間話5「ヴィッターヴァイツの余興」
「この世界も飽きてきたな」
ユウが重傷の治療で動けない間のことである。
もはや彼のための部屋と化していた応接間にて、ヴィッターヴァイツは一人ボードゲームに興じていた。
チェスによく似たゲームである。
駒はキング、クイーン、ポーンに相当するものに加えて、ウィザードやソードマン、ドラゴンを模したものもあった。
彼は横一列にポーンを並べていく。それからウィザードとソードマンを先頭に立たせて、ほくそ笑んだ。
「そろそろ始めるとするか」
「ま、まさか……!」
ヴィッターヴァイツの前に控えていた首相が狼狽える。
だが彼の内側では、強い怒りも込み上げていた。
彼にはヴィッターヴァイツが一体何を始める気なのか、もうわかっていたからだ。
これから始まるのは、とても恐ろしいことだ。
苦い形相で彼を睨み付ける首相を横目に、ヴィッターヴァイツはなおも嗤って駒を並べ立てていく。
次第に整った陣形が出来上がってきていた。
「なあに。ちょっとした余興だ。楽しもうじゃないか」
「きさま……っ! 人民の命を何だと思っているんだっ!」
首相はたまらず、悲痛な叫びを上げた。
この男にとっては確かにただの余興なのかもしれないが、それをされる側としては、断じて許せることではない。
だが、ヴィッターヴァイツは無視して続けた。
「あの小僧が生きているなら、出て来るだろう。出て来ないのなら、まあそれはそれだ」
「やめるんだ! 考え直してくれ!」
「……貴様は、いつもうるさい奴だったな」
これまで何を言っても、利用価値のあるうちは生かされてきた。
『だった』と。奴は今そう言ったのか。
明らかに空気が変わったのを、首相は肌で感じ取っていた。
しかしもう遅かった。
ヴィッターヴァイツは、ちょうど持っていたキングの駒にほんの少し力を込める。
すると首から上が、粉々に砕けてしまった。
同時に、首相の顔がみるみるうちにぶくぶくと醜く膨れ上がり――。
そして、はじけ飛んだ。
「つまらん。人間というのは脆過ぎる」
物言わぬ首なし人形となった彼、噴水のように血を噴き出す首相を見下ろして。
ヴィッターヴァイツはその肉塊に獰猛な嗤い声をぶつけた。
「部屋が汚れてしまったぞ。おい」
パチンと指を鳴らすと、死体と血の汚れは綺麗さっぱりこの世から消えてなくなってしまった。
彼のことなどもう忘れたように、無表情に戻る。
ユウに見立てたソードマンの駒を、ボードの中央に立てた。
「まさかあれでくたばったわけではないだろう。貴様の力。じっくり見せてもらおうか」
たった一人のソードマン。味方はいない。
周りはすべて敵の駒に囲まれていた。
「なあ」
これから始まるショーに想いを馳せ、彼らに愉悦の顔を向ける。
首相が生きていた場所の横でずっと、物言わず付き従っている者たちがいた。
親衛魔法隊長エグリフ、親衛剣士隊長バッサニア。
そして――。
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