第20話 王都のNTR
「お待たせっスー!」
程なくして。
店長らしきひとと話していたミルルが、ようやくこちらに戻ってきた。
「事前に店の撮影許可はいただいてたんスけど、あらためて諸々の確認してきたっス! あとはもう、自由に見て回ってもらって大丈夫っスよ!」
「ありがとう――ただ、自由にって言われてもな」
俺は苦笑しながら、広すぎる店内を見回す。
「さっき店員さんにも言ったけど、なにから見ていいものやらって感じなんだよな。魔導フォンを買うときって、なにを優先したらいいものなんだ?」
「お、案件みたいにいい質問っスね!」
カメラの画角に俺を入れ、横並びのツーショット状態で話を続けるミルル。
「まあ、そのひとの使用用途によって変わるっスけど、レインさんは魔導フォンでなにをしたいとかあるんスか?」
配信中だから「さん」付けなんだろうが、なんか慣れないな。
「魔導フォンでしたいことか……」
「魔導ネットをいっぱい見たいとか、通話をたくさんしたいとか、写真や動画をいっぱい撮りたいとか。色々できるっスけど」
「通話もできるのか?」
「もちろんっスよ! さっきちょっと言った、RONEっていうアプリを入れれば無料でいつでも通話できるようになるっスよ。簡単なメールも送れるっスね」
「おお、それは便利だ」
幼少期、ローザと文通ごっこで遊んでいた身からすると、まさに革命的な機能だ。
「じゃあ、俺はそれができるやつがいいかな」
「了解っス! ……と言っても、大抵の魔導フォンはRONEもサクサク動くんで、通話特化ってのはないんスよねー。キャリアごとにあった通話時のノイズも、回線に魔導延石を組み込んだことでほぼ解消されてるし」
「そうなのか。じゃあ、なんでもいいってことか?」
「そうっスね。サングラス型みたいなトリッキーな機種とか、極端に安いロースペック品でもない限りは、なんでもいいんじゃないっスかね。…………あー、えっと」
と。視線を泳がせたかと思うと、ミルルは自撮り棒を傾けて自身の顔をフレームアウト。代わりとばかりに、俺の顔だけを映した。
「も、もしよければ、ウチと同機種の魔導フォンとか、どうっスかね……?」
「ミルルと同じ機種? それって、このカメラに使ってるやつだよな。さっき店員さんにも勧められたな……でも、俺みたいな初心者にはむずかしいんじゃないのか?」
「ぜ、全然! そんなことないっスよ! もしわからなかったらウチが教えるし!」
「おー、頼もしい。じゃあそれにしようかな」
なんでもいいのであれば、下手に選ぶよりミルルと同機種のほうが安心だろう。
「……へへ、おそろだ」
頬をだらしなく緩ませ、配信に載らないほどの小声でつぶやくミルル。
直後、キャロルとローザがなにかに勘付き、勢いよく視線を俺に向けた。
「れ、レイン! キャロルが使ってる魔導フォンもいいわよ! 高機能だし、通話だってラグが少なくてストレスフリーだし!」
「レイン! 王女の戯言に
「団長さま~。それ、そこのテレビのリモコンです~」
「はぅあッ!?」
「……じゃあ、ミルルと同じやつで」
話が進まなそうなのでスパっと決めると、ミルルは「やった」と小さくガッツポーズをした。同機種の仲間が増えて、よほどうれしかったようだ。
うなだれるキャロルとローザの横で、リサが、
「ハァハァ……姉妹同然の相手に先を越される、これが王都のNTRですか……くふぅ、引き裂かれそうなこの痛みが堪らないです~……ハァハァ……ッ!!」
と胸を押さえながらいつも以上に息を荒げていたが、無視した。
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