第39章 華 命 午 静 兆 能

39―1 【華】


 【華】、まさに花が美しく咲き乱れている形だそうな。

 確かに【華】、その通り見場が華やかだ。


 そんな【華】、栄華栄耀、豪華絢爛などいろいろな四字熟語を作る。

 その中でも、拈華微笑(ねんげみしょう)、

 釈迦が華を指で摘まんだ。すると多くの弟子の中で迦葉だけが意味を理解したと納得し、微笑んだ。

 それに応えて、釈迦は迦葉に仏法の奥義を授けた。


 こんなやりとりを言葉を換えて言えば、あうんの呼吸、いや、以心伝心ということだ。

 とは言え、釈迦が花を摘まんだ時、弟子の迦葉は何を理解したのだろうか?

 その何かが知りたい。

 ということで、いろいろ調べてみたが、答えが見つからない。


 だが、説はあった。

 釈迦が「これは、ありのままの華だよ」と言いたかったとか。

 それを迦葉は……「その通り、華ですね」と微笑んだとか。


 こんなん誰でもわかってまんがな。

 釈迦が摘まんだのは華だと。


 いずれにしても【華】という漢字、こんな単純な拈華微笑でも【華】となる。



39―2 【命】


 【命】、神のお告げを受ける人の形の「令」と、祝詞のりとの入った器の「口」とが組み合わさった漢字だとか。

 ここから神から与えられるものが【命】なのだ。


 ♪♪

  いのち短し 恋せよ少女おとめ

  あかき唇 せぬ間に

  熱き血潮の 冷えぬ間に

  明日の月日は ないものを


 これは「ゴンドラの唄」、大正4年、劇団 ・芸術座公演の『その前夜』における劇中歌。

 それを黒沢明は映画「生きる」のラストシーンで、余命幾ばくもない市役所の課長に、小雪舞う中、ブランコに乗りながら歌わせた。


 確かに思う──いのち短し 恋せよ少女おとめ──だと。


 さらに、ここにベートーヴェンの言葉がある。

   私にはどんな障害をも乗り越える決心がある。

   何人に対しても、臆することなく力比べができる。

   私は「運命」の首を絞めてみせる。「運命」には絶対伏しない。

   生きるということは、なんて美しいことなのだろう。


 運命、我々は神から与えられた【命】をコントロールできない。

 しかし、ベートーヴェンはこんな思いで……、交響曲第5番「運命」を作曲したのだろう。

 だから、いのち短し 恋せよ少女ってなものではなく、「運命」の首を絞めてみせると、ダダダダーンで始めたのかな?


 いずれにしても凡人にとっては……【命】あっての物種、

 【命】が付く漢字、「寿命」を大事にしたいものだ。



39―3 【午】


 【午】、杵(きね)を上下に動かす様の象形だとか。

 読みは(ゴ、うま)で、杵の動きのように、折り返しの意味がある。そこから十二支の7番目の「馬」となる。


 一方よく似た字の「牛」、これは「うし」を前から見た形。

 真ん中の一本が少し上へと突き出ただけで、「うま」と「うし」の違いがあるから驚きだ。


 【午】の方位は南、子(ね)は干支で「ねずみ」。その方位は北だ。

 これらを結んだ線が子午線、地球の北極と南極を通る大円となる。

 経線とも呼ばれ、日本の標準時は東経135度、明石市を通る。


 そんな【午】、さてさて午年生まれの人は……どんな人?

 一説によれば、いつも明るくほがらか、リーダーシップがあり、配偶者に恵まれるとか。

 そして連れ合いに合わせて、運は変わっていくらしい。


 されど、こんな解説ではちょっとピンと来ない。

 そこで午年生まれの有名人にお出まし願おう。

 田中角栄に小泉純一郎、石田純一と小泉今日子、浜口京子、そしてキム ヨナとなる。


 なるほど、なるほど、なんとなくこんなタイプだとイメージできるよね。

 それにしても皆さま、【午】。

 いつも杵を振り上げていそうな人たちばかりで、メッチャ強そう!



39―4 【静】


 【静】、「青」と「争」が組み合わさった漢字。

 「青」は青丹から作られた絵具、器物を聖化させる。また「争」は鋤を持つ形。

 鋤を青色の顔料で清めることにより虫の害を防ぎ、安らかな実りとなる。ここから「やすらか、しずか」の意味になったとか。


 こんな【静】、「一人静」(ひとりしずか)という花がある。

 イメージとしては……大変さびしそう。


 5月頃に、日本の各地の山地の日陰に高さ20センチほどの茎を直立させ、穂状に白い花を咲かせる。

 実に可憐だ。


 名前の由来は静御前から付いたそうな。

 確かに吉野の山で義経と別れた静御前、それ以降一人となった。

 そんなヒロインをイメージさせる花なのだ。


 では、この「一人静」を季語にして、俳句/和歌でもあるのかなと調べてみたが見つからない。

 これはひょっとすると、「一人静」を使えば、大穴俳句になるかもと一句詠んでみた。


 いずこにか 香りほのかに 一人静(ひとりしずか)


 めちゃくちゃ下手だけど、これぞ世界初の季語「一人静」の俳句だぞ。

 と、騒ぐのは【静】に失礼かな。



39―5 【兆】


 【兆】、亀の甲を灼いて占う時、左右にひび割れた形が表れる。その象形だそうな。

 占うから「きざし」となるとか。


 そして数字の世界では【兆】(ちょう)、最近馴染み深い。

 1,000,000,000,000と10の12乗、1億の1万倍だ。


 最近の米国、金融緩和の縮小を目論んでいるが、なかなか踏み切れない。

 縮小したとしても日本円で毎月8兆円、1年で100兆円分のドル紙幣を増やし続けている。

 1兆円は日本人の人口がざっくり1億人としたら、100兆円は1人当たり100万円の規模だ。

 これを続ければバブル、きっとバブルへの道を突き進んでいるのだろう。


 話題は飛ぶが、

 北斗七星のしっぽの先から2番目の星・ミザール、その傍にアルコルという変光星(明るさが変化する星)がある。

 別名「死兆星」と呼ばれている。伝説の不吉な星だ。


 昔、この星が見えるかどうか、兵士の視力検査に使われた。

 この死兆星、今ではゲームの中によく現れ、ゲーム好きにはお馴染みのようだ。


 こんな【兆】もあるが、やっぱり願いたいのは「吉兆」しかない。



39―6 【能】


 【能】、なんと水中に住む昆虫の象形だとか。

 それってタガメにゲンゴロウってことかな。果てはヤドカリに似ているとか。

 それがなぜ能力の【能】になったのだろうか?


 いろいろな説がある。だが、いずれももう一つよくわからない。

 とにかくゲンゴロウに似た字が「能ある鷹は爪を隠す」の【能】なのだ。


 そんな【能】、なんでもOKが「万能」。そして万能細胞がある。

 ヒトは受精卵以外に万能細胞は存在しない。

 しかし、京都大学の山中教授は皮膚細胞に遺伝子を入れ、人工的に万能細胞を作った。

 そして『 iPod 』のように普及して欲しいと願い、『 i 』を先頭に付けて、『 iPS細胞 』と名付けた。


 その後、2014年1月、神戸の理化学研究所の小保方晴子氏は『STAP細胞』、つまり「刺激惹起性多能性獲得」を持つ細胞を発表した。


 細胞分裂は「不可逆」、この常識を最初に覆したのが『 iPS細胞 』。

 小保方氏はさらに世の中の常識をひっくり返す。


 細胞を細い管に通すと,細胞が初期化する、つまり元ある状態に原点回帰すると仮説した。

 小保方氏は実験を繰り返し、最終的に、弱酸性溶液に25分浸し、細胞を瀕死の状態にするのが最も初期化し易いと発見した。


 まさに世紀の大発見となるところだった。

 しかし、後日、『STAP細胞』の存在は証明出来なかった。


 だが、ここからは鮎風の推論、いや証明。

 弱酸性のゆず風呂に1回25分浸かり、それをのぼせ上がるまで繰り返し、瀕死の状態までに。

 すると、お肌つやつやに……なりますがな。

 これってメタボの細胞は初期化され、若返ってる、ってことかな?


 ということで、【能】という漢字、たとえ水中に住む昆虫の象形であっても、気にしないことにしましょう。


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