第24話 ローザとの文通(メール)

 宿屋ビレビハに帰り、オーナーのやさしい味の夕飯をごちそうになると、俺はさっさと風呂を済ませて部屋に戻った。

 慣れないこと続きだったからか、五倍とまでは言わないが、身体も心も疲れていた。

 明かりを消して、ベッドに仰向けに倒れる。

 と。枕元に置いていた魔導フォンがブブッ、と短く震えた。メールだ。


『起きてますか?』


 メールの相手は、ローザだった。

 文通ごっこをしていたときと変わらず、メールでも敬語のようだった。

 ふと。ローザだったら俺のスキルを覚えているかもと考えたが、今日はもう問いただす気力もなかった。

 寝転んだまま、脳死で画面をタップして返信する。


『寝てる』

『ゴメンなさい』


 俺の冗談を真に受けたのか、そこから二分ほどメールが途絶えた。


『いや、寝てたら返信できませんよね? 嘘つき』

『ゴメン。それで、なにか用か?』

『明日も会えるのかなと思って、連絡しました。会えますか?』


 画面から視線をそらし、天井を見つめる。

 ローザと会えなくなるまで実質あと二日。見納めだなんて思いたくはないが、それでも、できるだけ会っておいたほうがいいだろう。


『会えるよ。俺も会いたいと思ってた』


 送ってから、なんか口説いてるみたいだな、と思った。

 でも、訂正する気も起きなかった。気力がなかった、ということにしておく。

 ドン引きでもしていたのか。ローザの返信はすこし遅れて届いた。


『そういうの、ズルいと思います』

『なんかゴメン』

『じゃあ、明日はいつ頃会えますか?』


 午前はミルルとの約束があるから。


『昼ぐらいかな?』

『わかりました。連絡待ってます。おやすみなさい』

『おやすみ。久々に文通ごっこできてうれしかったよ』

『そういうのも、ズルいと思います』

『もう、なんかゴメン。今度こそおやすみ』

『おやすみなさい』


 ローザのその返信を確認して、俺は魔導フォンを枕元に放った。

 会えなくなったら、こうしたメールでのやり取りばかりになるのか。それは、嫌だな。

 存外、ローザよりも俺のほうがさみしがり屋だったのかもしれない。

 原始人は俺のほうだったというオチ。


(……なんで、前よりもローザに会いたくなってんだろ?)


 その理由に――感情に、このときの俺が気づくことはなかった。

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