第30話 精霊との契約

第21周回 3月上旬某日 グランザール大樹海


魔王国は北国であるため、3月はまだ雪深い。

そんな中、30人くらいの魔族の兵士が雪をかき分け枝を払い、道をつくりながら樹海の中を進んでいく。流石に雪深い森の中で道が整備されている訳ではないので、私らも優雅に馬車移動という訳にもいかない。

私やグダンネッラを前に載せたタリアト他部隊長クラスの数人が寒さに強い種の小型竜に騎乗。荷駄用の竜もいるが、ほとんどの兵士は徒歩だ。


樹海内で何度かの野営を繰り返し、グランザール大樹海の奥地まで辿り着いた。稀に兵士達だけでは対処の難しい比較的強力な魔物はアドラブル自らが対処したので、ここまで特に問題は無かった。


樹海の奥地まで辿り着き、森を抜けて視界が開けたかと思えば、そこには神秘的な水をたたえる湖があった。かすかに光る光の粒のようなものがぽわぽわとそこら中に浮いている。これが精霊?


「いや、これらは今回の目的とは違うね。これらは精霊は精霊でも最下級の精霊で、特に自我も無くただそこらを漂っているだけだ。」


と私の心中を読んだかのように答えるグダンネッラ。


「精霊の生態には謎も多いけど、キホケムラに聞けた範囲内では、この最下級精霊が成長したり、最下級精霊同士で合体したり離散を繰り返したりして、段々と成長していくそうだ。もっともキホケムラに最下級精霊時代の記憶はないようだが。」


グダンネッラが少し遠くのあたりを杖で指し示す。


「あれなんかは少し大きいだろう?あの辺が下級精霊だと思われる。中級以上になるともう姿を消して、このように常時見える形では存在しない。常に姿を現しているのはまだ未熟という事らしい。」


グダンネッラの指し示す方向…少し遠くに少し大きな光の塊っぽいのがある。あれがそうか。


「さてと…ここに空の魔石がある。魔石の事はいいね?ん?あまりよく知らない?そうな…兵士達お前たちにも関係するから、作業している者も一旦集まって聞け!」


湖の傍で野営の準備をしている兵士たちも一度集めて、グダンネッラの話を聞くように集める。


「これからするのは魔石の説明だ。この世の中には純度の高い魔力を内蔵した石がある。こんな感じだな。」


とグダンネッラ自身が持ってきた宝石のような魔石と道中の私が倒した魔物から手に入れたちょっと見た目が毒々しい魔石とをそれぞれ取り出して見せた。


「これらはどちらも俗に魔石と呼ばれているが、2つは材質も性質も大きく異なる。こちらは、一般的な宝石と言われるもので天然の物は魔力を内包している事が多い。その他では強力な魔物の体内で結晶化するパターンもある。毒々しい見た目の魔石これはこっちのパターンだな。」

とそれぞれ掲げている魔石の説明をする。


「で、内包した魔力を使い切ると宝石はただの宝石に、魔物の結晶由来の魔石はボロボロに崩れて無くなるのだが、宝石の場合はこのただの宝石に魔力を再度込める事が出来る。

で、ここに空の宝石があるのだが、ここに自身の魔力を込める過程を精霊が豊富な場所で行うと、その魔力を気に入った精霊がいた場合、その魔力が込められた宝石を拠り所として精霊がその魔力の主と行動を共にするようになるというものだ。これを我々は精霊との契約もしくは精霊の加護を受けると言っている。」


ふーん、なるほどね。


「その宝石が破損したり、その宝石から魔力が無くなると、その契約した精霊が直ちにいなくなるというわけではないが、そのまま放置するとそのうち精霊はいなくなる。見失うのか、興味が無くなって離れるのかは分からないが、とにかくいなくなるのだ。我々はこれを加護を失うと言っている。」


拠り所を失うのだから分からない話ではないな。


「どんな精霊が来るかは自身の魔力次第だな。もしかしたら宝石の質でも変わってくるのかもしれないが、そこら辺のはまだまだ研究中で確かな事は分かっていない。一般的に質の高い宝石――純度だったり透明度だったり大きさだったり――の方が高位の精霊と契約できる傾向にあると言われているが、自身の魔力の性質の方が契約できる精霊の行方に占める割合が大きいというのはほぼ分かっているので、宝石の質に関してはそこまで気にしなくていい。」


ふむふむ。兵士のうち何人かはメモをとっている。偉いな。


「で、ここに魔力を使い切った宝石がある。閣下が精霊と契約するためにここに来たのだが、兵士達お前たちもダメ元でやってみるといい。一応沢山持ってきたので、兵士達お前たちもこれだけ…30人もいれば1人くらいは契約できるものもいるかもしれん。もし精霊と契約できたらその宝石代は支払ってもらうが、精霊と契約できるなら十分に元はとれると言えるだろうよ。ダメだった宝石はもちろん返してもらうが、そこで料金は取らないから安心していい。」


そう言って、標準的なビーズ程度の小粒の宝石が沢山入った箱を隊長格に渡し、隊長格から個々の兵士に1つずつ取らせていく。


「あんまり良い宝石だと君らの給料では払えないだろうからな。そこら辺は考慮して極小の宝石にしてある。」


わははと兵士達から笑い声が起こる。

逆に契約出来たものは昇給も約束されている。と隊長から告げられると、おおーという声がおこる。

それを制するようにグダンネッラが話を続ける。


「基本的には、精霊との相性が大事なので頑張れば精霊と契約できるというものではない。それに魔力を込めるというのはなかなか根性がいるし精神力も使う。根本的に相性の良い精霊が近くにいなければどうしようもないのだから、頑張るにしてもここでの任務に支障が出ない程度にな。」


と兵士達に精霊との契約のあり方などを教えている。その後グダンネッラは、タリアトには別の箱――先程兵士に渡したものより幾分大きな宝石が詰まった――を渡してその中から選ばせた。タリアトはその中から、小指の爪程度の黄石トパーズを選んだ。私もそこから選ぼうとしたのだが、グダンネッラはタリアトに渡した箱を片付けた。そして、私には今まで皆に渡してきたものより明らかに大きな透明度の高い青石サファイアを渡してきた。赤子の握りこぶしくらいあるかな?これ結構高そう。


「閣下のは見た目的にも流石にこのあたりの良い物を使っていただかねばなりません…というのは建前で、閣下が契約に苦戦するといつまで経っても終わりませんので、その可能性を少しでも低くするためにも少しでも良い宝石を使ってもらう…といったところです。」


兵士達の前だからか、私に対してちゃんとした言葉遣い…こやつTPOをわきまえておる。しかしあれだな、言葉遣いは丁寧だが、話してる内容は結構酷いぞ。

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