フェバル~チート能力者ユウの異世界放浪記~

レスト

プロローグ

「プロローグ」

 俺には両親がいない。幼いときに二人とも死んだ。

 一応親戚が引き取ってはくれたが、彼らは俺のことを鬱陶しく思っていたようで、何かと辛く当たられた。

 だが、その親戚も俺が八歳のときに死んだ。

 あまりはっきりとは覚えていないが、俺が殺してしまったらしい。現場はこの世のものとは思えないほどひどい有り様だったそうだ。

 特別な養育施設という名目の隔離施設に預けられた俺は、周りから化け物でも見るような視線を向けられながら育った。

 あそこには俺を人間扱いしてくれる奴なんて誰一人としていなかった。

 わかるんだ。俺にはうっすらとだけど他人の心が読めてしまうから。物心付いたときから、そんな不思議な能力がある。

 どこで歯車が狂ってしまったのだろう。家族がいた頃は、幸せだった。

 誰でもいい。愛が欲しかった。

 誰かにとって、ほんの少しだけでもいい。大切な人になりたかった。

 生きる価値があるんだと、教えて欲しかった。

 生きていてもいいんだと、認めて欲しかった。

 その願いが叶うことは決してなかった。俺は独りだった。


 ある日ついに耐えかねて、十一歳の俺は施設から飛び出した。

 いっそのこと、死んでやろうと思ったんだ。

 でも結局死ねなかった。

 崖から飛び降りて奇跡的にかすり傷で済んでしまったとき、俺は泣いた。

 死ぬつもりだったのに、いざそうしてみればたまらなく怖かった。

 生き延びてしまったことに、あろうことか心底ほっとしてしまったのだ。

 それがどうしようもなく情けなくて、でも生まれて初めて生きていて良かったと思った瞬間だった。


 死ぬのはやめにした。けれど、もうあんな施設に戻る気もなかった。

 そのときから、泣き虫だった俺は涙を捨てた。一人だけでも強く生きていくことを決めた。

 無力な子供に過ぎなかった俺は、最初のうちは毎日が生きるだけで必死だった。当然家もなく、公園や橋の下や路地裏で眠る日々がしばらく続いた。

 自分で言うのもなんだが、女と見間違われることもあったほどの可愛らしい容姿は武器になった。

 募金に立ち、同情でもらった金を自分のためだけに使ったこともある。

 時には盗みもしたし、怪しい密売に手を貸したこともあった。

 暴力沙汰はなるべく避けて来たし、殺しだけは辛うじてしなかったが、それ以外のことなら何でもやったと思う。

 警察による捜査は続いたが、そのうち世間ではすっかり死んだ扱いになっていた。

 幸いにというか、俺には特殊機関の凄腕エージェントだったという母さん譲りの優れた素質があったらしい。

 元々小さいときからやたら物覚えが良く、一度見聞きしたものならどんなことでも確実に頭に入ったし、身体が覚えていた。

 母さんの気まぐれで小さいときに体験させられた、様々なことが役に立った。

 サバイバルの知恵や格闘術とか各種武器の取り扱いとか。色んなことのレクチャーを軽くでも受けていたことが、極限生活の中でメキメキと開花し始めたのだった。


 そのうち俺は、自分の力で立派に金を稼ぐ手段を得ていた。

 裏社会の小さな一員として、情報収集等の仕事を主にこなすようになっていた。

 子供だから。みんな自分のことを本気で警戒しない。そこに上手く価値を見出したのだ。

 正確には見出されて目を付けられてしまい、他にしようがなかったわけだけど。

 得る金は増えたが、それだけ闇も抱えることになった。

 頻度はそこまで多くないが、とうとう殺しにも関わるようになってしまった。

 銃を向けられて、撃たねば殺されるという場面で仕方なく殺めてしまったこともある。

 初めて自分の意志で人を殺したときは、さすがにきつかった。 


 普通の暮らしにはもう戻れないが、裏社会で懸命に身を立てていこうとしていた。

 そんな頃だった。二人に出会ったのは。

 女の方をヒカリ、男の方はミライと言った。小さいときからずっと二人でやってきたのだと言う。

 二人とも表には出られない身らしく、詳しい素性は知らない。あえて聞くこともしなかった。

 歳が同じだったということは知っている。

 不思議と縁のようなものを感じて、すぐに打ち解けることができた。

 それから、三人でたくさん仕事をこなした。どんなに辛い仕事でも力を合わせて乗り越えていった。

 ミライとは下らないことから真面目なことまでよく衝突したが、それだけ心置きなく本音をぶつけ合えるような関係だった。

 そんなときヒカリは、一歩引いたところで俺とミライの様子を眺め、上手く仲を取り持ってくれた。

 仕事だけでなく、何をするにも三人一緒だった。

 時々ヒカリとミライの間に割り込めない強い絆を感じてしまうことはあったが、そんなのは些細なことだった。

 誰かに認められ。居場所を与えられ。大切に想われて。

 初めて親友と呼べる人たちができたことが、どれほど嬉しかったことか。

 もう家族はいないけれど。ヒカリとミライさえ側にいてくれれば、どこまでもやっていける。

 そう思っていた。


 二人とも死んだ。そしてまた独りになった。

  

 もうこんな世界なんて、どうでもいい。誰もいない世界なんて。

 どこまで行っても、結局は独りになってしまうのだから。


 今さら死んでやる気ももうなくて。ただ命の続く限り毎日を生きている。

 それだけの人間だった。

 けれどそうだった日々は、今は遠いことのように思える。



 ***



 事の発端から始めよう。

 最近、よく変な夢を見ていた。

 夢の中で、俺は真っ暗な空間に立っている。

 周りには何もない永遠の闇。独りぼっちの俺にはお似合いに思えた。

 果てしない宇宙空間を思わせるそこには、一見何もないのだが、得体の知れない力が満ちている。

 もしかすると、この世のどんなものよりも凄まじい力が。

 まるで中二病のような考えだが、夢の中の俺はいつもそんなことを感じていた。

 手を伸ばすと、闇の彼方より淡白い光が飛んでくる。

 それに触れたとき、全身に燃えるような熱さを感じて――。


 そこで目が覚める。


 ここの所、そんな夢ばかりだった。

 少し不思議には思ったが、所詮夢は夢だと考えてあまり気にはしていなかった。


 だけど、違ったんだ。



 ***



 確か今日は、十六歳の誕生日だっただろうか。今日までよく生きてこられたなと思う。

 その夜。仕事からの帰り道の途中で、異様な人物が電柱にもたれて立っているのを見かけた。

 金髪の女性だった。

 一体何のコスプレかと思ってしまうような、現代日本にあるまじき変わった服を彼女は纏っていた。

 そして右手には、何やら装飾された黒い杖のようなものを持っている。まるで中世の魔女みたいな恰好だ。

 深夜のこの辺りは人通りがまったくない。

 見るからに怪しい雰囲気の彼女は、誰かを待っているにしても不気味だった。

 もし絡まれたら面倒そうだと思ったので、できるだけ何気無い振りをして、さっと彼女の横を通り抜けようとした。

 だがそのとき、


星海ほしみ ユウね」

「……どうして、俺の名前を知っている?」


 警戒を強める。

 知らない奴に因縁付けられることは、この仕事をやっていればたまにあることだった。

 彼女は妖しげに頬を緩め、クスリと小さく笑った。


「その反応。当たりね。やっと見つけた」


 見つけた? どこの差し金だ。


《バルシエル》


 考える暇もなく、彼女は動いた。

 何か意味不明な言葉を唱えつつ、勢い良く杖を振るってきた。

 当然、何も起こらない。起こるわけがない。

 こいつは何がしたいのか。急にわからなくなってきた。


「この星の自然現象である、風に関わる魔法ならギリギリ使えるかと思ったけど。どうやらここは異常に許容性が低いらしいわね……」


 小声で何かぶつぶつ言っているようだが、さっぱり意味がわからない。

 何なんだ。いったい。この女は。

 さっさと逃げるべきか。話を聞いてみるべきか。

 ふざけているなら、少し懲らしめてやるのもありだろうか。


「仕方ないわ。時間もないし」


 結論が固まらないうちに、彼女は次の行動に出た。

 彼女は手に持っていた杖を弄り始めた。すると間もなく、何かが突き出してくる。

 刃物だ。杖の先が、鋭い刃物のように尖っている。

 仕込み杖か。

 彼女は凶器と化した杖を、いきなり俺の胸元に向けて突き刺してきた。

 動きをよく観察していた俺は、咄嗟に身を捻った。

 当たれば間違いなく致命傷となるであろう彼女の一撃は、脇のすぐ横を掠めていく。

 同時に、これ以上好き勝手されないよう反撃に出ることにした。

 杖を突き出して伸び切った彼女の腕を取り、投げの要領で地面に叩き付けてやる。

 母さんの得意だった技の一つだ。

 うっ、と彼女が苦し気な呻き声を漏らした。

 逃げ出さないようすかさずしっかりと組み伏せてから、冷静に告げた。


「いきなり物騒なことするなよ。コスプレの刺客なんて馬鹿みたいだぞ」


 金髪の女性は、圧倒的に不利な自分の立場もわきまえず、たまらないといった調子で声を張り上げた。

 こんな夜だというのに、近所迷惑なくらいに。


「あのねえ! そもそもコスプレじゃないから! みんなして、もう! 何なのよこの星は! あんまりよぉっ!」


 そして俺のことなど憚らず、泣き喚き始めたのだった。よく見るとそんなに本気では泣いていないようだが。

 事情はわからないけど、よほどコスプレで傷付いたことがあったらしい。

 困ってしまった俺は、あくまで警戒は解かず、かける体重は緩めないが、しばらくそのまま放っておくことにした。

 やがて彼女が落ち着いたところで、気持ち優しめに声をかける。


「気は済んだか」

「ええ」


 幾分すっきりした様子の彼女は、妙に素直だった。

 こほんと咳払いして、彼女は言ってきた。


「おかしいわよ。あなたに私の攻撃をかわせるはずはないのに。まさか、身体能力も落ちるというの? この星は」


 一人ではっとした顔をしている。

 相変わらず、彼女が言っていることの意味がわからないが。

 とにかくわかったことは、一つだけあった。


「どうも誰かの差し金ってわけでもないのか」

「だから何の話よ? 私はただ個人としてあなたを殺しに来ただけで」

「なおのことたちが悪いじゃないか」


 しっかり極めていた腕に、本来曲がる向きとは逆に力を込めてやると。

 彼女はギブアップとばかり足をバタバタさせた。


「いたたた! いたい! やめっ、やめてください!」

「俺のこと殺さないって言うならね」


 すっかり涙目の彼女は、あくまで本音では強気の姿勢だった。


「そういうわけには――」


 さらに腕に力を込める。


「もう少しで折れるけど、いいのか」

「わかった! まずは事情を話します! 話しますから!」


 その返答に満足した俺は、静かに腕の力を緩めてあげた。

 そして問いかける。


「なんで俺を?」


 問いを向けられた彼女は、なぜかひどくもの悲しげな顔をした。

 顔を地面に潰したまま。


「ユウ。あなた、最近自分のことでおかしなこと、あるいは不思議なことはなかった?」

「それは……」


 むしろおかしなことしかない気がするな。先日も某所で変死体が見つかって調査に向かったばかりだし。

 彼女は沈黙を肯定とみなしたようだった。


「どうやら心当たりがあるようね。それは、兆候よ」

「どういうことだ?」

「あなたは、間もなく特異な能力に目覚めるわ」

「は?」


 急に何を言ってるんだ。わけがわからない。


「そのとき、あなたもまた星々を渡り歩く者になるのよ。私がそうであるようにね……」


 彼女はまるで、すべてに絶望してただ笑うしかない者が浮かべるような、そんなひどく暗い笑みを浮かべた。

 能力だとか、星々を渡り歩くだとか。一体何を言ってるんだよ。こいつは……。

 やっぱり頭がおかしい奴なんじゃないのか。関わり合いにならない方が良さそうだ。

 合理的に考えて、俺はそう結論付けた。

 すると彼女は、首を苦しそうに持ち上げてどうにか振り向き、あまりの与太話に唖然としていた俺を見つめてきた。

 緑色の瞳が、哀しげな光を湛えている。

 どうしてそんなに悲しそうなのだろうか。

 彼女は、囁きかけるように言ってきた。


「つまりね、ユウ。あなたはもう、この星には居られないのよ?」

「妄想なら頭の中だけにしておこうよ」

「……あなたは流されるまま星から星へと、この宇宙を永遠に彷徨うことになるの。そう、永遠にね……」


 何とかそう言い切った彼女は、心底嫌な顔をしていた。まるで自分の言葉を噛み締めるように。

 ただその中に、こちらへの失望も含まれているような気もする。

 でもこちらとしても、お前を信用できる要素が何一つないわけで。

 心をうっすら読み取る限り、どうも嘘を言ってるようではないのが気になるけど。

 とりあえず結論としてはこうなるよな。


「何が宇宙を彷徨うだ。ふざけた冗談を言うな」

「くっ……! だから嫌なのよ。正直に言っても馬鹿と良い子以外誰も信じてくれないんですもの……」


 今度は静かにしくしくと泣き始めた。感情の忙しい奴だな。

 何だか可哀想になってきたので、これ以上言葉で責めるのはやめてあげようかと思った。


「もう時間がないの。今のあなたには、まだわからないでしょう。けれど、今ここで死ななければ、あなたはきっと生きてしまったことを後悔する。それだけは確かよ」


 そして彼女は、懇願するようにこう言ったのだった。


「今ならまだ間に合うわ。だから、お願い。手遅れになる前に、私にあなたの命を終わらせて」


 俺は、即答した。


「断る」

「は……?」

「もっと早く来てくれれば、喜んで命を差し出したかもしれないのにね。残念ながら、今の俺に死ぬ気はないよ」


 自嘲気味に笑う。

 そんな俺を見て、目が点になっている彼女を見下ろしつつ、続ける。


「それに。仮に話が本当だったとして。面白いじゃないか。好きなだけ旅ができるんだろう?」


 今までのことを思い返す。

 本当にろくなことがない、くそったれの人生を。


「俺は……こんな世界に、もう未練はないんだよ。新しい世界があるなら、まだ……」


 すると彼女は突然、これ以上ないほどに取り乱した。

 歯をむき出しにして、まくし立ててくる。


「あなたねえ! 恐ろしさをわかってないのよ! 私たちフェバルはねえ! 知らない異世界をたらい回しにされ続けて……! 本当に心がダメになるまで、ずっと死ねないのよ! ほとんど永久によ! たとえ自殺しても、また次の世界で生き返るの! 延々とね! 精神を狂わせても勝手に治されるし! もう嫌だと思っても、決して生きるのをやめられない! この絶望がわかる!? これがどれほど辛いことか――」

「本気で死ぬより辛いとして、それはそれで構わないさ」


 ぴしゃりと告げると。

 彼女は、信じられないという顔で黙り込んでしまった。

 絶望への終わらない旅だって?

 もし本当だとして、だから何だと言うんだ。

 絶望なら、とっくにしている。

 どうでもいいんだ。遠い未来の心配なんて。今を生きる虚しさに比べれば。

 今が少しでも変わるかもしれないのなら、俺は何だって掴むさ。

 それに……お似合いじゃないか。独りきりの旅なんて。


「だったら教えてあげるわ。あなたにどんな恐ろしい力が眠っているのかを……!」


 彼女は目を瞑った。

 何やら集中して念じ、それからぶつぶつ独り言を唱え出す。


「【神の器】――あらゆる世界情報を独自の『心の世界』に完全記憶し、そのすべてを利用できる……!? なんですって!?」


『心の世界』と完全記憶――今、そう言ったな。こいつ。

 なるほど。昔から色々と不思議な力があるような気はしていたが。

 こいつの話が本当なら、そういうことだったのか。

 あの夢に出てきた真っ暗な世界は、『心の世界』というやつで。

 何となく他人の心が読めるのは、俺が心に関する能力を持っているから。

 物覚えが妙に良かったのは、すべての出来事を完全に記憶していて、それをそのまま使えるから。

 そんな力の一端を、昔から無自覚に使っていたと。

 人を殺したときにも。

 すべての経験が身に付く。自覚してみれば、これほど恐ろしい力も中々ないな。

 確かによくできた話だ。本当なら。

 今の話で、少しくらいは騙されても良い気になってきた。


「それから――」


 彼女は言葉を失った。顔が、みるみるうちに青ざめていく。

 瞬間、彼女を組み敷いていたはずの俺は、いきなりわけもわからない力に弾き飛ばされていた。

 痛烈に塀へ叩き付けられたらしい。

 頭にガツンと衝撃を食らった次の瞬間には、アスファルトが迫ってきていた。

 辛うじて前転受け身を取り、くらくらする頭を押さえながら、しっかりと前を見据える。

 既に立ち上がった彼女が、キッと力強くこちらを睨んでいた。

 まるで化け物を見るようなおぞましい目で。


「あなたは――危険よ」


 やめろ。お前もか。

 そんな目を俺に向けるな。どうして。


「【星占い】よ。この者を最も早く完全に滅ぼす方法を――!」


 銃声が、響き渡る。


 心臓を綺麗に撃ち抜かれた彼女は、力なく地面に倒れ込んだ。


 ――ああ。そうだ。俺が撃った。


「悪いけど、そう簡単に殺されてやる気はないんだ」


 こうしなければ、得体の知れない力によって殺されていたのは、おそらく俺の方だっただろう。

 そこまで本気で命を狙われたら、こうする以外どうしようもないじゃないか。

 倒れている彼女に、ハンドガンを油断なく向けたまま近寄っていく。

 ちょうど見下ろす形になったとき、息も絶え絶えの彼女は絶望的な調子で呻いた。


「そ、んな……」


 頭に銃口を向けて。俺は言った。

 自分でも声が冷たくなっているのがわかった。


「これ以上苦しませたくない。最後に名前を教えてくれないか」

「エーナ、よ……」

「さようなら。エーナ」


 トドメの銃弾を撃ち込んでやると。

 彼女の身体がぴくりと跳ねて――そして動かなくなった。


 ……どうして、いつもこうなるんだろうな。


 すると、不思議なことが起こった。

 彼女の死体が、霞むように消えていく。

 ややあって、後にはもう何も残らなかった。

 まるで幻のように。最初からそこには誰もいなかったように。


 気が付けば、俺の身体も徐々に薄れ始めていた。何かが起ころうとしている。

 まさか。彼女のあの話は、全部本当だったのか?


 身体の感覚がなくなって、意識だけが宇宙空間に放り出される。

 目の前に映ったものがあった。

 紛れもなく、俺たちが暮らす星。生命溢れる美しいブルーアースだった。

 その悠然たる姿を外部から眺めたとき。

 もうこの星には居られないのだということが、ようやく腑に落ちた。

 そうして、いざ別れを告げるという土壇場になって、改めて気付いた。


 俺はやっぱり、この星のことなんてどうでもよかったのだと。


 何の感慨も湧いて来なかった。

 たとえ俺がいなくなっても、変わらず世界は廻っていくのだろう。

 何事もなかったかのように。

 徐々に離れていく青い星から、俺は目を背けた。

 もう振り返らない。


 さようなら、地球。

 さようなら。俺の、生まれ育った星。

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