27「サークリス燃ゆる」
自分を包むように球状に展開した魔力の壁が、龍のブレスを阻む。
視界の一切がエメラルドに染まっていた。
強引に防御を固めつつ、《セインブラスター》の出力をさらに引き上げていく。
一気に押し込む。均衡が崩れた。形勢はこちらにある。
だがこのままでは、一万人をすべて消し飛ばしてしまう。
直撃を避けるため、上方へと持ち上げて軌道を反らす。
極大の光線は相手の攻撃を巻き込んで、空の彼方へと吹き飛ばした。
「はあ……はあ……」
大気を突き破る轟音の後に、静寂が戻る。
兵たちは……とりあえず形は残っているか。
ほっとする余裕もない。腕が痺れる。鉛のように重い。
何とかなったが。今ので、魔力の大半を持っていかれた。
次はもう耐えられないだろう。自分でこれだけの真似ができたのに驚いているくらいだ。
それを見抜いているのか。奴は間髪入れず、同じ攻撃をもう一度繰り返させようとしていた。
龍がブレスを溜める。軍隊はさらに限界を超えて、エネルギーを絞り出されていく。容赦ない拷問に、兵たちの身体がいかれていく。
二度はさせるかよ。
加速の時空魔法をかけた俺は、気剣を抜いて跳躍する。目にも留まらぬ速さで、空を舞う龍へ飛び掛かる。
悪いな。
一頭。二頭。三頭。
研ぎ澄まされた気剣の一撃でもって、龍の首を片っ端から斬り落としていった。他に手段がなかった。
制御を失った龍は鮮血を噴き出して、力なく墜落していく。
最初に斬った龍が地面に着くよりも早く、俺はすべての龍の首を落としていた。
すかさず、《気断衝波》でもって軍隊に牽制をかける。最初の一撃よりも強めに撃った。
弱っているところにこれでは死人が出るが、仕方がない。
手加減を加えて活動できる状態のままにすれば、本当に死ぬまで奴にこき使われるだけだ。そのくらいならば。
不可視の衝撃が発生する。満身創痍の兵たちが次々と巻き上げられて、吹っ飛んでいった。
着地。今度こそ、立ち上がって来る奴はほとんどいなかった。
『はっはっは! 頑張るじゃないか! 今ので何人死んだ?』
『うるさい。黙れ』
悪態を吐きながら、乱れた息を懸命に整える。
これで終わりとは思えない。次は何が来る。
そのとき、背後で嫌な空気の流れを感じた。
振り返ると――。
サークリスの町から、火の手が上がっていた。
「なっ……」
『おやおや。気の毒に。貴様が必死こいて守っていたというのにな。自ら進んで壊したいのだとよ』
あまりに白々しい言葉だった。
ちくしょう。
こいつは、その気になればいつでもそうできたんだ。俺たちの運命をずっと弄んでいた。
激しい黒煙が立ち登っているのが、やや離れたこの位置からでもよく見えた。
あれほど平和で美しかった町が、燃え上がっている。俺たちの戦いのせいで。
アリスたちは無事なのか。
胸が締め付けられそうになる。いつから俺はこんなに心配性になったのか。
あちこちで人の動きが荒ぶっている。
操られているのは、どうやらすべての市民ではない。千を超える強者たちが、弱者を刈り取っているのだ。
命が消えていく。
よりによって、町を守るために集結していた剣士隊と魔法隊を。操ったな。
落ち着け。奴のペースに乗るな。付け上がらせるだけだ。
わかっているのに、俺は感情を抑えることができなかった。
『いい加減にしろよ。こんなことをして楽しいか!』
『はっはっは! 楽しいとも! 愉快だねえ!』
一拍おいて、含みのある嘲り声が脳を突き刺す。
『お前のような小僧がもがき苦しむ様を見るのは』
パチンと指の鳴る音がした。
四方を囲む位置に、一人ずつ何者かが現れる。
俺は目を見開いた。全身が固まる。
目を背けたかった。信じたくなかった。
可能性としては考えていた。もしやと考えてはいたが、信じたくなかった。
『この国で最強の戦士たちを紹介しよう。オレの特別製だ』
「ヴィッターヴァイツ!」
念話も忘れていた。頭の血が沸騰しそうだった。
『エグリフ。バッサニア。あとは――紹介するまでもないかな』
やり切れない怒りと悔しさが全身を支配する。
もっと早く動けていれば。もっと早く警告できていれば。
だから。だからいなかったのか。
『そうだ。その顔が見たかった』
悪趣味な奴だ。こんなときだけ、わざと意識を残している。
俺の前に立ちはだかる「敵」。双眸が捉える姿は、見間違えようもない。
苦悶の表情で気剣を構えるイネアと、魔法を構えるアーガスだった。
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