間話3「マスター・メギルへの報告」
サークリスの地下深く。
極秘施設の一室にて、マスター・メギルたちが話し合いを開いていた。
「ご苦労だった。我々は例の場所から、エデルの遺産を無事奪取することに成功した。これで計画の達成にまた一歩近づいたというわけだ」
「おめでとうございます。マスター」
そう言ったのは、例の仮面の女である。
「ところで、コロシアムの方はどうなったのだ。クラム」
英雄クラム・セレンバーグは腕を組み、部屋の壁にもたれかかって立っている。
「ヴェスターの奴め。考えなしに暴れてくれた。おかげでとんだ大事になってしまったぞ」
「はあ……これだから単細胞は困るわ」
仮面の女は呆れ果てていた。
今後警備が厳しくなり、動きにくくなることが想像される。
「残念だよ。それで、彼は始末できたのかね」
「それが……殺したのは、ユウなのだ。部下も含めて全員な」
「なんですって!? 森に縛り付けておいたのではないの?」
想定外の報告に、仮面の女は狼狽えていた。
「どういうわけか、私がサークリスに戻ったときにはもうすべてが終わっていたのだ……」
転移魔法も妨害装置によって使えなくしてあった。
ライノスに加え、炎龍までけしかけた。万全の妨害だ。
どうやってもあんな短時間で戻れたはずはない。にも関わらず。
クラムは得体の知れぬ事態に冷や汗をかいていた。
しかし悪い材料ばかりではないと、自分を落ち着かせる。
「だが、最悪の事態でもない」
「どういうことかしら?」
「コロシアム襲撃が、我々仮面の集団が起こした事件であるとは露呈しなかった。ヴェスターが軽口を叩く前に死んでしまったからな。真相は闇の中というわけだ」
仮面の女はそれを聞いて、一安心する。
「よかったわ。あの馬鹿、いつやらかすかわかったものじゃなかったし」
「ふむ。ならば大きな問題はないだろう。やはり始末して正解だったようだね。して、この件にはどう処理を付ける」
「もちろん単なるテロリストとして公表されるように手配しよう」
彼の言葉を聞いたマスター・メギルは、満足気に頷いた。
「それは助かる。ぜひ頼むよ」
「ああ」
これで一つ懸念は解決したわけだが。
マスター・メギルは、頭が痛そうに嘆息する。
「それにしても、ユウ・ホシミというのは恐ろしい存在だな。経歴は一切不明。忽然と現われて、アーガスをも上回る才能を見せつけ、想定外の事態をも引き起こしてくれた」
「だから申し上げたではないですか。あいつだけは放っておくべきだったのです」
「私も同感だ。炎龍さえ退け、ヴェスター共々部下を皆殺しにしてしまうほどの者ならば。多大な犠牲を覚悟でやらねば、潰すことはできんぞ。それほどの代償を払ってまでやることとは思えん」
仮面の女とクラムの進言に対し、マスターは少し思案してから、首を縦に振った。
「そうだな。放っておくことにしよう。我々はまだ、尻尾を掴まれたわけでもないのだからな」
三人は頷き合った。
「ともかくご苦労だった。この調子で行けばあと一年以内、早ければ半年ほどで準備は整うだろう。随分と時間がかかったが、ようやくだ」
彼は仮面の奥で、静かに嗤った。
「エデルの復活は――」
ドオオォォォォォォン!
その瞬間。
厳重に締められていた部屋のドアが、派手に吹き飛んだ。
マスター・メギルも、仮面の女も、クラム・セレンバーグも。
突然のことに激しく動揺し、衝撃音の炸裂した方向へ一斉に目を向けた。
「よう」
三人は、戦慄する。
破砕したドアの向こうには――。
闇で塗り潰したような漆黒の瞳で三人を睨み付ける、ユウが立っていた。
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