第46話 本気の手合わせ
「よお、ローザ」
「やあ、レイン」
「いい衣装じゃんか。よく似合ってるぜ」
「ありがとう。騎士団の制服に比べると機能性は劣るが、まあ、そこそこ気に入っている――レインはどうしてここに? このあと、予定では私の個人演武になっているんだが」
「悪いが予定変更だ。俺は、お前と戦いに来た」
「私と?」
「カナリエからの特別試験だ。ここでお前に勝てば、俺はその試験に合格できる――俺は、ようやく騎士になれる」
「……、騎士の夢は、諦めたんじゃなかったのか?」
「一度はな。でも、置いてかれたくない自分に気づいた。追いつきたい自分に気づけた。だから、俺はお前の隣に並ぶって決めた。この夢だけは、もう燃やさねえ」
「…………そうか」
目の前のレインから視線を切り、ローザはリング脇で控えるカナリエを見やる。
(うまく煽れたようだな)
弁当配達を頼んだのは、この場でレインと剣を交えなければいけなかったからだった。個人演武の予定も、最初からレインとの戦闘に変更するつもりだった。
それが、国王と交わした約束でもあった。
会場の北側――国王が観覧している特別指定席を一瞥した後、ローザはポニーテイルに結わいていた髪留めを一息で取り、いつものヘアスタイルに戻した。
「武器を!」
ローザが叫ぶと、リング外にいたスタッフが武器を二本、持ってきた。
実戦用の片手剣だ――各々手渡されたソレを握り、重さをたしかめるように何度か振る。
はじめて持つのだろう。レインはすこし、剣に振り回されているようだった。
「先に言っておく」
数回素振りをした後、ローザは冷淡に告げる。
「この戦い、私は本気でレインを倒すつもりでいく」
「……、……」
「会場に集まった皆が、新たな看板勇者の誕生に期待してくれている。手心を加えたら、皆のその期待を裏切ることになる。看板勇者に相応しい私の全力を、この場で披露しなければならないんだ――だから、レインも死に物狂いで来い。三年もクワを握ってきた農家なんだ、そのくらいの気概を持ってもらわなければ話にならない」
「煽りが辛辣ぅ……まあでも、そうだな」
苦笑して、レインは片手剣を器用に回し、肩に構える。
このわずかな時間で、すでに片手剣の重さに順応したようだった。
(フッ、化物め)
村の人間は、ローザを天才だと褒めそやした。
では、その天才の手合わせに何年も付き合い続けることのできた彼は、なんと呼ぶ?
少なくとも、凡人でないことはたしかだ。
「相手は剣聖のローザだ。胸を借りるつもりで、こっちも全力で挑むぜ!」
「かかってこい、『元』農家」
煽り、ローザは挑発的な笑みを浮かべる。
ふと。ローザの脳内によぎったのは、先日の国王との『プライベートな話』の末端。
〝――愛国心を示すにあたり、ひとつだけお願いがあります〟
スタッフが入場通路に退避し、カナリエもリングからわずかに距離を取る。
進行役がなにかを熱く叫んだ後、カンッ! と開戦のゴングが鳴り響いた。
〝関係を切る程度では国王さまも安心できないでしょうから、こうさせてください。これなら、国王さまも私の愛国心を信じてくださるかと〟
レインは動かない。昔から変わらない、後の先の戦法だ。
いままでの手合わせでは見られなかった幼なじみの『全力』に、ローザは思わず口角を吊り上げた。喜びと恐怖が混じった笑みだった。
【精霊の加護】を発動後、ローザの髪色が氷のような水色に変化していく。
〝襲名式の場で、レインを殺します〟
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