしてたら、あっと手が滑り、泡が飛んだ。

 吹き出物はそのシミだとか。


 ナポレオンよ、お前はバカかと叫びたくもなるが、今のモナリザは、つまりレオナルド・ダ・ヴィンチとナポレオンの合作ということになるのかな?

 そんなモナリザ、たった100万分の1の微笑みと……プラス吹き出物で、今でも万人に、永遠の微笑を贈ってくれているのだ。



4―2 【車】


 【車】、中国古代の戦争は馬車で戦う車戦。2頭の馬がそれを引っ張ってた。

 【車】という字は、その車体に左右の両輪を付けた形を表しているとか。


 そして、現代の中国にもいろいろな【車】がある。

 ただ、日本と少し違うようだ。

 日本の自動車は汽車。

 汽車は火車で、自転車は自行車。愛車は私人車と言うらしい。


 少し外れるが、日本での愛人は中国では情人と言うらしい。

 ならば、愛車を「情車」と呼べば良いものを……、不思議だ。情と私人の間に、何か微妙な差があるのだろうか?


 そして、庶民が困る車が――「火の車」。

 元は、生前悪事を犯した者をこれに乗せ、地獄へと運ぶ火の車のことだとか。

 今は、お金のやりくりに苦しむことを意味してる。


 そして、もう一つ嫌な車が――「口車」、こんな車には乗りたくない。

 だが中国では、この「口車」という言葉がないようだ。

 多分、パクリと同様で、「口車」が一杯走っていて、日常的で当たり前。そのため、「口車」とういう概念が形成されてこなかったのかも知れないなあ。




4―3 【驫】


 【驫】、この字を大きくすれば、「 馬

                   馬 馬 」 

 これは「馬」を三つ使い、二段に積み上げた漢字。


 このような類の漢字は他にも多くある。

 その代表例が、「木」の積み上げ。まずは「木」を横に並べて「林」になり、そして「森」となる。


 同様に、「馬」を二つ並べて「騳」となる。これは(トク)と音読みし、馬が走る意味だとか。

 そして、「馬」を積み上げて【驫】となる。

 音読みで(ヒュウ)、訓読みで(とどろ)だそうだ。

 意味は、多くの馬が群を成し、その走る様。あるいは、その際に発せられてくる音だとされている。


 競馬場へ行けば、名馬たちが第4コーナーを回り、群を成して、目の前を駆け抜けて行く。

 その音が……【驫】


 それは「ドドドー」と聞こえるのだが、中国のピンインで行けば、(biao)あるいは(duo)。

 中国では、どうも「ビヤオー」とか、「ドゥオー」とかに聞こえているようだ。


 そして「馬」とくれば、当然、その因縁の相棒は――「鹿」。

 「鹿」にも積み上げ漢字があって、それを大きく書けば、 「 鹿

                              鹿 鹿 」

 (ソ)と読み、粗いという意味らしい。


 ここまで来れば、後は 驫 と 麤 との恐怖の合体。

 読みでいくと、(ヒュウソ)だろうか?


 しかし、これって一体どんな馬鹿なんだろうか?

 馬鹿は死ななきゃ治らない。


  馬   鹿

  馬 馬 鹿 鹿


 驫麤 は、3回死ななきゃ治らない。それくらい強烈なのかな?

 で、気付いてしまった。

 こんな造語を作って、一人悦に入ってるオヤジこそが…… 驫麤

 3倍馬鹿の『ヒュウソ』そのものなんだと。



4―4 【欲】


 【欲】、この漢字は「谷」と「欠」の合体型。

 「谷」はハ型に流れる水が口(あな)に流れ込むさま、そして「欠」は身体をかがめた形。

 【欲】は、それらが合体し、心に穴が開き、腹がへって身体が屈み込んだ姿だとか。


 なんとなくわかる気がするが……、要は「ほしい」(I want)ということ。

 人には眼/耳/鼻/舌/身の五官がある。そして、それらにより認識できる色/声/香/味/触の五境がある。

 この五境、時として塵のように人の心を汚すことがある。そのためか五塵とも呼ばれている。


 そんな塵が積もって、心身から出てくるもの、それが仏教で教えている五欲だ。つまり財欲/色欲/飲食欲/名誉欲/睡眠欲の五つだそうだ。


 しかし、これらがなかなか厄介なもので、時には異常に肥大し、醜くなる。

 ならば、そんな【欲】、もうあっさり捨ててしまって、「無欲」がきっと一番心地よいのだろう……と思うが。

 やっぱりその前に、時節は秋、美味しいものが食べた~い!



4―5 【肉】


 【肉】、切り取られた肉片の形だとか。

 うーん、なるほど……なんとなく、そんな形に見えるかな?


 そんな【肉】片を焼いて食べさせてくれるのが、今流行りの焼き肉店。カルビ/ロース/牛タン/ミノ/ホルモン等々、いろいろな肉片がある。

 しかし、そんな焼肉店、江戸時代の両国にもあった。「ももんじ屋」と呼ばれていたらしい。


 漢字では「百獣屋」と書く。

 なぜなら、農民が鉄砲で捕獲してきた猪や鹿、それに牛や馬、さらに犬に猿。まさになんでもありの百獣の焼き肉店だったとか。

 ただ当時は肉食が嫌われていた。そのためか、上手いこと考えたものだ。

 客寄せには、焼き肉を「薬喰い」と呼んだそうだ。

 そして猪肉を山鯨(やまくじら)、鹿肉を紅葉(もみじ)などと、風情あるメニューに変えたようだ。


 そんな江戸時代の焼き肉店の「百獣屋」(ももんじ屋)、犬や猿は遠慮したいが、一度食べに行ってみたいものだ。



4―6 【恋】


 【恋】、この古い字は【戀】

 漢字の上の部位は「乱」(もつれる)と言う意味があり、心が乱れることらしい。


 そして、そんな【戀】、万葉集ではまた違った形でも詠われている。

 例えば、『葦垣の 外にも君が 寄り立たし 【弧悲】けれこそば 夢に見えけれ』

 恋は【弧悲】とも詠まれた。すなわち【恋】とは【弧悲】で、独り悲しく思うということらしい。


 しかし、最近の世間ではこんなことが囁かれている。

 「愛」は、漢字の真ん中に「心」があるから、それは「真心」。

 だが【恋】は、下に「心」があるから……。

 はい、それは――『下心』で~す。

 うん、確かに、これに納得する紳士淑女、たくさんいるかもね。


 そんな下心一杯の【恋】、それは初恋から始まる。

 そして失恋したり、灼熱の恋をしたり、中には道ならぬ恋にまで頑張っちゃう人がいたりして、やがて【恋】は――【弧悲】になる。


 だが不思議なものだ。男も女も決して懲りないのだ。

 ならば風流に……都々逸でも。


 ♪~♪ 【戀】という字を分析すれば

     「糸」し「糸」しと 「言」う「心」 ♪~♪


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