第15話 昨日ぶりっスね
俺が謂われなきヤリ〇ン認定を受ける、およそ十分前のこと。
野次馬に見つからないよう人混みを避けつつ進み、ようやく騎士団寮舎の正門に繋がる路地にたどり着くと、前方に見覚えのある二人組の背中が見えた。
あの小柄な金髪ツインテールとメイド服は間違いない。キャロルとリサだ。
「おーい! キャロル、リサさーん!」
「え――、なッ……、ちょっとアンターッ!!」
「ぐふぅッ!?」
俺の声に振り返ったキャロルは困惑、驚愕、憤怒と表情を切り替えたあと、腹部に抱きつく形で全力タックルを仕掛けてきたのだった。
「お、おはようキャロル。ナイスタックルだ……リサさんも、おはようございます」
「おはようございます、レインさま~。これまた朝から、罪作りなスキンシップですね~。タックルを仕掛けられた側にもかかわらず、お嬢さまをしっかり受け止めようと両手を広げているところがまた……ハァハァ……」
「おはようレイン! いまちょうど、リサとアンタのことを話してたとこなのよ!」
息を荒げるリサを無視して、キャロルが俺の腹に抱きついたままハシャぎたてる。
「昨日のあれ、ミルルを助けたあの動画! いったいなんなの!?」
「ああ……やっぱ知ってるよな、そりゃあ」
「動画を見つけたとき、思わず声が出ちゃったわよ! ミルルじゃなくて、なんで平民のアンタがこんなに話題になっちゃってるのよ!」
「俺が聞きたいくらいだよ……別におかしなことはなにもしてないはずなのに。もう街を歩くのも億劫になりそうだ」
おかしなこと、と自分で口にして、茶髪男の右手を砕いた常人ならざる力を思いだす。
ミルルを助けた男が怪力だったから話題になった?
その可能性もゼロではないだろうが、力が強いだけの男の個人情報を特定するために、早朝から王都中を駆け巡るだろうか?
「まあ、これだけ注目されちゃうとね……でも、ほんと不思議ね。ミルルを助けたところはカッコよかったけど、それだけでここまで話題になるとは――――、あ」
しまったとばかりに言葉を区切り、抱きつきを解除すると、キャロルは俺から離れた。
「どうした? キャロル」
「ち、ちが、ちがうからッ! いまのは、えっと、言い間違いというか、口が滑っただけというか……と、とにかくちがうんだからッ!!」
「? わかったよ。わかったから、そんな顔真っ赤にして怒らないでくれよ」
「べ、別に赤くないもん!」
「ハァハァ……! 供給過多とはこのことですか~……うぐ、ハァハァハァ……ッ!」
「――あれ?」
ふと。怒るキャロルと興奮するリサ、そのふたりとは別の女性の声が届いた。
俺たち三人は示し合わせたように、声のした方向を見やる。
「昨日ぶりっスね、『ヒーロー』くん」
声の主であるパーカー姿の女性がフードを剥ぎ、その正体を陽の下にさらす。
青髪の女性――トップマチューバーのミルルが、そこにはいた。
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