第14章 節 百 愛 文 華 沌
14―1 【節】
【節】とは、竹の「ふし」のあるところのことらしい。
古くは竹の【節】に印が刻まれたものを「符節」(ふせつ)と言い、これを使者の印としたようだ。
したがって、そこから派生した言葉はすべては使者絡み。「礼節」に「節制」、それに「節約」だとか。
ああ、なんとなくわかるような気もする。
だが、【節】、やっぱり馴染みは春夏秋冬の『季節』だろう。
四季(春夏秋冬)には、節分を起点にする「
例えば、春――立春・
そして、それぞれを初候/次候/末候の三分割に。こうして一年全体を七十二分割に。
これがいわゆると「
例えば「立春」、その時季を五日ずつの三分割に。
初候は――「東風解凍」(とうふうこおりをとく)
次候は――「黄鶯睍睆」(おうこうけんかんす)
末候は――「魚上氷」(うおこおりにのぼる)
こんな「二十四節気」と「七十二候」、日本気象協会は昨今の実態に合ってないとし、「新しい季節のことば」のために委員会を発足させた。そして、現代『二十四節気』を作ろうとしているとか。
まさか……「花粉」に「節電」、さらに「黄砂」に「落魚」なんて、ヤメテケレ!
さてさて、どんな二十四の【節】になるだろうかな?
14―2 【百】
【百】、下部の「白」は白骨化した
その上に「一」が乗っている。それがなぜ「一〇〇」になるのかわからない。
だが(ひゃく)という読み、それは「白」(はく)からきてるそうな。
そんな【百】、「年」が付いて『百年』。
「百年の恋も一時に冷める」
「悪妻は百年の不作」
あまり良い意味では使われていない。だが、江戸時代末期の幕臣、勝海舟は好んだようだ。
「大人物は百年に一度しかあらわれない」と言い放った。
確かにそうだが、これって、自己評価……ってこと?
また1860年、
「百年の後に知己を待つのだ」と。
この意味は、百年後に答が出るのだということ。
ならば百年後の1960年、その結果はどうなったか?
TVのカラー放送が始まり、森山加世子さんは「ティンタレラ・ディ・ルナ♪」と……、まことにアメリカ風平和一色となった。
ことほど左様に、かっての日本人は『百年』がお好きだったようだ。
1901年の正月。百年後の予言が報知新聞に載った
西暦2000年には……
無線電信及電話
遠距離の写真
暑寒知らず
鉄道の速力
自動車の世 等々
いろいろ予言されたが、ほとんどアッタリー!
だが、中に外れたものも。
「蚊および蚤の滅亡」
蚊なんて、今もおりますがな、ブーンブンと。
「人と獣との會話自在」
ワンちゃんが寒い寒いとワンワン吠えてるのに、腹巻きさせて、小雪舞う中、引きずるようにお散歩に。
これって、会話なんてできてないよな、ウ~、ワン。
いやはや、【百】という漢字、とにかく話題に事欠かない漢字なのだ。
14―3 【愛】
【愛】、立ち去ろうとする人が、後方に心がひかれる人の形だとか。
うーん、それでなのか、字体がなんとなく複雑。
そして、今の時代、恋愛/愛人/家族愛、それに自己愛……とかとか、漢字【愛】の百花繚乱だ。
あっちでもこっちでも――【愛】、【愛】、【愛】
そんな【愛】という漢字、いつ頃からあったのだろうか?
それはなんと、2,500年前の紀元前500年の孔子の言葉にある。
子曰わく、
我は其の礼を【
これを簡潔に訳せば、「お前は羊を惜しむだろうが、私は伝統を愛し、重んじる」だとか。
そんな【愛】を、
風花雪月 情けに関せず
私語して 今宵別れて事無し
共に
これを意訳すれば、我々の愛に、風花雪月は関係ない。思いがけず出逢ってしまった私たち、この愛ある生を愛しみたい。
心からの話しをし、今宵は別れるが、大丈夫だよ。二人だけの秘密だよ、そしてそれを山河にも誓おう。
【愛】は深いようだが、えっ!
これって――『不倫愛』?
どうもそのようなことらしい。
NHKの大河ドラマ「天地人」、その直江兼続役は確か妻夫木君だったんだよね。
その兜の【愛】が、実は『不倫愛』だったとは……。
しかし、なるほど【愛】という漢字、「礼を愛しむ」の【愛】だったり、「相逢うて此の生を慰む」の不倫【愛】だったりして、とにかく、いつも波瀾万丈なのだ。
14―4 【文】
【文】という字、少し恐ろしい。
昔、死者の復活を願い、魔除けに胸に文身(入れ墨)を入れた。それが正面を向かって立つ姿だとか。
そんな【文】、熟語はなんと言っても『恋文』だろう。
古い日本語では『
京都に
怪しげなオジサンが恋文を道端で売るのだから、これはまことに奇妙奇天烈。
買えば良縁に恵まれるとか、商売繁盛に利くとか。なぜ商売繁盛なのか、これはもう変ちくりんの極みかも。
さてさて、時は平安時代。小野小町は女流歌人だった。
一説によれば、秋田県湯沢市小野生まれ。六花の秋田美人だ。
そして、現代でもよくある話しだが、昔々、一人の郡司がその地に単身赴任をしていた。
雪深く心寂しかったのか、村の娘と恋に落ちた。そして小町が生まれた。
やがて郡司の任期は明け、男は都へと戻って行った。それを母は悲しみ、男を追って、雪山越えで遭難。
その後、小町は残されたお守りを頼りに、都へとのぼる。そして更衣(こうい)として仕え――歌人デビュー。
そこで、やっぱり気になるのが、歌人・小野小町の力量のほど。
紀貫之は「古今和歌集仮名序」で、次のように小野小町を評している。
(原文)
小野小町は いにしへの
あはれなるやうにて 強からず
いはば よき女の 悩めるところあるに似たり
強からぬは 女の歌なればなるべし
(訳)
小野小町は古の衣通姫の流れ
しみじみとした趣があるようで、強くない
いわば、いい女の悩めるところに似ている
強くないのは、女の歌だからだ
「ほっほー、そうなんだ」と思いつつ、『花の色は 移りにけりな いたづらに 我が身世にふる ながめせし間に』の他にいろいろ詠ったようだ。
その一つが――『いとせめて 恋しき時は むばたまの 夜の衣を かへしてぞ着る』
恋しい時は、夢の中で逢えるように、夜の衣を裏返しに着て寝るのよ。
えっ、裏返しに? 臭くなったから?
当時、夜の衣を裏返すと、愛しき人が夢に現れると言われてたようだ。
それにしても、うーん、なるほどね。まさに紀貫之が言う「あはれなるやうにて 強からず」だ。
だが、そんな小野小町は、生涯一千通の熱い『恋文』をもらったとか。
そして、すべて燃やしてしまった。
炎に変えてしまったその現場、それは京都山科区の
紀貫之が評した通り、「よき女の悩めるところある」女への、「よき男たちが悩めるところ」の『恋文』が、そこで灰となった。
【文】という漢字、そこにはいつも男と女の情念が燃え盛っているのだ。
14―5 【華】
【華】、花びらが美しく咲き乱れている形だとか。
その【華】を、腰をかがめて抜き取る形が「拝」となり、その姿が拝む姿勢でもあり、「拝礼」となったそうな。
うーん、なるほどと感心するが、その時々の時代に【華】はあった。
万葉時代は
時代時代を色取った【華】たち、いずれもまことに儚いものだった。
そして、ここでは引き続き小野小町。
彼女の化粧井戸や文塚のある随心院。少し遅いが、3月中旬に230本の低木の梅が狭い地にぎゅっと圧縮されて満開となる。
その色合いは『朱華』。
これは(はねず)と読み、淡紅の万葉色。
この色の着物を灰で洗うと、色が抜けてしまう。移ろいやすい色だと言われている。
【華】、時代時代に【華】は咲くが、まさに有為転変の無常に思い至らせてくれる漢字なのだ。
14―6 【沌】
【沌】、右の「屯」は織物の縁の糸を結びとめた房飾りの形で、たむろする意だとか。それに「さんずい」が付き、水が流れず塞がっている状態を言う。
そして、熟語『混沌』を作り、それは天と地がまだ分かれていないあり様。物事がもやもやしてはっきりしないこと。
英語では、この事態を「カオス」(chaos)と言う。
手短に言えば、タバコの煙り。ふうと煙を噴き上げた。しかし、誰もそのもやもやとして紫煙の形を正確に予測できない。
これがいわゆる――カオス状態だ。
だが、こんなカオス、つまり『混沌』状態にあっても、原因があっての結果だ。それを科学的に体系付けたものがカオス理論。その中の一つが「バタフライ効果」というものだ。
ちょっとした原因が大きな結果を生むという理屈。
「北京で蝶が羽ばたくと、ニューヨークで嵐が起こる」
マサチューセッツ工科大学の学者が講演でこう主張した。
しかし、「なんで?」と問い合わせても答は返ってこない。
なぜなら、未だ「北京で蝶が羽ばたく」と、どうして「ニューヨークで嵐が起こる」かの、それらが結びついていないからだ。
だが、この理屈、いい加減だとポイと捨てられない。日本にはあったのだ、この「バタフライ効果」なるものが。
『風が吹けば、桶屋が儲かる』
風が吹くと、砂が舞い上がって、目に入る。そして、盲さんが増える。
昔、盲さんは
これで猫が減って、鼠がわんさかと増殖する。あっと言う間に、鼠は桶を囓り、各家にある桶がボロボロに。
桶を作ってちょうだいと、カミさんが桶屋に走る。
桶屋のダンナ、「ヨッシャー、マカセナサーイ」と……大儲かりとなる。
だから、『風が吹けば、桶屋が儲かる』
これぞ――『混沌』のバタフライ効果。
まことに【沌】が――桶(OK)となる。
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